BILLION DOLLAR BABIES アリス・クーパー | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-Jan23AliceCooperBillion


◎BILLION DOLLAR BABIES

▼ビリオン・ダラー・ベイビーズ

☆Alice Cooper

★アリス・クーパー

released in 1973

CD-0190 2012/1/23


 アリス・クーパー6枚目のアルバムにして1970年代ロックの大傑作アルバム。


 アリス・クーパーを好きという人に僕は会ったことがありません、実生活でもネットでも、ただしいつものように弟は除いて。

 日本では人気がないのかな、どうだろう、でも昔はそこそこ人気があったのかなと想像しているんだけど。


 以前、マーティ・フリードマンが司会をしていたロックの番組にクリス・ペプラーがゲストで出ていて、彼はアリス・クーパーが大好きでアリス・クーパーのバンドに入ってベースをやりたいと真剣に思って練習をしていたと話していて、僕は彼のイメージと少し違いとても意外に思いました。

 マーティとセッションをしてベースの腕前を披露していましたが普通に上手くて、僕はクリス・ペプラーはJ-WAVE時代によく声を聞いていたけど好きでも嫌いでもなかったのが、少し好きになりました。

 クリス・ペプラーは純粋な日本人とは言い難いけど(母が日本人だそうで)、でも、僕が知っている限り、アリス・クーパーが大好きという日本人は彼だけです、今のところ。


 何がそうさせるんだろう。

 

 それを考えるときりがないので、今回はあえてそこには触れないで進めます。

 

 なんといってもこのアルバムはジャンルも何も関係なく純粋に素晴らしくて、アリス・クーパーの中でも色眼鏡なしで聴ける1枚だから。


 アリス・クーパーは「シアトリカル・ロック」などと言われていますが、劇的な要素を歌詞にも音にも織り込んだ見せるロックということなのでしょう。

 だからほんとは音楽だけではなく舞台の様子を見てなんぼかもしれないけど、でもひとまず音楽だから音楽だけでみて聴いてゆきます。

 曲の流れが劇的であり、ギターの音がそれを支えている、そんな音楽です。



 しかし「シアトリカル・ロック」なる言葉は他では聞いたことがないので、ジャンルというよりはアリス・クーパーの音楽を形容したものということになるのでしょうね。

 本質的にはハードロック寸前のギターがハードなロックですが、ハードロックにカテゴラライズされていないところが日本では人気がない理由のひとつかもしれない。

 なんせ日本では、ハードロック・ヘヴィメタルであれば扱いがぐんと違ってきますからね。


 しかしただひとりのためにそのような言葉が作られるというのは、アリス・クーパーが個性的で素晴らしい音楽を作ったということでしょう。

 そしてこのアルバムでは「シアトリカル・ロック」が頂点を極めます。 


 なんといっても素晴らしい歌ばかり。


 アルバムタイトルを見るとコンセプトアルバムかと思うけど、実際はそうでもないかな。

 "Billion dollar babies"という言葉が表題曲の他もう1曲にも出てくるけど、それ以外は特に直接的に関係はないことを歌っていると思われます。

 関係ないというよりは、普通の人間心理ですね。


 コンセプトがあるとするならそれは、「10億ドルの赤ん坊たち」というのはとりもなおさず大スターになったアリス・クーパー自身の投影像であり、アリス・クーパーがアリス・クーパーらしく歌うこと自体によってコンセプトアルバムとして成り立っている解釈してもいいのかもしれません。

 つまりはアリス・クーパーの音楽がここで頂点に達したということです。

 アルバムは見事No.1を獲得、まさに「シアトリカル・ロック」が最も輝いていた瞬間がこのアルバム。


 1曲目Hello, Hoorayは堂々とした響きの大がかりなギターのイントロで始まってもう数秒で心が掴まれます。

 アリス・クーパーもギターリフがいい曲が多いバンドのひとつだと思います。

 ギターを受けたヴォーカルは元気なかけ声としょぼくれた低音が入り混じって曲が劇情的に流れていきます。

 この曲はジュディ・コリンズのカバーで、彼女はおとなしくて繊細なフォーク系のシンガー・ソングライターだけど、このミスマッチ感覚が曲に一層の劇性を与えていると思います。

 オリジナルがうちにCDがあるので聴いてみましたが、Aメロは同じ曲とは思えないけどBメロはそのまま派手に歌っているだけという感じでした。

 しかしジュディ・コリンズもこれを聴いて驚いただろうな、うれしかったのかな。


 2曲目Raped And Freezin'はこれがアリス・クーパーの標準という感じのミドルテンポの曲。

 最後のほうでサンバのリズムになるのが面白く、また時代を感じる部分です。

 

