北のウォール街、小樽で生まれたプロレタリア文学者 | ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

2007年以降、300人以上の通訳案内士を養成してきた通訳案内士試験道場の高田直志です。案内士試験に出題された場所を津々浦々歩いたときの旅日記です。案内士試験受験生は勉強に疲れた時の読み物として、合格者はガイディングのネタとしてお読みください。

小樽―北のウォール街

 北海道における金融の中心はかつて札幌ではなく小樽にあった。旧日本銀行小樽支店や旧安田銀行小樽支店(現はなごころ)等の銀行建築が名所となっているのも、ここがかつて「北のウォール街」と呼ばれた金融街だったからに他ならない。

世界とつながる港町であるという地の利があったこの街のシンボルの運河は、夕張の石炭だけではなく道内各地から集められた物資を世界に送り、同時に世界中の物資も運河を通してこの街の倉庫に納められ、北海道各地に送られていった。この街はモノとカネが去来する交差点だったのだ。マルクスは「カネ」についてこう述べている。 

 お金は、商品の中でもとびきり特異な性質を持っている。すべての商品は使用価値と交換価値を併せ持っているが、お金は交換価値しか持っていない。(1-1)

 10円玉は腐食作用を食い止める銅からできている。書道教室では墨をすったら10円玉を入れて腐らないようにしていたことがあった。しかしそれはお金の「正しい」使い方とは言えない。「カネは天下の回り者」とはいったもので、カネの用法はモノの交換以外の何者でもない。問題はそれによって物資やサービスがいかに動くかであろう。

 この街の観光地にはいくつかの特徴がある。市内には北一硝子や小樽オルゴール堂など、「舶来の」高級感漂うモノづくりの場が多いこと。一方で駅前には活きのよい海鮮丼が自慢の三角市場の他、数ヵ所の市場があり、にぎわっている。市街地から北に5㎞程海岸線を進んだ祝津(しゅくづ)は、かつてニシン漁の最前線基地として使用されてきた鰊(にしん)御殿という作業小屋兼宿泊所や、その網元であった青山家の豪華極まりない数寄屋建築の豪邸などがあり、漁業に関する観光地も少なくない。

 

ニシンの値段の内訳

 鰊御殿の真ん前は青黒い日本海である。初秋ではあったが潮風が激しく吹き付ける。厳冬期ならば吹き飛ばされることだろう。かつてここには「ヤン衆」と呼ばれる季節労働者が各地から集められ、漁業に従事していた。彼らはここで飯を喰い、雑魚寝した。そして賃金をもらっては故郷に帰っていった。獲れたニシンは市場に出回るわけだが、それらの「商品」の価格にはヤン衆たちの賃金もかかっている。それの算出の仕方についてマルクスはこう述べる。

商品に含まれる労働の量は、どのようにすれば測定できるだろうか? それは簡単で、労働にかかった時間から求めれば良い。 労働時間を週・日・時間の単位で測定することだ。(1-1)

 つまり目の前のニシン、海鮮丼、オルゴールなど具体的な「モノ」の価格に、マルクスは労働者の賃金を読み取ろうとしたのだ。例えば趣味で釣りをした際の獲物にはこの賃金はこめられていないので、これは交換価値を持った商品とは言えず、資本主義の世の中では「脇役」となるのだ。

多喜二のふるさと、小樽

 ガラス細工やオルゴール、活きのよい魚介類など、あらゆる「モノ」が流れてきたこの街だが、その「モノ」を「商品」とよび、それこそ資本主義社会における主役であると見抜いたマルクスは「資本論」の冒頭で言う。

資本主義社会における富は、「たくさんの商品の集まり」の形をとっている。 そして、その最も基本的な単位は「商品」である。(1-1)

 「しょせん世の中はカネだ」と言い捨てる人は少なくないだろうが、マルクスは交換機能しかないカネよりも、「喰ってうまい、使って便利、飾ってきれいなモノ」こそが、この資本主義社会の主人公であり、カネとはその仲立ちをするに過ぎないとみたのだ。

 このような資本主義渦巻く港町で青少年時代を過ごしたのが小林多喜二であった。

札幌の最高学府の前身が官立札幌農学校であることは、札幌が官主導の町であることを暗示しているのに対し、小樽の最高学府の前身が官立とはいえ小樽商業高等学校であったことは、この街が民主導の町であることを示唆している。貧富の格差が急速に進行していた大正時代に文学に目覚めたのがこの街の商業高校だったのだ。

資本主義国日本のシンボルともいえる日銀旧小樽支店の美しい建物の筋向いに、プロレタリア文学に殉じた文学者、多喜二を主人公とする小樽文学館が対峙するのも何かの皮肉だろうか。三十そこそこで激しい拷問のあげく殺された多喜二のデスマスクと、「おい、地獄さ行(え)くんだで!」で始まる「蟹工船」の生原稿の殴り書きが胸に刺さる。

資本主義の生み出した地獄を糾弾して虐殺された多喜二の青春がつまったこの港町を後にし、「蟹工船」の出発地となった北海道のもう一つの港町、函館を訪れてみよう。(続)

 

PR

①    二次面接って??? 無料ガイダンス+体験講座 9月上旬開始

9月初旬に二次面接とはどんなものか、そしてどんな対策が必要か、さらに間違った学習法まで一気に解説し、実際に二次面接に必要なスピーチや通訳を、過去問題を参考に行います。合格率の高さだけでなく、本当に身に就く学びをご体験ください。

http://guideshiken.info/ (最新情報その1)

 

②   オンラインサロン「ジモティに聞け!」

地理・歴史・一般常識はzoomで楽しもう!
9月の毎週木曜午後10時から、各都道府県出身または滞在歴のある案内士試験受験者に、地元を紹介していただきます!楽しみながら学べるこのオンラインサロン、ぜひご参加ください。

パーソナリティ:英中韓通訳案内士 高田直志
日時:毎週木曜と日曜の22時から23時00分(無料)
視聴・参加するには…
対象:通訳案内士試験を受験される、または本試験に関心のある全ての方。
事前にこちらからご登録ください。(登録・視聴は無料です。)
https://secure02.red.shared-server.net/www.guideshiken.info/?page_id=109