FOR YOUR LOVE ザ・ヤードバーズ | 自然と音楽の森

自然と音楽の森

洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森1日1枚-Oct20Yardbirds


◎FOR YOUR LOVE

▼フォー・ユア・ラヴ

☆The Yardbirds

★ザ・ヤードバーズ

released in 1965

CD-0148 2011/10/20


 ヤードバーズの1965年にリリースされたアルバム。


 当時の英国のアーティストのLPは本国英国とアメリカで同じタイトルでも内容が違うという例が多々ありますが、僕はまだヤードバーズはよくは知らないので、これもどうやらアメリカで編集されたアルバムということのようです。

 今回聴いているのは、そのアメリカ盤LPに収録された11曲が前半に曲順通りに収録され、後半に本編より長いボーナストラックが収められたリイシューレーベルのRepertoire盤のCDです。


 ヤードバーズのこのアルバムはひと月ほど前に棚にあるのが目に留まって突然聴き始めて突然気に入りました。

 買ったのは3年前かな、タワーレコードの50%OFFワゴンにあったので買いましたが、でも正直その時は特にいいとは思わないまま寝かせていました。

 3年物のワイン、かな(笑)。


 ヤードバーズといえばブルーズロックの先駆者みたいなイメージですが、でも僕がひと月前に聴き始めたのはとりあえずブルーズの波とは関係なく、ほんとうにたまたま目に留まったからです。


 でもブルーズの波がある今これを聴いてブルーズとの関わりみたいなことを考えてみるのも面白いかなとは思いました。

 まあそうじゃなくても気に入ったので記事にするつもりではいましたが。


 ヤードバーズといえば「3大ギタリスト」、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジが在籍していたことはあまりにも有名。

 このアルバムは贅沢にもそのうち2人、エリックとジェフのプレイを聴くことができます。

 

 このアルバムは実態としてはシングル曲などをかき集めてアルバムにしたようなものらしく、だから録音された期間も長く、その間にエリックが脱退しジェフが加入してギタリストの座に就いたということのようです。

 

 といいつつジェフ・ベックが演奏しているのは2曲目I'm Not Talking、6曲目I Ain't Done Wrongと11曲目My Girl Sloopyの3曲のみということです。

 僕は、言われなければどちらのプレイかは分かりません、念のため(笑)。

 でもそう言われるとインストゥルメンタルである5曲目Got To Hurryのフレーズはいかにもエリックっぽく、ジェフの6曲目はもっと力任せに弾いているようにも思えてきます。


 ブルーズとの関わりという点で話せば、このアルバムの音はまるでブルーズじゃないですね。

 いかにも60年代英国ビート系の音のひとつであり、曲もブルーズのカバーはあるしハーモニカが入ったりブルーズが好きな人たちがやっていることだけは伝わってくるけどそれ以上じゃない。

 下手すればビートルズのほうがブルージーに響いてくるというくらいですね。

 

 これはヤードバーズだけに限らず、1964-65年当時はまだ白人が本格的にブルーズをやるという段階にまでは達していなかったのかもしれない。

 やってみたところではなから無理と既に分かっていたとか。

 と書くとネガティヴだけどそうではなく、真似をするのではなく基本にしながらもそれとは違う音楽を作ってやろうという意気込みが勝っていたのか。

 もう少しして出てくるフリートウッド・マックはこれに比べると、演奏も内面的なものも本物のブルーズにはるかに近いと思えますが、それはいろいろやった中での一つの方法論として確立したのかもしれない。

 とにかくここでのヤードバーズはブルーズとはいえない代物です。

 

 ヤードバーズの場合、やっぱりヴォーカルのキース・レルフの問題を避けては通れないところでしょうね。

 下手、というのとは違うんだけど、本人は音楽が大好きなことだけはよく伝わってくるんだけど、でも音符をなぞって歌っていて時々カッコつけてみる、くらいのものしか僕には感じられません。

 ジョン・レノンやポール・マッカートニーのように歌に気持ちがこもっていないし、ミック・ジャガーのような執念みたいなものも感じないし、レイ・デイヴィスのような切れもない、そしてロジャー・ダルトリーのように腹の底から声が出ている感じでもない。

 

 それでもヤードバーズが伝説とまで言われ聴き継がれているのは、至極単純、曲がいいからでしょう。

 

