◎LAUGHING DOWN CRYING
▼ラフィング・ダウン・クライイング
☆Daryl Hall
★ダリル・ホール
released in 2011
CD-0153 2011/11/1
Daryl Hall-03
ダリル・ホールの新譜の記事です。
結果としてダリル・ホールの記事が2つ続いてしまいましたが、ほんとうは昨日まったく別のアーティストの記事を上げるつもりが、時間がなくて断念しました。
昨日上げるつもりだったものは、また来年上げようと思います、なぜかといえば、昨日、のことですから(笑)。
能書きはともかく、ダリル・ホールの新譜がとってもいい!
前作をようやく買ってとっても気に入ったと書きましたが、それから15年、ダリル・ホールはこう変わったかというのが第一印象。
前作はホール&オーツ色が濃く出ていたというか明らかに意識して作ったように感じました。
もちろんそれはそれでよくて、僕が聴き育った80年代的手法を90年代のまろやかな音に乗せることに成功していて、今年初めて買って聴いた旧譜でいちばんいいかもしれないというくらいに気に入ったのです、それでよかったのです。
しかしこの新譜はあまりH&Oっぽいとは感じません。
H&Oよりはだいぶ音がソリッドで、全体的にはまろやかというよりは鋭角的に響いてきます。
しかしその音は深みとコクがあってずっしりとした響きで、骨太の筋が通ったロックを聴いたなという実感にひたります。
これは正直意外、年を取ったこともあってもっとソフトな路線でくるのかなと想像していたから。
もちろんハードロックだとかそういう次元の話じゃないんだけど、年をとると角がとれてまろやかになってソフトになるだけじゃない、こうした枯れ方もあるんだと主張しているように感じます。
実際にギターの音の鋭さは心に頭に突き刺さってきます。
ダリルは声も衰えないですね。
最初に聴いてまったく声の印象が変わらないし、そこがまた音が鋭く強く響いてくる部分です。
彼のハイトーンヴォイスは元々あまり無理して歌っていたのではなく自然なものだったということなのかな。
曲も今回もまた粒揃いだけど、前作のようなつかみが大きい曲はさすがに減ってきていますね。
この部分では15年が経ったことを感じます。
ただし、シングルとして大ヒットするようなインパクトが大きな曲がないというだけで、まあシングルについては時代が変わったことも考慮に入れなければいけないと思いつつですが、どの曲も深みがあるし自然と流れているし気持ちが伝わってくる、アルバムの中の曲としてはとってもいい曲ばかり。
作曲についてよく「才能が枯れた」という表現が使われますが、それがもし「シングルとして売れる曲が書けなくなった」というのであれば、或いはダリルはそれに当たるかもしれません。
でも、それ以前の問題として「いいと思える曲が書けなくなった」というのであれば、ダリルはまったく才能が枯れていないと僕は思います。
しかし作曲についても、才能とひとくくりで書いてしまったけど、ダリル・ホールはそれ以上に努力の部分が大きい人じゃないかなと思います。
ホール&オーツはデビュー後割と早いうちに大ヒット曲が出てしまい、しかしそこですぐにトップスターとはならずに紆余曲折を経て80年代に真のトップスターになりました。
若い頃の大ヒット曲は、こういう言い方は何だけど「まぐれ」のようなもので、下手するとそこで終わっていたかもしれません。
しかし彼らは意欲があって伸びしろが大きかったので、その後暫くはあまり売れない、といってまったく売れなかったわけではないけど、そんな時代にいろいろとノウハウを蓄えて成長していったことが80年代に結実したのでしょう。
ダリル・ホールは、どうすれば曲が魅力的に聴こえるかについて学んだことが体にしみこんでいて、それは年を取っても衰えない部分だからずっといい曲を聴かせることができるんじゃないかなって。
だから今では体から湧き出るような自然な響きの曲がアルバムには並んでいます。
曲を幾つか、1曲目Laughing Down Cryingは表題曲だけあってここに僕が書いてきたダリルの姿勢、決してまろやかなだけではなく強く枯れてゆくという決意を示したようなほどよい心地よさと強さの曲。
「笑い倒れて泣き崩れる」、とでもいうのかな、いろいろな経験をしてきた人でしょうからね(笑)。
2曲目Talking To You (Is Like Talking To Myself)、これいいですね。
まさに呼びかけるようなサビの歌メロとダリルの歌い方はぐっと胸に響いてきます。
()の副題がまた意味深で、何かちょっと寂しげだけどそこを乗り越えて元気を出そうというポジティヴな響きの曲。
と思ったところで4曲目のEyes For You(Ain't No Doubt About It)、おやおや、打ち込みのリズムにぴらぴらとしたキーボードの装飾音、これはまるでI Can't Go For That (No Can Do)そのものだ。
こういう茶目っ気もまたいいですね、昔ながらのファンの心もくすぐられます。
9曲目Crash And Burnは必殺系の心にしみるバラード風の曲。
ほんとうにダリルはこのスタイルがうまいし聴かせてくれる。
広がりと深みがあるこれは名曲候補といっていい1曲。
このアルバムの曲はほんとうに自然に心に頭に響いてきて、いい音楽を聴いているなと心の底から思える、そんなアルバムだと思います。
そしてこのアルバムのダリルはなんだか英雄的であり、カッコいいアルバムともいえますね。
そうです、カッコいい、年を取ってますますカッコよくなった、それですね、音の鋭さと強さがそれを強調しています。
ただひとつだけ、僕にはちょっとした不満が。
ジャケットのデザイン、この写真自体はカッコいいんですが、アルバムのジャケットとしてはもうひとつ力が入っていない感じがして、宣材写真をそのまま使ったみたいなところがどうなのかなって。
まあしかしそれも音楽が素晴らしい上での小さなことですが。
前作は結果として新譜への期待を増したことになったので、ますます当時ではなく今買ってよかったと思いました(笑)。
それにしても、どうしてリリースが遅れたんだろう。
別にボーナスディスクがついているわけでもないのに。
まあ、いいか。
こうして出て素晴らしい音楽を聴かせてくれたのだから。
当面の僕のヘヴィローテーションに決まりの1枚!