◎TOO LONG IN EXILE
▼トゥ・ロング・イン・エクサイル
☆Van Morrison
★ヴァン・モリソン
released in 1993
CD-0185 2012/1/11
Van Morrison-02
ヴァン・モリソン22枚目のスタジオアルバム。
僕はヴァン・モリソンが大好き。
と少し前に記事にしたばかりですが、ヴァン・モリソンは気が向いたら少しずつ記事にしてゆきますとそこで書きました。
あの日から、まるでその記事が呼び水になったかのように、年末年始にブックオフで立て続けに3枚のヴァン・モリソンの中古CDを見つけ、その勢いで(なぜか)新品も1枚買いました。
今日はその中からこのアルバムについて話します。
ヴァン・モリソンはヴァン・モリソンだから基本的にどのアルバムでも変わらない、だから書くことがなくて困ると書きましたが、でももちろんヴァン・モリソンだって人間だから、むしろ音楽を生業としている人の中でもとりわけ人間らしい人間だと思うから、もちろんアルバムごとに違いはあります。
ヴァン・モリソンを聴くこつのひとつは、その時の精神状態や気持ちのあり方を考えて想像しながら聴くことだと思います。
こつというか、楽しみですね、こつなんて書くとまるで教条主義的ですね、失礼しました。
このアルバムは、ヴァン・モリソンがソロになって四半世紀が過ぎた頃に制作されました。
「ならず者としてもうずいぶんと長い」というタイトルに込められた意味、売れる売れないに関係なく自分の音楽を続けてきたという自負が強く感じられます。
また、CDという新しい時代を迎えて、新しい媒体に挑戦する意欲、その中で聴いても自分の音楽は時代に遅れているわけではないという自信も感じられます。
注目すべきはゼム時代の名曲でジミ・ヘンドリックスのカバーでも有名な、というよりもむしろそれで有名なGloriaを再演していることでしょう。
これはとりもなおさず、CDという新しい媒体により若い人が古い音楽を聴く機会が飛躍的に増えたところで、これは(ジミヘンではなく)僕の歌なんだよと宣言しているように思えます。
CDが普及した頃は、旧譜再発が新しい商品として若い人に受け入れられるようになっていて、僕もまだ若かったのでそこが楽しくて古い音楽をよく聴くようになったものです。
さすがにこの再演は名刺代わりにささっと軽く演奏されていて、そこにヴァン・モリソンの深さと長さを感じます。
この曲にはブルーズ界の大御所ジョン・リー・フッカーが参加していてヴォーカルとギターを担当していますが、自分の曲に先輩を招いてしまうのはある意味大胆、でもそれもヴァン・モリソンなら納得。
ジョン・リー・フッカーはWasted Yearsでも歌っていますが、声が若々しくて、少なくともヴァン・モリソンよりはきれいですね。
注目はもう1曲、ブルーズのスタンダードであるGood Morning Little School Girlをカバーしていますが、これはヴァン・モリソン自体のルーツを記したいと同時に、より古い音楽にも注目を向けてほしいというメッセージと受け取りました。
ヴァン・モリソンはブルー・アイド・ソウルと言われますが、本物のブルーズをやるとあまり(まるで?)ブルージーではないのは興味深いところ。
こちらにもゲストがいますが、なんとというか、キャンディ・ダルファーがサックスで参加しています。
それを知って僕は、ヴァン・モリソンもああ見えてなかなかやるなあ、となぜか思ってしまいましたが、やっぱり音楽に携わるものとしては新しい要素を取り入れたくなるのでしょうね。
彼女は他にも表題曲とIn The Forest、Before The World Was Madeに参加しています。
キャンディ・ダルファーはMTVでよく見ていて(きれいな人だなと思いながら)音楽を耳にしていたけどCDを買おうと思ったことはなくて、でもここで僕とつながりができたので、中古を探して聴いてみたくなりました。
カバー曲では他にLonely Avenue、これはブックレットに作曲者がDoc Pomusとなっていますがどこかで聴いたことがあると思ってwikipediaで調べると、そうか、レイ・チャールズが歌っているのを聴いたんだ。
