「裏日本」北陸で資本主義を歩く | ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

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2007年以降、300人以上の通訳案内士を養成してきた通訳案内士試験道場の高田直志です。案内士試験に出題された場所を津々浦々歩いたときの旅日記です。案内士試験受験生は勉強に疲れた時の読み物として、合格者はガイディングのネタとしてお読みください。

「裏日本」としての北陸

 私が生まれた1970年代、「裏日本」という言葉は差別用語、また死語として認識されつつあったようだ。「ようだ」というのも、山陰という「裏日本」生まれの私も、直接この言葉を使用する人に会ったのは三人だけで、みなすでに鬼籍に入っているだろう中高年男性だけだったからだ。ただ但馬の温泉を舞台にした1980年代前半のNHKドラマ「夢千代日記」では、地元の警察が都会から来た刑事に対し、やたら「表日本では~だが、裏日本では~だ」というような表現を多用していたことを覚えている。

 「裏日本」としての山陰人の私にとって、同じく「裏日本」の北陸が気になる。マルクスもいわば19世紀欧州のきらびやかな「表社会」の陰であえぐ、「裏」に追いやられた人々の存在を、「資本主義」というメカニズムを暴くことで世界に知らしめたからだ。

 

北陸で資本主義を考える意味

マルクスを理解する上で、北海道と同等に大切な場所は何となく北陸だと以前から思っていた理由はいくつかある。

・資本主義のアイコンともいえる「黄金」が日本で最もたくさん掘られていたこと。

・伝統工業に携わる労働者のモノづくりが今まで続いていること。

・イタイイタイ病や新潟水俣病など、大資本家により踏みにじられた人々がいたこと。

・四大財閥の一つ、安田財閥発祥の地であること。

・ロシア革命と同時進行で起こった米騒動の発祥の地であること。

そしてなによりも「百姓のもちたる国」、つまり日本で初めて真宗門徒を中心とする「同朋」という名の「人民」が立ち上がって封建領主を追い出し、一世紀にわたって自治を行った日本唯一の場所であるからだ。

さらに各県庁所在地名の響きも資本主義的だ。「山陰両県」の県庁所在地名は「松江」と「鳥取」であり「山口」を加えたところで「江」「松」「山」「鳥」など、自然を感じさせるものばかり。しかし「北陸三県」の県庁所在地の地名は「金沢」―大判小判がざっくざく?「福井」―井戸の中に福があるのか?「富山」―富がうず高い山のようになったのか?などと、人間のもつ資本主義的欲求を感じさせる。

「金福富」というとまるで朝鮮民族にありがちな姓名だが、紅色と黄色と金色をまぶしたまばゆいばかりのこの地名が、一見「地味な裏日本」の北陸三県の首府にふさわしいのかどうか興味深い。とはいえ、「資本論」を体感するための旅にでてしまった。行き先はとりあえず金沢だが、北陸三県に佐渡を加え、やはり初秋に歩いてみた。

 

佐渡島道遊の割戸-狂気にも似た金に対する欲望

初秋の夕方、新潟港の市場で旅友たちと、酒と海の幸を買い込んで夜のフェリーに乗った。二時間半ほど風と波に揺られて両津港についたころは雨が降っていた。港の観光用ポスターには巨人が山を真っ二つにチョップしたかのような道遊(どうゆう)の割戸(われと)が大きく映っている。真っ暗な中、タクシーで加茂湖温泉のホテルに投宿し、ナトリウム泉のしょっぱい湯につかり、体を癒してから休んだ。

翌日、小雨の降る中、相川の佐渡金銀山に向かった。佐渡は思っていたよりも広い。山の中に夕べ港のポスターで見た道遊の割戸が現れた。真っ二つに「チョップされた」場所には草木も生えていない。金の露天掘りを山のてっぺんからふもとにかけて行ったためである。木々生い茂る山をはげ山にされているのを見ても「環境破壊」という言葉より、人間の金に対する狂気にも似た欲望のすさまじさが脳裏に浮かぶ光景だ。

史跡佐渡金山という、昔の坑道を利用した資料館に入る。鉱山系ミュージアムはどこでもそうだが、暗闇で昔の鉱夫たちが話しながら掘っているのを見聞きすると、どうも気が滅入ってくる。特に江戸時代にこの島に金を掘りにきた人々は、一攫千金を求めて一旗揚げようという人ばかりではない。江戸当たりの「無宿人」たちもいた。これは商品作物などの凶作や、度重なる飢饉で故郷を後にし、江戸で犯罪を起こしたために佐渡に送られたりした人々を指す。

そのほか被差別部落民や隠れキリシタンなど当時の世の中では「脛に傷もつ」者も少なくなかったが、共通点はみな使い捨ての道具あつかいされることであった。

人はなぜ金に魅かれるのか

こうして土地から暴力的に収奪され、追放され、浮浪者になった農民は、奇妙なテロリスト的法律によって、賃労働体系に必要な規律(Diziplin)化されるために、むち打たれ、焼印を押され、拷問にかけられたのだ。

とマルクスが言うのは、まさにこのことだ。そこまでして幕府が、そして日本中、ひいては世界中の人々がゴールドを求めたのか。マルクスは説明する。

「黄金は銀より美しいから価値が高い」のではない。 埋蔵量が少なければ少ないほど、それを採掘するために多くの労働力がかかるから、価値が高いのである。

つまり生き地獄のような環境において労働者が落盤や強制労働で命を落とし、たとえ生き残れても肺などの呼吸器を病んだ結晶が、あの光輝く金だというのだ。

資料館では戦後は廃れた相川金山の町のかつての繁栄などが分かるが、人気なのが1㎏の金の延べ棒を手で持つことができるという、なんとも俗なゲームである。光り輝く黄金には明治以降の佐渡金山を経営してきた三菱のマーク。もちろん私もやってみたが、心に寒風が吹きぬけるような何とも言えぬ虚しさが残った。それが世界での交換価値の基準となったことについてもマルクスは述べている。

交換価値の観点から言えば「黄金の採掘に必要な労働の量」が「他のすべての労働の量」の価値の基準になったことを意味するわけだ。

資本主義においてモノとモノを交換するツールがゼニだが、例えば一万円というのはゴールドを掘るのにかかる鉱夫の賃金(例えば日当)がその基準となっているというのだ。(続)

 

 

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