12月17日、チリ人は国民投票で、極右が支配する評議会が作成した新憲法案を否決した。この結果、アウグスト・ピノチェトが押しつけた法律の枠が、今後も継続されることになる。選挙機関(Servel)が全体を集計したところでは、「反対」票が55.76%を占めた。一方で44.24%の有権者が、非正規移民の扱いを厳しくし、現在の中絶法を見直そうとする提案に賛成した。

 

憲法案にたいする反対は、チリ全体の16地方において多数派を占め、とりわけ首都サンチアゴ・デ・チレ、バルパライソ、アントファガスタにおいては、賛成との差は20ポイント近くになった。投票は大きな混乱もなくおこなわれたが、4年前にこのプロセスが開始されたときの熱気からはほど遠いものであった。政治家たちがおこなった2つのプロセスによる憲法案が、いずれも多数を満足させるための合意が達成されなかったことへの、人々の疲労感をしめしている。投票率は84.36%で、前回2022年9月におこなわれた国民投票の、85.7%と大きな差はなかった。

 

ピノチェトよりも右に

 

共和党(PR)が支配する評議会が作成した新憲法案は、独裁政権より引き継いだものより、さらに保守的なものであった。条文のなかでも、とりわけ市場経済における国家の役割をさらに制限し、現行認められている中絶権利の3項目(暴行によるもの、胎児の生存不能、母体の危険)をも見直す。さらに移民の扱いについて、非正規状態のものは「可能な限りすみやかに」追放すると、強化策を提案していた。

 

憲法草案では主要住居への固定資産税の廃止、医療選択の自由、保護者の子どもの教育での選択の自由が規定されていた。医療分野での選択の自由は、チリにおける民間医療への支援を憲法上で認めようとするもので、このシステムのコストが非常に高いため、与党からは厳しく批判されるものであった。ガブリエル・ボリチ政権は、独裁政権の憲法を改革しようとする2年間のあいだの、今回2度目のプロセスにたいし、介入することはなかった。

 

「この国は2極化し、分裂している。このはっきりした結果のほかに、憲法プロセスは、すべてのもののための新しい憲法を持つという期待に、道を切り開くことができなかった」、ボリチは結果が明らかとなったのちに表明した。「政治はチリ人民に負債を持ってきた。この負債は、チリ人が求めていることを解決することによって支払われ、そのようになることを求められている」。大統領は政府庁舎から語った。

 

新憲法案が否決されたことによって、現行憲法が引き続き有効となる。少なくともボリチ政権のあいだは、2019年の社会爆発によって開始された憲法論議は、閉じられることになる。「わが国は現行憲法を継続させることになる。なぜなら国民投票にかけられた2つの提案は、いずれもこの美しく多様性に富むチリを、代表することも団結させることもできなかったからだ」、進歩主義の指導者は語った。

 

「最悪よりは悪いの方が良い」

 

現在チリ人の多くの関心は、暴力的な犯罪の増加と、それをチリ人は移民の進入に、その多くはベネズエラ人なのだが、それとインフレ克服のための強力な緊縮政策、その後の経済は回復していない、これらのことに集中している。より多くの社会正義を要求して街頭に出てから4年後、現在チリ人はより多くの警官、秩序、治安を要求している。しかしこの要求は、最近の世論調査では最大のものであったものは、12月17日の投票では、大きな位置を占めなかったようだ。

 

民主化以降、何度か改正されたにもかかわらず、ピノチェト憲法の変更は、チリ左翼の長年の願望であった。その始まりは違法なものであり、社会保障、たとえば医療、住宅、年金、教育など、その保護に欠けていた。しかし更なる保守的な提案に直面して、左翼政党とチリ進歩主義は、これに反対の投票をおこなうように呼び掛けた。

 

