CHICAGO 16 シカゴ | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-Jan16Chicago16


◎CHICAGO 16

▼ラヴ・ミー・トゥモロー(シカゴ16)

☆Chicago

★シカゴ

released in 1982

CD-0187 2012/1/16


 シカゴは分かりやすい、これは16枚目のアルバム。


 でもこのアルバムは「ラヴ・ミー・トゥモロー」という邦題がつけられました。

 それはひとえに、Hard To Say I'm Sorryという大ヒット曲が収録されているからでしょうね。

 順序としては日本でこのアルバムが出た後でその曲が全米No.1になったのだと思うのですが、しかし前段階でこれはいけると手応えを感じた日本のレコード会社のスタッフがセールスに力を入れるべく邦題をつけたのかなと思います。

 ただ、もしHard To Say I'm Sorryが売れた後にアルバムが出るのであれば、その曲の邦題をアルバムのタイトルにつけるはずですが、ここではもうひとつのヒット曲であるLove Me Tomorrowからとられています。

 またシカゴはこの前の15枚目で初めてゴールドディスクを逃していたため、邦題をつけたのは再起という意味も込められたのでしょうね。


 Hard To Say I'm Sorryは僕がビートルズ以外の洋楽を聴き始めた頃にちょうどNo.1ヒットになっていて、僕にとって思い出も思い入れも深い曲です。

 こんなに素晴らしい曲がざらにあるんだって、洋楽の世界の広さと奥深さを学んだ、それがこの曲です。

 ただしそれは半分思い過ごしで、確かにとってもいい曲は洋楽にはざらにありますが、でも、この曲ほど素晴らしい曲はやっぱり洋楽の中でもざらにはないでしょう。

 だから僕は、入り口でこの先に広がることを予見させられたのではなく、入り口でいきなり最果てを見せられたがために余計に洋楽という世界の大きさを知ったのかもしれません。


 「素直になれなくて」という邦題もとっても素晴らしい。

 僕が好きな洋楽の邦題では断然No.1であって、僕は日常会話でも洋楽の曲は英語の原題で話していますが、この曲は日常的に邦題を言う数少ない例のひとつです。

 まあ冗談で時々Walk This Wayを「お説教」と言ったりしますが(笑)、でもそれはあくまでも冗談の範疇です。


 僕は先月、「1980年代ロックの傑作10曲を決めてみた」 という記事を本家BLOGで上げました。

 ご興味があるかたは上記の記事のタイトルがリンクになっていますのでそちらをご覧ください。

 あくまでも独断と偏見で1980年代の傑作10曲を決めたのですが、「素直になれなくて」もその中の1曲に選びました。 

 1980年代はリアルタイムなので体験的な要素も入っているのですが、この曲は真っ先に選んだ1曲で記事を書いた時点では何の迷いも曇りもありませんでした。

 ただし、少し後になって、「ロック」という点ではもしかして引っかかる人が意外といらっしゃるかもしれないと思いました。

 それはロックのそもそもにこだわればということで、この曲は言ってみれば売れるために安全志向に入っているともとれるし、売れるために外部の作曲家であるデヴィッド・フォスターを迎え入れているなど、ロックの精神に反するものがあるのかなと思ってのことでした。


 しかし「素直になれなくて」は、そうした細かい文句をすべて圧殺できるようなきわめて高いクオリティの曲であることには誰も異論はないのではないかと思い直しました。

 少なくとも僕は、この曲を好きではないという人とは仲良くなれない自信があります(笑)。

 名曲という言葉がこれほどまでにふさわしい曲も、そうはないと思い、やはり10曲に選んでよかった。


 ただし、この曲のヒットの後で、エアロスミス、ボン・ジョヴィ、デフ・レパードなど例を挙げたのはハードロック・ヘヴィメタル系ですが、ロックのバンドが外部の作曲者を起用して売れることがひとつの流れとなっていきましたが、そういう点では、皮肉にもというか、このアルバムのシカゴはむしろ時代の先を行っていたと言えるのかもしれません。


 などと大絶賛していますが、でも当時中3だった僕はこの曲はエアチェックをしたカセットテープを聴くだけで、ドーナツ盤もLPも買うことはありませんでした。

 このアルバムの頃はまだタワーレコード札幌店の存在を知らなくて輸入盤を買っていなかったのも理由の一つで、もし知っていればドーナツ盤は買っていたと思います。

 この曲の音源が初めて家に来たのは大学時代に買ったベスト盤のCDが初めてで、その頃はそろそろ10代に聴いた80年代の音楽が懐かしいと素直に言えるようになった頃でした。


