◎ABRACADABRA
▼アブラカダブラ
☆The Steve Miller Band
★スティーヴ・ミラー・バンド
released in 1982
CD-0136 2011/09/27
Steve Miller-03
スティーヴ・ミラー・バンドの12枚目のスタジオアルバム。
今日は、僕は気がつくとアメリカンロック人間だったという話。
このアルバムを中学3年の時に買っていたのだから。
中2の2学期が始まってから11ヵ月間ビートルズとそのメンバーしか聴かなかった僕は、中3の夏に洋楽全般を聴くようになりました。
情報源は「FMファン」のビルボートチャートとニュースそして「ベスト・ヒットUSA」。
考えてみれば僕は洋楽の始まりがそこなので、アメリカンロック人間になったのは当たり前のような気がする。
でも、大人になって実生活やネット上で知り合った音楽好きの人の話を総合すると、当たり前というよりはむしろ例外的だったのかもしれないと最近思うようになりました。
僕は1980年代の英国のロックはあまりよく知りません。
友達と話していて懐かしいと名前が挙がった英国系の曲やアーティストは名前すら知らなかったということがよくありました(あります)。
同じ時代を生きていたのに、同じ洋楽に興味を持っていたのに、そしてクラスで音楽の話をよくしたという状況も同じなのにこの違いがなんだか不思議でちょっぴり面白い。
ただし僕も英国のロックをまったく知らなかったわけではなくて、ビルボードでヒットした曲や人たちは知っていました。
当時は「ブリティッシュ・インヴェイジョン」と呼ばれていましたが、でも実は僕は、当時はその流れがあまり好きではなかったのです。
アメリカンロックの中に突然きらびやかでセンスが違う英国の曲が出てくると、なんというかこう、違和感のようなものを感じました。
ただし僕は一応は曲を基本として聴いているので気に入った曲もあって思い切ってLPを買った英国勢もあるにはあったし、ダイア・ストレイツやプリテンダーズは特に大好きになりました。
話は長くなりましたが、僕は僕なりに当然の流れとしてアメリカンロックに引かれたのです。
スティーヴ・ミラー・バンドのこのアルバムのLPを買ったのは表題曲がビルボードNo.1ヒットとなったからです。
ただしそれは確か僕が洋楽を聴き始める微妙に少し前のことで、調べてみるとその通り1982年5月にシングルがリリースされているのでほんとうに僕が洋楽を聴き始める寸前にヒットしていた曲としてNHK-FMでエアチェックして聴いて興味を持ったのでした。
なぜ興味を持ったかというとやっぱりタイトルですよね。
子供でも知っているようなおまじないの言葉を歌にしてしまう、しかもそれが大ヒットしてしまうというのは洋楽という世界の間口の広さと奥深さを直感的に悟ったのでした。
曲ももちろん気に入っていて、マイナー調でちょっとメランコリックで切ないというよりはもどかしい感じが伝わってきて歌メロも素直に口ずさめるものでした。
しかしLPを買ってアルバムを聴いたところこれが気に入らなかった。
渋いというと聞こえがいいけどこれは若者が聴く音楽じゃないな、と感じました。
スティーヴ・ミラーはその時点で10年選手で大物と言われていたのでそれは仕方ないそういうものなのかもしれない。
多分半月くらいしか聴かなかったと思う。
それはおろか1週間くらいした頃に、これを買って損をした、他にもっと欲しいLPがあったのにと多少の後悔をしたことも覚えています。
今聴いているCDは今年になって英国のEDSELから出たリマスター・リイシュー盤だけど、このアルバムはCDの時代になって一度出たものの出直すのは国内盤紙ジャケットを除けば初めてじゃないかな。
一度だけ10年ほど前に近くの中古CD店でこれを見つけて買おうかどうか迷っているうちに次に店に行ったらなくなっていて驚いたものです。
その中古を見て当時は気に入らなかったのに買いたくなったのは、懐かしかった、それ以上に30歳を過ぎて聴くといいと感じるかもしれないと思ってのことでした。
そして今買っているのは僕にはよくあるリマスター盤が出たのを機に買い揃えて聴くという流れです。
そんなわけでこのアルバムは1982年にLPを買い2011年にCDを買ったわけだから、今年29年振りに聴いたことになります。
僕はLPを買ったアルバムもCDで買い直すことが多いので、これだけ長い間聴かなかったアルバムは初めてじゃないかな。
聴くと3曲しか覚えていませんでした。
当たり前でしょうね、ろくに聴かなかった上に曲の覚えが人3倍悪い僕のことだから。
具体的に覚えていたのは、1曲目Keeps Me Wondering Why、ミドルテンポのホップするような何かの始まりを告げる曲だけど、いくらなんでも1曲目は覚えるでしょうね。
そして2曲目Abracadabraと、もう1曲は4曲目Give It Up、これまた軽やかでサビの歌メロが分かりやすいポップな曲で多分当時これはいいと思ったのだと。