 3曲目Electedは、"party"という単語が、人が集まって楽しく過ごす「パーティ」という意味と「政党」という意味があることにかけた面白い歌詞で、自分であればこの"party"を最大級に楽しくすることができると宣言しています。

 これもギターリフが最高で、ガラスが割れるような音で始まり、一度低音に潜った音がだんだんとせりあがって大きく動くギターリフはまさに劇的で最高にカッコいい。

 サビでタイトルの言葉を叫ぶところは少し暗くなるんだけど、アリス・クーパーの音楽は明るいままで終わらないのも特徴のひとつでしょう。

 余計なお世話だけど、これ、日本人が歌う場合は発音をしっかりしないと、意味をはき違えて大変なことになりそう・・・

 

 4曲目が表題曲Billion Dollar Babies、ドラムスだけで始まって単音で煽るようなギターが入り、そこにやはり単音のギターが重なってやがてハーモニーになるのはやはりカッコいい。

 この曲は声が面白い。

 アリス・クーパーとしての普通の声は作っている声であることが分かって、だいたいはその声で歌うけど、途中でちょっとカッコよくて渋い声がコーラスというか語りとして入り、それがアリス・クーパーと呼ばれる人物の地声なのだと思う。

 さらには2番のAメロを歌っていく中で突然声が高くなり、歌手としてこれでいいのかという絞り出すような情けない声になりますが、それがまた効果的でもあります。

 今でもこの声は出せるのかな。

 ギターソロがなんだかエキゾティックかつエロティックな感じで、怪しげな曲ですね。

 フェイドアウト部分で、最初は"Billion dollar babies"と歌っていたのが"Trillion"になり"Zillion"になって桁が上がっていくのが面白い。

 

 5曲目Unfinished Sweetは歌よりも演奏部分が長く、その中に007のテーマのような部分が織り込まれていて、演奏で聴かせる彼らにはやや珍しいタイプの曲。

 

 そして6曲目No More Mr. Nice Guy。

 これは個人的に好きな70年代ロックチューンの50位には余裕で入るくらいに大好きな曲。

 いや、これはもう何も言えないくらいとにかく歌メロがいいしカウンターで入るギターの切れ味鋭くカッコいい。

 アリス・クーパーの曲じゃなければもっともっともてはやされたんじゃないかと思うくらい(笑)。

 この曲に限っては「寸前」を突き抜けてシンプルなハードロックであるのもまたいい。

 メガデスがカバーしていたことがそれを裏付けています。


 7曲目Generation Landslideは"Billion Dollar Babies"と歌詞に入っていて表題曲のアンサーソングとして解釈できます。

 「世代の地すべり」というのは、若者でも大金持ちになれるということなのかな。

 全体的にリズムが躍っていて、2曲目のサンバとともにリズムにも工夫を凝らしているのが分かります。

 ハーモニカも入って楽しい曲ですね。

 そして何より「だらっだっだらぁ~」という部分は聴くとどうしても口ずさんでしまう(笑)。


 8曲目Sick Thingは歌というよりは朗読のような重たい響き、9曲目Mary Annはピアノをバックにアリス・クーパーなりに感傷的に歌うどこか懐かしい響きのバラード。

 最後10曲目I Love The Deadは冷たいサウンドのやはり朗読のような曲でホラー的なサウンドも入り、でもサビの歌メロは暗い先に明るいものを感じないでもない響き。

 最後3曲はぐんと落ち着いて、なにか不安を感じさせながらアルバムが終わります。

 7曲目まではひたすら明るく楽しいポップソングを聴かせてきたのにこの終わり方。

 僕は、お金持ちになったからといって人間の心を忘れてはいけない、というメッセージと受け止めました。


 僕もアリス・クーパーを聴くようになったのはまだ10年かそこら前からですが、最初に買ったベスト盤にこのアルバムから5曲が入っていたと書けば、このアルバムがいかに充実したいい曲が揃っているかが分かります。

 70年代の好きなアルバム30枚には入るくらいに僕は大好きです。



 ところで最後に余談。

 森永にIce Guyというアイスがありますが、それはきっとNo More Mr. Nice Guyから取ったんじゃないかなって勝手に思っています。

 「パピコ」みたいなビンの形のビニールにアイスが入ったものですが、パッケージはICE GUYと英語がわざわざ目立つようになっているのもそう感じさせるところ。

 ほんとにそうだとすれば、それはアリス・クーパーと日本との数少ない結びつきであり、それが音楽ではなく日常生活の中にあるのが面白いですね。

 名前をつけた人は、逆に知名度の低さを利用したのかもしれません。


 僕がスーパーやコンビニでその「アイス・ガイ」を見るとその瞬間、No More Mr. Nice Guyが閃光のように頭の中に浮かび、下手すると声を出して歌いそうになってしまうのは、言うまでもありません(笑)。