「旅マエ」は深川―「おくのほそ道」とつかず離れずで歩く東北地方 | ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

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2007年以降、300人以上の通訳案内士を養成してきた通訳案内士試験道場の高田直志です。案内士試験に出題された場所を津々浦々歩いたときの旅日記です。案内士試験受験生は勉強に疲れた時の読み物として、合格者はガイディングのネタとしてお読みください。

  「旅マエ」は深川―「おくのほそ道」とつかず離れずで歩く東北地方

 中高時代の古典の授業で覚えさせられた作品のうち、その後の私に最も影響を与えたものは、おそらく「おくのほそ道」だろう。古典的権威に対して斜に構えがちな私にも、この作品の特に冒頭部分は素直に入ってくる。

 「月日というものは、やってきては去り、またやってきては去っていく、旅人のようなものだ。(月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり)」

 この達観したような深い人生観は、スナフキンや寅さんなど、放浪の旅に憧れた十代の私に「旅=人生」「人生=旅」という公式を埋め込んでくれた。

 人生50年のころ、芭蕉は29歳という決して若くはない年齢で新興都市の江戸に下り、神田川等の上水道工事の手配人という「ガテン系」の仕事をしつつ、日本橋という町人の「都心」で俳諧の宗匠として、経済的、地位的にある程度の成功を収めた。が、37歳にして何を思ったか世を避けるかのように「江上(こうしょう)の破屋(隅田川の岸辺のボロ屋)」と呼ぶ深川の庵に移り住んだ。当時の深川というのは、「江東」すなわち江戸の東の境、隅田川のさらに東である。

そういえば私も34歳という、若くはない年齢で上京し、通訳案内士を養成しつつ、47歳で首都圏の境界、利根川の東の茨城県取手に引っ越したのでどこか似ているかもしれない。

 そんなことを思い返しつつ、深川を歩く。ここで訪日客に人気なのは、体育館サイズの室内に江戸の町をディテールまでリアルに再現した深川江戸資料館だろう。長屋の裏に手拭いが干してあり、そこからまだ水が滴っているほどのこだわった資料館だ。芭蕉資料館よりもこの施設のほうが江戸の庶民の町を体感できる。確かにあの名作の出発地点がこの地であったというにしては、公民館の二階に間借りしただけの芭蕉資料館は玄人向きというべきか、地味というべきか…。

 しかし小さな庭にある池は、良くも悪くも見ていて様々な考えが去来する。芭蕉はここを見て、「蛙飛び込む水の音」を聞いたのか?いや、ここは昭和に造られた施設だから、ここの池ではありえない。それに、蛙は何匹飛び込んだのか?いや、そもそも本当に蛙は芭蕉の目の前で池に飛び込んだのか?心象風景に過ぎなかったのでは?そのように考えがあちこちに動く、楽しい池である。

ちなみに文京区には彼が神田川の工事をしていたころに住んでいたとされる「関口芭蕉庵」があるが、後世の再現とはいえ、ここの古池のほうがはるかに芭蕉の世界を体現しているように思える。

 さて、庭のすぐ上は堤防になっていており、芭蕉の銅像も置かれている。芭蕉は確かにここからまだみぬ奥羽の地に向かった。目的は彼の思慕する鎌倉時代の歌人、西行法師の奥羽への旅を追体験することであり、「歌枕」、すなわち和歌の名所をたどることであった。今でいうならアニメや映画の「聖地巡り」のようなものだろう。

そのたびに対する思いを「私もいつごろからか、流れるちぎれ雲に誘われるかのように放浪の想いがやまず、(予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず)」「旅のことを考えるとそわそわしてきて、何も手につかなくなる。(そヾろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神のまねきにあひて取もの手につかず)」と、述べている。

観光業界には「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」という概念がある。彼の場合、普通の物見遊山ではなく「旅マエ」に数十年の文学修業があった。深川とは、彼が「都心」から移り住み、具体的に奥州の旅の計画をあたためる場所だったのだ。(続)

 

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