ヘルンさんが最後に過ごした新大久保でみた山積みの課題 | ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

2007年以降、300人以上の通訳案内士を養成してきた通訳案内士試験道場の高田直志です。案内士試験に出題された場所を津々浦々歩いたときの旅日記です。案内士試験受験生は勉強に疲れた時の読み物として、合格者はガイディングのネタとしてお読みください。

小泉八雲記念公園

大久保通りからコンビニ脇の信号を南にまがり、時おりハングルの看板がかかった住宅街の中を歩いていると、大久保小学校に着いた。校門脇には「小泉八雲終焉の地」の石碑が立つ。その正面にギリシャ風のゲートをもつ公園がある。ゲートには「新宿区立小泉八雲記念公園」とある。ヘルンさんはこのあたりに住んでいた。左右対称のその小さなフランス式庭園には、花壇に色とりどりの花が植わっており、所々古代ギリシャの遺跡にありそうな白い列柱が建てられている。中央片隅にあるのがヘルンさんの胸像だ。

少年時代に出雲でヘルンさんの存在を知り、松江から熊本、そして東京とその足跡をたどりながら、ようやくここまで来た。ヘルンさんが現代に生きていて、大久保の屋敷に住んでいたらどう思っただろう。ニューオーリンズやカリブでアフリカ系の人々の文化に関心を持っていた彼のことだから、案外K-POPを聞き、スパイシーな韓国料理のみならずアジア諸民族の料理を毎日食べあるくのかもしれない。そしてyoutuberとして、インスタグラマーとして、そしてブロガーとして日本を発信していたのかもしれない。

彼は基本的に異文化に対して開かれた心を持っていた。欧米人が日本、そしてアジアを欧米に対して遅れたものとして楽しむオリエンタリズムの対象として、または欧米に脅威を与える「黄禍論」的に見ていた当時、彼はそのような潮流とは一線を画し、日本のこころを愛し、日本の生活を楽しんだ。それが結実したのが彼の一連の著作群である。これらは日本学の基礎文献となり、その後日本を統治することになるGHQの中でも必読書の一つとなっていた。

 

天皇制を残すきっかけとなったヘルンさん(?)

ヘルンさんの著作の愛読者のうち米国のボナー・フェラーズは、1930年に未亡人のセツさんに会い、「ハーンに日本を愛することを教わった。」と伝えたという。その彼が奇しくも戦後GHQの一員として赴任し、天皇制を廃止するのではなく、象徴として生かすことをマッカーサーらに進言し、GHQの総意となった。もしかしたら現在天皇制が維持されていることの一員も、ヘルンさんが英文で著した「日本人の天皇に対する思いの深さ」がフェラーズに伝わったからかもしれない。

そしてそれは、ある民族に接するときは、その時代背景や自分の所属する社会的グループからのまなざしでみるのではなく、自分自身の目で見て、愛し、楽しむことの大切さを伝えてくれたのだ。

公園を出て足元を雨にぬらしながら歩いていると、雑居ビルの一角に「新大久保モスク」の文字が見えた。そのほか韓国系およびそれ以外のキリスト教教会もあると思えば、豪華絢爛な台湾の道教寺院「東京媽祖廟」まである。そしてもちろん土着の神社もひっそりとたたずむ。出雲とは別の意味での「八百万の神」状態だ。文化の多様性と多くの宗教と雨水。ヘイトスピーチや住民のごみの分別問題など、解決すべき問題も山積みだが、基本コンセプトはヘルンさんの愛した町としてふさわしい。

 

韓国料理屋のベトナム人店員とヘルンさんからの課題

韓国料理屋に寄った。注文を取りにきた若者は、ベトナム人だった。実はこの町では韓国料理屋とはいってもベトナム人、中国人をはじめとするアジア系の留学生が切り盛りしていることも少なくない。

2020年12月の在留外国人の内訳に異変があった。コロナにより、前年より微減したとはいえ、約289万人の在留外国人がいるが、そのうち最多は中国人の約78万人、次は韓国、ではなく、初めてベトナム人が約45万人となった。ちなみに韓国人は三番の約43万人である。コロナ禍でも唯一ベトナム人だけは急激な伸びを示しているのは人手不足だからだろう。おおざっぱに言えば、1950年代から90年代まで韓国・朝鮮籍の人々は在留外国人の最大多数であった。それが2000年代から10年代には中国におされて2位、そして20年になるとベトナムにおされて3位となったのだ。

ベトナムの若者たちが切り盛りする韓国料理店。一方、その近くには日本人の高齢者のみを相手にしたような履物屋もある。この街を形容する「コリアタウン」では収まらない、多彩で多重な側面を持つこの町を歩きながら、ヘルンさんが亡くなった町の百年後の姿としては大体においてまずまず「合格点」だろうかと思っていたら、ヘイトスピーチ、難民申請問題、外国人労働者問題など、異文化ああ理解以前に山積する人権問題をヘルンさんに赤ペンで書き殴られたような思いで、傘をたたんで電車に乗った。

ヘルンさんをたどる旅を通して、目の前に広がっていた異文化理解および人権問題の課題を、とぼとぼと歩んでいこうとおもう。(了)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

PRその1 この紀行文の訳しにくい個所を集めて英語、中国語、韓国語に訳していく「日本のこころを訳し語る講座」を、以下の日時に開催いたします。

英語 6月7日19時半から21時半

中国語 6月14日19時半から21時半

韓国語 6月21日19時半から21時半

初回は無料ですので、ご関心のある方はぜひともご連絡くださいませ。

二次面接対策だけではなく、日本文化を翻訳するには最適の講座ですので、皆様のご参加をお待ちしております。

 

PRその2 

通訳案内士試験道場では、6月から3学期の授業が始まります。それに先立ちまして以下の時間帯、2021年度の地理、歴史、一般常識講座の体験受講を開講いたします。(各二時間、zoomのみ)

 地理 水19時半 土10時 

 歴史 木19時半 土13時 

 一般常識 金19時半 土15時10分

 実務 日19時半

  暗記中心の単なる受験知識の獲得ではなく、日本で唯一、発表中心のゼミ形式でよく考え、深く幅広い分野が身に着く刺激的な授業を、ぜひともご体験ください。

http://guideshiken.info/?page_id=230

事前に課題がございますので、本年度の合格を目指す方は、お早めに以下までご連絡くださいませ。

https://secure02.red.shared-server.net/www.guideshiken.info/?page_id=109