ほんとうにそれ以外の曲はかけらも覚えていなかった。
B面は全滅でしたが寝る時にカセットテープで聴いてA面が終わってひっくり返すことすらしなかったのかもしれない(笑)。
僕は昨年の新譜を聴いてスティーヴ・ミラーを本格的に聴き始めたわけですが、それまではアルバムFLY LIKE AN EAGLEしか聴いたことがなく、やはり昨年になってリマスター盤が出たこれより前のアルバムを少しずつ聴いています。
だからまだよく分かっているとは言い難いんだけど、でもこのアルバムの悲しいくらいの80年代サウンドはスティーヴ・ミラーの色には合いそうで合わないと思う。
多分、本人たちの認識や意志としては元々軽く楽しく明るく聴き通せる音楽を目指していたと思われるので、その延長と考えれば軽さはまだ理解できます。
でも、このサウンドはなんだか踊らされているというか無理に若作りしているように感じなくもない。
おまけにギターの切れが悪くてずしんと響かない、ムード作り第一みたいな音がなんというか。
それは狙ったものかどうか分からないど、このサウンドは全体的に何か妙に甘ったるく感じます。
ただし当時の僕がそこに違和感を覚えたかどうかはあまり記憶がありません。
とにかく全体として気に入らなかったのです。
だけど今聴くとそれなり以上にいいですね。
軽い80年代サウンドはご愛嬌といったところで許せるしむしろ10代に聴き育ったサウンドだから今なら懐かしさという言葉の中にいろんな思いをしまうことができる。
曲もみなそこそこ以上にいいですね。
僕が30歳を過ぎて音楽に対して大きく変わったのは、そこそこ以上にいい曲が並んでいるともうそれでアルバムとしてはとてもいいと思えるようになったことです。
今は全曲歌詞を覚えてやろうなんて意気込みもないし、アルバムはこうじゃなきゃいけないというアルバム至上主義でもないし、基本的に好きな音楽を聴いているのだからそれはかけている時点で自分にとってはいい音楽であることに違いはない、そんな境地に達したような気がします。
結果としてだからこのアルバムは、中3の時に感じた「今の僕はこれを聴くには若すぎる」という直感は僕に関しては正しかったということになります。
高級ワイン並に寝かせて熟成させた今はまた違った味わいがある、のかな(笑)。
ただしこのアルバムを当時はよく思わなかったことでスティーヴ・ミラーに関心がなくなってしまったというのは少し残念なところです。
でもそれも仕方ないですね。
振り返るのも意味がないことだし、音楽にはタイミングがあるのだし、遅くても大好きになったのだから。
音楽を聴くのに遅すぎるということはないと僕は思います。
それにしても1980年代の音ってなんだろう、不思議ですね。
一昨日のことだけど、僕がエルトン・ジョンのTOO LOW FOR ZEROを聴いていたところ(記事にした後かなり気に入りました)、弟が帰宅していきなり「80年代を聞いているのか、誰だ」と言いました。
少しして声を聞いて弟はエルトン・ジョンと分かったんだけど、でも声がない部分のサウンドプロダクションを聞いて思わずそう言ったのだと思います。
1980年代前半から中盤は、誰の音楽を聴いても軽いシンセサイザーと機械的なドラムスと乾いたギターの音に支配されたサウンド、まるで集団幻想のようだなと今にして思います。
そんな僕は集団幻想の中で育ったのだから、口ではけなしたり否定的だったり文句を言ったりはしていても、やっぱり帰るところは80年代とであって愛着がたっぷりとあります。
人間は自分の生まれを選べないのだから、80年代サウンドで育った人はかわいそうとか言われても何も返す言葉は浮かばない。
それでいいじゃん、と思う。
少なくとも曲はいいのだから、残るのは曲だから、80年代サウンドもこれからも聴き継がれてゆくことになるに違いない。
しかしそれにしてもこれは軽いなあ、甘いなあ、マイナーな曲がそれほど悲しく聴こえないよ(笑)。
そうだ、おまじないをかけたら、僕好みのずしりと重たくてギターが切れたサウンドに変わるかな。
◎アブラカダブラ
「迷信なんでも百科」 ヴァルター・ゲルラッハ(著) 文春文庫より(一部引用者が手を加えています)
今でこそ、子どもの誕生日に冗談めいた「魔法の言葉」として使われるだけだが、以前は本当に高熱や歯痛、そして傷が治る呪文とされていた。
(中略)
昔は、以下の図のように11行に書いてお守りにするのが流行した。1行下がるごとに、最後の文字をひとつずつ消していくのである。そうすると全体が三角形になる。このお守りをペンダントとして病人の首にかけておくと、文字が消えていくように病気も消える。
A B R A C A C A B R A
A B R A C A D A B R
A B R A C A D A B
A B R A C A D A
A B R A C A D
A B R A C A
A B R A C
A B R A
A B R
A B
A