◎IN YOUR DREAMS
▲イン・ユア・ドリームス
☆Stevie Nicks
★スティーヴィー・ニックス
released in 2011
CD-0061 2011/05/28
スティーヴィー・ニックスの5月に出た新譜で通算7枚目のスタジオアルバム。
昨日のトム・ペティ&ザHbsの記事で名前が出てきたスティーヴィー・ニックス。
チェインリアクションというわけではないけれど今いちばんよく聴いている新譜だから続けて取り上げました。
というより逆に昨日のトム・ペティのほうがこちらからのチェインリアクションだったと言うべきかも(笑)。
このアルバムは聴き応えがありますよ。
正直言えば僕の期待値が少し低めだったから予想以上でした。
カントリー色が濃かった前作も手応え十分以上に聴かせてくれましたが、今回は往年の派手なポップス路線が復活している感じです。
もちろん音の作りは80年代サウンドではなく今の音で浮ついた感じではなくどっしりとしかしきらびやかに響いてきます。
今回はデイヴ・スチュワートがプロデュースを務めていますが彼の作り出す音は派手に強く響いてきてメリハリがあっていかにもポップスという心を揺さぶられる音になっています。
だから聴いているとしっとりではなくどっしりと感じるロック的な手触りの強い音でこの辺の上手さとセンスは相変わらず。
その上今回は曲がかなりよくて曲の覚え場悪い僕がもう数曲を口ずさめるくらいになっています。
曲でもデイヴ・スチュワートは7曲をニックスと共作していて最後の曲では彼もヴォーカルをとり名前がフィーチャーされています。
デイヴは裏ジャケットでもニックスと一緒に写っていてプロデューサー以上の存在感を放っています。
マイク・キャンベルが共作した曲も1曲あり彼はギターなどでも参加、またHbsからはもう一人ドラムスのスティーヴ・フェローンも参加していてこのラインは依然として強固であることが分かってほっとします。
曲は80年代風、カントリー、おおらかな曲から繊細な曲、強い曲大人しい曲いろいろあって、名曲級やシングルで大ヒットするような曲はないけど(これはベテランのアーティストには共通することだけど)、まったく飽きません。
曲にうるさい僕として言わせていただければこのクオリティはたいしたものです。
もうひとつ特筆すべきことはスティーヴィー・ニックスのヴォーカルの説得力です。
トレードマークともいえるあの声は健在で、陳腐な言葉だけど聴いているとまるで妖精の魔力のようにその歌世界に引きずり込まれます。
白眉ともいえるのが8曲目のSoldier's Angel、硬質なフォーク調のシンプルな曲にニックスの声が最前面に押し出されていて語るように歌い紡ぐニックスの歌の説得力は筆舌に尽くしがたいほどで、僕は最初に聴いた時にこの曲が流れてきたところですべての動作と思考が止まって聴き入りました。
この1曲だけでもこれは凄いと思えるアルバムです。
さらにこの曲は曲ごとのクレジットがないのでおそらくですがかつての「パートナー」であるリンジー・バッキンガムが参加していて、そのコーラスの声がニックスの声とは別の世界で響いているようにミックスされていて、そこが天使の世界と戦場を分つように感じさせて効果的です。
歌の説得力と曲のよさがあるから音が強くても不思議と落ち着いた雰囲気で聴くことができるアルバムです。
スティーヴィー・ニックスはあのキャラクターであの声だから一見すると近寄りがたい雰囲気を醸し出していますが、一度中に入ってしまうとこれほどまでに大きな包容力を感じる人もいないという人でしょう。
今回のアルバムで気づいたのは彼女は「アメリカの母の像」を築き上げて母性愛に訴えたいのかなということ。
そう考えると彼女の包容力が納得できます。
繊細になればなるほどそれに反比例するかのように強さが増してゆくという類稀なるキャラクターの持ち主であるスティーヴィー・ニックスの世界ここに極まれりという感じのアルバムです。
ゲストとして他にミック・フリートウッドも参加していますがこれは彼の性格を考えると当然と感じ名前を見つけてほっとしました。
また僕が知っている名前ではワディ・ワクテルとグレン・バラードがギターで参加しています。
スティーヴィー・ニックスは商業戦略が上手い人だと思います。
まずアルバムタイトルがそのまま彼女のイメージである上にフリートウッド・マックのヒット曲を嫌でも連想させます。
他、"Angel""Vampire""Ghost""Moonlight"といった彼女のイメージに訴える単語が曲名に並んでいます。
ブックレットの写真もフクロウを手に持っていたりそれらしい服装をしてちょっとした写真集のような雰囲気で楽しめます。
もちろんいろいろな意味でそのイメージを壊さない努力を重ねているのでしょうけど、彼女は背後の努力をまったく前に出さないという別の努力も惜しまない人なのだと思います。
そうそういつもの「妖精3姉妹」、ニックスとシャロン・セラーとロリ・ニックスの3ショット写真も今回のブックレットにもちろんありますよ。
ニックスのCDでこの3ショットを見るとなんだかほっとします(笑)。
とまあ今回はほとんど手放しでほめているけどほんとそれだけ聴き応えがあるアルバムでうれしい。
スティーヴィー・ニックスはソロアーティストとしても超一流であることも証明したアルバムであり、彼女のアルバムは実は外れがなく充実しているのです。
その魔力がまだ続いていることが分かってほっとしました(笑)。
◎このCDこの7曲
Tr3:In Yout Dreams
アップテンポでダイナミックかつきらびやかでどしっと響いてくる曲。
Tr5:New Orleans
彼女でニュー・オーリンズというのは一見つながらないんだけどアメリカ人で音楽をやっている以上はやはりそこにたどり着くのかなと思いました。
語り口調で強く響いてくる曲。
Tr8:Soldier's Angel
彼女のヴォーカルに抵抗するのは無駄です。
Tr9:Everybody Loves You
おそらくデイヴ・スチュワートの強いコーラスがやはりニックスとは別の世界から聴こえてくるようなミックスが効果的でデイヴの声はある意味背筋が寒くなります。
その声もコーラスというよりは勝手に別の旋律を歌っている感じで一見すると不調和だけどもっと大きな世界でちゃんと調和しているというメッセージかもしれません。
Tr10:Ghosts Are Gone
煽るように迫ってくるギターリフの響きが恐いです。
このアルバムは強いと書いたけど恐いとも言えます。
Tr12:Italian Summer
壮大な響きのバラードでアルバムの終わりを感じさせます。
Tr13:Cheaper Than Free (Featuring Dave Stewart)
と思ったら最後はデイヴ・スチュワートがフィーチャーされたデュエットで締めくくり。
この曲は歌詞の内容が重たくて2人のヴォーカルのなんだか分からない力に引きずり込まれます。
自由より安いものって何だろう。
最後の曲は考えさせて終わるのが余計に心に残る部分です。
※挙げなかった曲もすべていいですよ。