 ましてやこのアルバムを聴いたのなんて、自慢じゃないけどまだ5年くらい前ですよ(笑)。

 今聴いているこのCDが初めてです。

 

 アルバムを聴いて、やっぱり「素直になれなくて」だけは存在感が違う、違い過ぎると思いました。

 正直言うと、1曲を除いて、アルバムを聴いていると他の曲はさらりと流れていってしまい、この曲に達したところで心がぴたりと止まります。

 他の曲はサウンドがとても心地よくて、それは並のレベルじゃないくらいで、だから余計にさらっと流れて行ってしまう感じがします。

 ロック的じゃないというか、BGMに近いような感じ。

 ただそれは急にそうなったのではなく、「ブラスロック」と呼ばれたシカゴが長年培ってきたサウンドの80年代版であるのは、前期のアルバムを聴いて感じたことで、それは決して悪いことばかりでもないと思います。

 

 うがった見方をすれば、このアルバムはひとえに「素直になれなくて」を生かすために他の曲は捨て駒のようになっているのかもしれない、と、ちょっと思いました。

 曲の作り方はいろいろあると思うけど、「素直になれなくて」はとにかく旋律の良さつまり歌メロから作っていったのが、他は全体のサウンド重視で組み立てて歌メロはその間を縫うように流れていけばいいという感じ。


 それはそれでアルバムとしてはひとつの見識だと僕は思います。

 すべてが緊張感が漂ったいい曲というアルバムは、聴き手の気持ちが入っている時はこれ以上ないくらいに手応えがいいけど、ちょっと聴きたいという時や気が向かない時はただ疲れるだけだと思います。

 断っておきますが、アルバムとしてそこそこ以上にいいと思いますよ。


 ひとつだけ思ったのは、前半がスウィングっぽい感じでまとめられていて、このアルバムから10年以上が経ってスウィングが流行って定着しましたが、シカゴのこのアルバムのサウンドはスウィングのブームを予見したものと言えるのかもしれないということです。

 でもしかし他は無難にまとめた普通のポップロックという曲なので、このアルバムやシカゴがスウィングという言われ方はしないと思いますが、70年代に独自のサウンドを確立させた矜持のようなものを感じます。

 ただしシカゴ自身も意識はあったのか、ずっとずっと後に正真正銘スウィングのアルバムを出していましたが。

 

 先ほど1曲を除いてと書いた曲がLove Me Tomorrow、これもとってもいい曲ですね。

 さすがに「素直になれなくて」にも負けないとは言わないけれど、もし「素直になれなくて」がこのアルバムに入っていなくても、これでも目玉にはなるかなくらいの「普通に素晴らしい洋楽」の曲だと思います。

 邦題に関して、もしかして担当者は最初はむしろこちらが売れると思って「ラヴ・ミートゥモロー」という邦題にしたのかな、だから「素直になれなくて」の大ヒットは想定外だった、とか。 

 あるいは単にアメリカのレコード会社にこちらを押されたのかもしれないですが。

 Love Me Tomorrowはガラスが割れるような激しいギターの音で始まって、何か心がかき乱されるように展開しつつ、サビではほっとする美しい歌メロでまとめるというバラード。

 サビに入るピーター・セテラのベースが何気に気に入っています。

 そしてこの曲は「素直になれなくて」があるからこそ名脇役的に輝いているともいえるでしょうね。


 とどのつまり、このアルバムは「素直になれなくて」があるからいいと思うのでしょう、それは否定しません。

 アルバムにもいろいろあって、80%の曲が10曲のアルバムもあれば1曲が100%だけど残り9曲は65%というアルバムもあるわけで、そのどちらが好きかはその人次第。

 いや、僕はそのどちらも好きなものは好きなので、その人その時の気分次第ということでしょうね。


  

 ともあれ、「素直になれなくて」のような名曲がこの世の中に存在するというのは、洋楽聴きとしては幸せだなとずっと思ってきたし、今でもいつも思うし、この先の人生でもそう思うに違いないのでした。


 この曲について語り出すと切がないので、そろそろやめておきます。

 一応、このBLOGは、短くアルバムを語るという趣旨で続けているので(笑)。