「わたしははっきりした意見を持っている。わたしはつねに、最悪よりは悪いものを選択する。将来、政権を取りたいと望むものがいるならば、統治するというのは合意に達することだということを、理解しなければならない」、12月17日、ミチェル・バチェレ元大統領は語った。憲法案は女性の権利を後退させるものであり、マチズモを強化するものと確信して、彼女が「反対」を支持するキャンペーンをおこなったことを批判する人々に反論した。「すべての男性の元大統領が自分の意見を述べたとき、誰もかれらを批判しなかった。唯一かれらが批判したのはわたしだった。そこにはマチズモがあるのだと、わたしは言う」。

 

バチェレとはまったく異なった立場から、セバスティアン・ピニェラ元大統領は、表明をおこなった。かれは首都のなかでももっとも裕福な地区の一つ、ラス・コンデスのラファエル・ソトマジョル高校で投票をおこない、政府を激しく批判する機会を逃すことはなかった。「チリには安定が必要だ。チリには団結が必要だ・・・チリを現在の泥沼から引き出すために、再出発することが必要だ。再び成長に、雇用を創出し、技術革新し、投資がされなければならない」、ピニェラは強調した。かれの兄は、独裁時代から続く、年金の民間システムの創始者である。

 

極右(スズメバチ)の巣を揺り動かす

 

保守派の独立民主同盟(UDI)は、結果を承認した最初の政党であった。この党は新憲法案賛成のキャンペーンをおこなった。その後、極右のホセ・アントニオ・カスト、共和党党首が敗北を認めた。「ある人々は今回の投票は勝ったのでも負けたのでもなく、解釈だと言う。われわれ共和党員は違う。勝ったときは勝ったので、負けたときは負けたのだ。われわれはこの敗北を、はっきりと認識している」、カストは言明した。かれは今回、新たな改革の試みで、もっとも目立った人物の一人であった。

 

有力上院議員のホセ・マヌエル・ロホ・エドワーズは、新憲法案に「反対」が勝利したことに、満足を表明した。かれはこうして極右、共和党内での指導権をめぐる争いの火蓋を切った。カストが憲法プロセスに賛成を決定したとき、かれと袂を分かち、新たなグループ形成をはかっている。ロホ・エドワーズは記者会見で喜びを表明した。左翼運動、連立政権、ピノチェトの権威主義体制を懐かしむ人々は、政治的対立の立場ではあるが、投票にかけられた憲法案に反対ということでは一致していた。

 

「今日われわれは、社会主義的な法の支配による国家の提案を葬り去った。民主的プロセスを踏まずに他国で作られた憲法案の思想を、司法プロセスの基礎に置くことができるという考えを葬り去った。権利を与えるのは国家であり、したがって単に法律によって、これを奪うこともできるという考えを葬り去った」。ロホ・エドワーズはリバタリアンらしい演説を、アルゼンチンの新大統領、ハビエル・ミレイと同じ調子でおこなった。そこでは決まり文句「あなた方を愛している。自由を守ろう」を何度も繰り返した。

 

クリスマスを控えた熱い週末の一日、大きな事件もなく経過した。その日大きな店は閉まっていた。34万人以上の人々が、この日、義務的国民投票をしなかったことに弁明した。これは2022年9月の国民投票での数の3倍となっている。これはこの国民投票プロセスに、一定の層が辟易としていることをしめしている。この数字は有権者の2%を占め、5月7日に、新憲法案を作成する憲法評議会メンバーを、選出するための選挙のときの4倍近くになっている。

 

1540万人以上の市民が、8時から18時までのあいだ、この憲法案に賛成するのか、反対するのかを表明するために選挙に招集された。この案は右派と極右が多数を占める機関によって作成されたものだったが、合意を得ることはできなかった。ピノチェト憲法に代わる憲法をチリが得るための2回目のプロセスは、2022年9月の後に始まった。このとき左翼が多数を占める会議が起草した憲法案は、国のモデルを根本的に変えようとするものだったが、圧倒的多数の反対によって葬られた。

(通算4011) (Pagina12の"Chile rechazó una Constitucion de ultraderecha pero queda vigente la de Pinochet"による)

 

(投票するボリチ大統領。foto:EFE)