![]() | わすれもの 1,404円 Amazon |
きっかけはささいなことだった。
去年の初秋(言ってもまだまだ暑い盛りのころ)、旅の途中、偶然に間違って降りた駅のポスターに自分が知っていた絵本作家の美術展をしていることを告知していた。
バスを延々と乗り、海を見渡す美術館の売店で、一冊の知っている絵本を見つけた。この本をプレゼントしたらRさん(この人の前では自分は「R先生」と呼んでいる。夏目漱石の『こころ』か?!)が笑って喜んでくれる気がした。この人が絵本が好きか、子どもさんがいるかはまったくしらない。
思惑とおり、喜んでくれたのに味をしめ、会う度ごとにプレゼントしている。仕事をしていたときみたいに絵本を選んでいる。仕事をしていたときはそんなに好きではなかった絵本をだ。それも仕事をしていたとき以上に一生懸命に一冊を選んでいる。
そして、今回、プレゼントしたのは『わすれもの』。仕事をしていたときに出版されたはずだが、辞めてから見つけた。心になにか触れた気がした。
忘れ物には人の思いや念が込められている。それでも手許を離れる縁があるのだ。そして、縁があればまた戻ってくる。
何かにもう固執するのは止めようかとは思っている。それでも何かに固執して誰かを待っているような気がする。この羊のぬいぐるみのように。
Rさんに手渡したとき、彼女は「ゾクゾクする」と言った。何か彼女の心の琴線に触れたようだ。あとから知ったが自分が触れてはいけないアンタッチャブルなものだったみたいで、何かの思いを呼び起こしたらしい。
いつもかさばる絵本を迷惑しているかと思っていたら案外、喜んでもらえてたようなので安心した。
将来、絵本が貯まったら棚を置いて文庫のコーナーにしてくれるそうだ。文庫開設の先は長い。