SUMMER SIDE OF LIFE ゴードン・ライトフット | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森1日1枚-Oct27GordonLightfoot


◎SUMMER SIDE OF LIFE

▼サマー・サイド・オブ・ライフ

☆Gordon Lightfoot

★ゴードン・ライトフット

released in 1971

CD-0151 2011/10/27


 「カナダの吟遊詩人」といわれるゴードン・ライトフット7枚目のアルバム。


 1960年代末から70年代前半は空前の「シンガー・ソングライター」のブームであったことは、洋楽聴きなら多くの人が知っているかと思います。

 ロックが大きくなりすぎて作り物っぽくなりすぎてしまい、さらにベトナム戦争で世の中に厭世的なムードが広まる中、アコースティック・ギターやピアノの簡素な演奏をバックに個人の思いを落ち着いた歌にのせて綴ってゆくスタイルの「シンガー・ソングライター」たちの音楽が、社会現象と言えるまでに受け入れられ広まった時期があったことを。


 本題の前に、ジョン・レノンもポール・マッカートニーもビリー・ジョエルも広い意味ではシンガー・ソングライターではあるけど、ここでは「」つきの「シンガー・ソングライター」はその時代の音楽として狭い意味で使っています。


 カナダ出身のゴードン・ライトフットも「シンガー・ソングライター」の文脈で語られる人としてずっと意識はしていて、ベスト盤を1枚買いましたが、その時は穏やかであまり抑揚がない音楽かなというくらいで終わってしまいました。

 なぜ買ったかというと、当時たまたまこの人の曲SundownがビルボードのシングルチャートでNo.1になっていたことを知り興味が出たからでした。

 でもきっかけとしてそれは少し弱かったのかもしれません、僕自身のせいですが。

 

 「シンガー・ソングライター」の曲はおしなべて聴き手の心をかき乱したり煽ったりするような大仰な曲ではなく、心の隙間に入り込むようなきめ細かさを持った曲だと思います。

 それはエンターティメント性が低いというか意図的に排除した音楽ともいえ、一発で気に入るというよりは聴き込んで味が出てくる曲。

 だから当時の「シンガー・ソングライター」系の曲を今聴くと、えっこんな曲が大ヒットしたんだと思うことがよくあります。

 ゴードン・ライトフットのベスト盤を買った時期の僕はそこに引っ掛かったのでした。

 でも、ひとまず僕がここで言いたいのは、音楽の質としての良し悪しではなく、時代の力というのはやはり音楽の世界では影響力が大きいのは確かだということです。

 

 まあしかしベスト盤とはいえ一度CDを買った人だからそれからは心の中の「シンガー・ソングライター」のコーナーにずっと居ついている人ではありました。

 

 それが一昨日、タワーレコード札幌PIVOT店に寄ったところ、50%OFFセールのワゴンの中にこれがあるのを見つけたので買いました。

 とってもよかった。

 僕はもちろんというか今ではほとんどのCDをより安いネットで買っていますが、でも新品でもセール品でも中古でも、実際に見て感じて買うという楽しみは持ち続たいですね。


 「シンガー・ソングライター」の曲はつかみが強くないのでなんとなく聴いているとなんとなく過ぎてしまうことが往々にしてありますが、一昨日は自分の気持ちがそちらに向いていたようで、最初からこれはとってもいいと感じました。

 

 しかし、どういいかというのを説明するのが難しい。

 強いていえば、これぞ「シンガー・ソングライター」を聴く楽しみ、といったところかな。


 まあそれじゃ話にならないので(笑)、純粋に思ったことをとっ散らかった印象でもいいから話すとします。

 

 音楽に俗っぽさがないというか、品がよく、もちろん落ち着いていて厳かさがあるように感じました。


 ゴードン・ライトフットの声はいかにもアメリカやカナダの片田舎の青年らしい少し高い声で、輪郭がはっきりしていて生真面目にきっちりと言葉を歌にのせているように響き、とっても聴きやすくて気に入りました。 


 曲はサビの歌メロが印象に残るものが多くて、これは僕には意外なことだったんだけど、歌としてかなりいいです。


 1曲目の10 Degrees & Getting Colder、ギターのアルペジオがフェイドインして始まるフォークタッチの曲。

 「10度になり寒くなってきたね」と歌うこの歌の「10度」というのはアメリカだから華氏なのかなと思って調べると「華氏10度」は「摂氏マイナス12.2度」、それじゃ「寒くなってきた」なんてもんじゃないぞ(笑)。

