若いときに感銘を受けた本はいくつになっても忘れないものだ。
高校のとき、倫理社会の担当だったTから「授業には教科書を使いません。受験で選択するつもりの人は自分で勉強しなさい」と言われた。
代わりに現実社会の問題を題材にして授業をした。原発問題で、広瀬隆の『東京に原発を』も読んだし、原発労働者の問題も教えてもらった。(後に長井彬の『原子炉の蟹』も読んだ。)天皇制や、十代の妊娠とかディスカッションしたのを覚えている。
- ¥580
- Amazon.co.jp
- ¥780
- Amazon.co.jp
夏休みか冬休みに出された感想文の宿題の課題図書の一つが昨日亡くなった映画監督新藤兼人の『映画づくりの実際』だった。なぜ、この本が選ばれていたのかわからないが、当時映画づくりに興味があって一も二もなくこの本を選んだ。
当時、新藤兼人という監督の名前も知らなければ、「裸の島」というモスクワ映画祭のグランプリを受賞した映画も知らなかった。
- 裸の島 [DVD]/乙羽信子,殿山泰司,田中伸二
- ¥4,935
- Amazon.co.jp
本文中にある「ぼちぼちやっても田は濁る」「自分が経験したことしか表現出来ない」と言う言葉に感銘を受けた。
澄んだ広い水田に、少しずつ苗を植えて濁らして行けば、いつのまにか苗を植え終わり、田全体の水が濁る。「物事は少しずつやってもやがてことをなす」新藤兼人監督の出身の広島の例えだそうだ。農家出身の新藤兼人のその例えに、自分も農家の息子で田植の経験があるので実感で知っていた。暑い日照りの中、腰を屈めて苗を植えるのは端が見ているより、重労働なのだ。一心で植えていると、いつの間にか植え終わっていることがある。そのことを知っているから共感できた。
そして、実体験の重要性を説いた。勿論、実体験ができないことがある。そのための本があり、映画がある。しかし、それらはあくまで、補足であり、実体験に優るものではない。
感想文を書くために読んだ本だったが繰り返し読んだ。今も本棚にある本の腹の部分は手垢で汚れている。
さっきアマゾンで検索したら、残念ながら、絶版みたいで出てこなかった。岩波ジュニア新書というシリーズの中の本なので、公共図書館にはまだ所蔵しているかも知れない。
最後に、新藤兼人監督のご冥福をお祈りします。合掌。