I'll Take Care Of Youはブルック・ベントン作曲でブルー・ブランドの歌として世に出たということですが、僕はオリジナルは聴いたことがないけど、渋いですね。
同じ単語を繰り返す得意技を披露しているけど、オリジナルはきっとそうじゃないと思う(笑)、だからオリジナルを聴いてみたくなりました。
とまあカバー曲がいつになく多いですが、それもCDの時代を意識してのことではないかと思います。
そしてこのアルバムがもうひとつ時代を強く意識いている点、それは収録時間が77分強あることです。
CDが普及した当時は時間の制約がLP1枚よりも長くなり、60分以上あるアルバムがむしろ普通というくらいにたくさん出てきましたね、50分台だと短いというくらいに。
ただ、長いアルバムをだれずに聴かせ続けるのは難しいということで、90年代半ば頃からだんだんとまた40分台のものが増えてきて、今は逆に60分以上あるアルバムは少なくなっていますね。
このCDは78分というのが味噌で、CDは最初は収録時間が74分までと言われていましたが、その後の技術革新で80分まで収録可能となり、このアルバムはそれにも応えているわけです。
ただしヴァン・モリソンはこの前のアルバムはCDでも2枚組で長かったのですが、それは当時は創作意欲が高くてたくさん曲が作れたということでしょう。
つまり当時の彼は、前に進む気持ちがある上に作曲家としても意欲が高くて、音楽家としては充実した精神状態だったのだと思います。
このアルバムはだから、聴いていても心強いものを感じます。
精神状態が強い上に日寄ってもいない、昔ながらのことをしているんだけど、でも時代にはちゃんと反応して生きている。
ある意味、人間としてあるべき姿が音楽として刻みこまれていて、そこに僕は強く反応してしまいます。
だからこれを聴いていると僕も前向きになれますね。
とはいってもやっぱりヴァン・モリソンはヴァン・モリソンですね(笑)。
全体的にはリズム&ブルーズ色がちょっと濃いかな、という感じはするけどジャズっぽい曲もあるし、ハーモニカが入った曲も多いし、そこはもう安心して聴けます。
ヴァイブラフォンが入った曲があってそれがまたいい響きですね。
ああヴァン・モリソンを聴いているんだなというヨロコビにひたることができます。
ほんと、僕には時々帰ってくる場所のひとつ、それがヴァン・モリソンですね。
ところで、表題曲Too Long In Exileについて、ヴァン・モリソンはここでは"exile"を「エク「サ」イル」と濁らずに発音しています。
いつものリーダース英和辞典で発音を見ると、濁るほうが先に書いてありますが濁らないほうもちゃんと載っていました。
なのでこの記事のアルバムの日本語タイトルもヴァン・モリソンの発音にならって「エクサイル」と書いています。
ちなみにCDについて余談、ヴァン・モリソンに限らずですが、1990年代前半までの中古CDを買うと音が小さいことが多いのですが、これは普通に聴けるレベルの音の大きさで、この頃からCDの音が大きくなってきたのかなと思いました。
リマスター盤というものが出始めたのも確かこの辺りからで、CDの音質について真剣に考えられるようになったのかもしれません。
このアルバムはジャケットが古い映画のようで素敵ですね。
「フレンチ・コネクション」でこんなシーンがなかったかなって思ったけど、あれは古いというほど古くないしカラーだったな、まあいいか。
とっても雰囲気があってヴァン・モリソンの中でも特に大好きなジャケットです。
実はこのアルバム、新譜として出た頃にCD店の店頭でジャケットをよく見ていて印象に残っていたのですが、26歳だった当時はまだヴァン・モリソンを聴くには若過ぎると勝手に決めつけていて買わなかったのです。
ブックオフでこのジャケットを見た瞬間、懐かしいという思いもこみ上げてきました。
だから僕には二重に懐かしい感じがするジャケットですね。
まあ、でも、いつも言いますが、音楽には人それぞれ聴くタイミングがあると思うので、当時ではなく今こうして聴くのはよかったのでしょう。
いいなぁ、やっぱりいいなぁ、ヴァン・モリソンはほんとうに。
さて、次はいつ、どのアルバムを記事にするかな(笑)。