 そうかカナダは摂氏を使っているんだな。

 「10度になり寒くなってきた」というのは日本人には分かりやすいし、まさにこちらでは今の頃がそんな感じ。

 

 2曲目Miguelは落ち着いたヴァースからサビがもわっと盛り上がってすっと下がる感じがいい。


 3曲目Go My Wayはアップテンポの軽やかなフォーク。


 4曲目が表題曲Summer Side Of Life。

 全体的に気持ちが上のほうにある感じでゴードンも声を張り上げて歌っていて、歌としてはこの中でもやはり目立つ曲ですね。

 基本的に明るいんだけどサビの入り口でまるで夕立のようにマイナー調の歌メロとコーラスが入ってきて効果的です。

 「シンガー・ソングライター」時代のヒット曲のひな型のような感じかな。 


 5曲目Cotton Jennyは絵に描いたような幸せな田舎暮らしを誰もがイメージする楽しげな音で表していて心温まる曲。


 6曲目Talking In Your Sleepはギターのアルペジオによる落ち着いたフォークソング。

 でもここでも途中でマイナー調の歌メロが入ってきて気持ちの変化が感じられます。


 7曲目Nous Vivons Ensemble、ピアノで始まる明るいけどちょっとだけ重たい気持ちの曲で、間奏はギターが前に出るという最小限の楽器の中でも凝ったアレンジ。

 最後だけフランス語で歌っていますが、そうかだから1曲目が摂氏だったのは納得がいきました。


 8曲目Same Old Loverはリズム&ブルーズが透けて見えるのが面白いし興味深い。 

 

 9曲目のRedwood Hillは正調カントリー&ウェスタン調、"Redwood"は「アメリカスギ」、僕は見たことないけど樹木好きとしてはうれしいものがあります。


 10曲目のLove Maple & Syrupというのがもう自然好きにはたまらないですね。

 メイプルはカナダの国旗にデザインされている木でありこれはカナダ人であることを歌っているのでしょう。

 僕は毎年3月になるとメイプルの仲間のイタヤカエデの木に穴をあけて樹液を採取して煮詰めてメイプルシロップを作りパンやホットケーキにつけて食べていますが、それは春を迎える年中行事であり楽しくなる出来事です。


 最後11曲目Cabaretは最初はとんでもなく重たく暗く始まってしまいどうしようと思うんだけど、途中から何事もなかったかのように明るい曲になってほっとします。

 ゴードン・ライトフットはマイナー調の部分を上手く生かして曲作りをする人だと思いました。


 いやあ、落ち着くし、自然な響きだし、ほんとうに素晴らしいアルバム。


 おまけにアコースティック・ギターもこうやって弾けたらなと思う、手堅いけど表情が豊かないい演奏ですね。


 「シンガー・ソングライター」の音楽の本流でど真ん中という感じで、いろいろ書いた後にこういうのもなんだけど、「シンガー・ソングライター」に対して確固たるイメージがある人であればそれ以上の説明は要らなかったかもしれない。 

 僕のように昨日までZZトップを聴いていてもよく響いてくるのだから、この雰囲気が好きであれば文句のつけようがないアルバムに違いありません。


 しかしそれにしてもこのジャケットのゴードン・ライトフットの顔ったら。

 笑いたいのを抑えているのかな、鼻も膨らんでいるし、ちょっと強面で音楽のイメージと微妙に違う気がする。

 僕は最初「猿の惑星」の猿のひとりかと思ったくらい・・・いや失礼!

 でも、聴いてゆくと、そうか優しさは外見にとらわれない人間の本質であると言いたいのかなと思えるようになってきました。

 いずれにせよインパクトが大きい写真であるのは間違いないですね。


 ゴードン・ライトフットはまだ他のアルバムも聴いてゆきたいです。 


 ところで、"Lightfoot"は「足軽」なのかな。

 僕の家は先祖が藤原家の足軽だったと父に聞かされていたんだけど、そうか、だからこの人には近しいものを感じるのかな(笑)。


 そんなわけないと思う・・・


 もひとつ余談、クリント・イーストウッド主演の1974年の映画「サンダーボルト」の原題がTHUNDERBOLT & LIGHTFOOTで、ジェフ・ブリッジズが演じていたライトフットの役名はゴードン・ライトフットからとったのかもしれないですね。