 このアルバムを聴くとそのことに今更ながら気づきました。


 彼らの代表曲である1曲目のFor Your Loveは、ハープシコードで始まってボンゴが鳴って、もうそれだけで当時ははっとさせられたのではないかと。

 曲は少し進んでテンポが変わって展開するのもうまいし迫力があるしもちろん歌メロがいい、これは名曲ですね。


 ブルーズ系の有名どころでは7曲目I Wish You Wouldはそれなりにブルーズっぽさを醸し出し、一方でGood Morning Little Schoolgirlはほんとうにビートルズと同じ路線の典型的な当時の音になっています。


 3曲目Putty (In Your Hands)はイントロがMoneyに似てる、と言ってはいけないのか(笑)、R&Bの楽しさが伝わってきます。


 4曲目I Ain't Got Youは明確なギターリフで始まりリフを押し続ける代わりにハーモニカがリードギターの役割をしているようなちょっと凝ったアレンジ。

 でもやっぱり間奏のエリックのギターは冴えている。


 このアルバムで僕が特に面白いと思ったのが次の2曲。


 8曲目A Certain Girl、作曲者アラン・トゥーサン、でもどこかで聴いたことがあると思ったらウォーレン・ジヴォンだった。

 サビがなくてAメロがコーラスになっているんだけど、その部分のフレーズが終わるたびにまるでホラー映画のように低音で入る「No」というコーラスが面白い。

 誰が考えたんだろう。

 Wikipediaで見るとこれはジョルジョ・ゴメルスキーという音楽プロデューサーの人の声であるらしい。

 ロック的人間とすれば外部の人間を招いてそこまでやるか、と思わなくもないんだけど、でもそれをやったことでポップスとしての魅力が増しているような気がします。


 もう1つが9曲目のSweet Music。

 ほんとうに歌メロがよくて、懐かしく親しみやすいまさにオールディーズという感覚。

 

 ただこれはキース・レルフが歌ってないと思う、違ったらごめんなさい、キースよりもさらに細くて力ない声で自信なく歌っていて、せっかくのいい歌メロがちょっと残念。

 今回の遠征でこれを車の中で聴いたんだけど、この曲の時に窓を開けるとリードヴォーカルよりも2小節ごとに入るコーラスの声のほうが大きく聴こえました。

 もしかして自信ない声を隠すのにそういうミックスになっていたのかな。

 しかしこれを聴いてキース・レルフは気持ちはこもってなくてもしっかりと歌える人ではあったんだって見直しました。

 これは、ソフトめの歌をしっかりと歌える人が歌うと輝くと思う。

 とまあ、この2曲だけならビートルズよりもポップじゃないかと思ってしまう。


 ボーナストラックでも面白い曲について幾つか触れます。


 12曲目Baby What's Wrongはエリックの歌のバッキングのカラカラ鳴るギターがとにかく気持ち良くて、ソロやオブリガードだけではなくバッキングもセンスあふれるギタリストであることがよく分かります。

 ただこれはデモということで、だけど全体がまだ作りが緩いせいかこれで十分です。


 13曲目Boom Boomは日本のグループサウンズの直接のルーツみたいな感じ。


 20曲目Heart Full Of Soulは(Demo Sitarr Version)と書いてあるんだけど、これはビートルズの「ノルウェイの森」より先にシタールを使って録音されているのが興味深い。

 デモということで当時は世に出なかったのかな。

 

 他、ドイツ語とイタリア語の曲もあったり、ボーナストラックも充実して楽しく聴けます。


 初期のローリング・ストーンズよりもビートルズに近いポップな音で、ビートルズ初期の感じが好きだけどそれだけでは物足りない人にはおあつらえ向きのアルバム。


 しかし、そのポップさというのが実はキース・レルフの気持ちがあまりこもっていない上っ面だけで歌うヴォーカルのスタイルがかえって奏効しているように思えてきたから不思議です。

 気持ちがないだけ余計に歌メロが耳につく、そんなところでしょうか。

 

 

 さて、1968年に英国ではブルーズロックが大爆発するわけですが、ここから3年でいったいどんな化学変化が起こってそうなったのかがまた興味深いですね。

 

 その辺を、エリックやジェフのこの後のことなども考えながら想像するとまた楽しくもあります。