短編小説 -3ページ目

短編小説

ホラー、ギャグ、エロなどの短編を書いております
暇つぶしにどうぞ

くそっ、こんな大事になるとはっ・・おれ達のせいってわけじゃないだろ・・
最終電車のつり革になんとか捕まりながら口に出さずに叫んだ
仕事仲間三人とおれでさっきまで自分達の正当性を確立するまで相当の量の酒を飲んだ
結局、あのオヤジが自殺したのは自分達のせいではなくあいつが度々の災難に見舞われ自分自身で人生を終わらせた
俺たちはそうゆう結論に至った
しかし
今こうして一人で電車に揺られてるとあいつの顔が鮮明に蘇ってくる
なにも職場であんな・・
手で口を抑えたが無理だった
俺はほぼ満員の電車の中でさっき飲んだ酒、食いもんを全部足元にぶちまけた
これでもかという険悪な表情を表し無理やりおれの周りから離れる人達
おれはそいつらの目も見れずひたすら謝り続けた
何人かの人達の靴におれの汚物がかかっていた
最悪の状況に耐えきれずにおれは最寄りの駅の二つ手前の駅を降り歩いて帰る事にした
相当の量を飲んだ、酔い覚ましには丁度いいのかもしれない
途中、見ず知らずの家の壁に嘔吐しながらも半分以上の距離を歩いた
都心から電車で四十分のこの辺りはまだ緑が豊富で時には狸やコジュケイの親子などにも遭遇する事がある
酔いも大分覚め缶コーヒーを飲みながら大きな敷地の脇を通り少し歩みを止めた
この場所は何年か前に大きなマンションを立てる予定だったが、地ならしの途中に大変珍しい遺跡が発見された
以来マンションの建設は中断され遺跡発掘のバイトの連中が押し寄せ地元の新聞なんかも取り上げ、地元をアピールするネタがほとんど皆無のこの街は一時期ハニワでこの街を盛り上げようとした
片腕のないハニワを
最初の一体が発見された時はたまたま片腕が壊れていたんだろうという話しになったらしい
しかしその場所からは一体どころか合計三十体以上の片腕のハニワが発掘された
こうなるとこれはなにか特別なもので大変貴重なものとして取り上げられた
しかし何年前だろうか、あれだけ大勢いた発掘のバイト達も徐々に減っていき現在は単なる空き地になったこの場所はもう話題になる事も全くない 一体何故?
と考えるまでもなくどうでもいい事だった
しかし今でも敷地には誰でも乗り越えられるような柵が掛かっているし、安っぽいプレートには片腕のハニワについての憶測やこの土地についての歴史が記されている
しかし何故おれはこんな場所で立ち止まったのだろうか?
翌日職場にいくと緊急の朝礼が開かれた もちろんあのオヤジの件だ おれたちのイジメがエスカレートしていたのは職長も知っていた
しかし職長は止めるどころかおれたちの行為を眺めて楽しんでいた
それほどまでにおれたちは病んでいた 12時間も同じ流れ作業を繰り返すこの工場を好きな人間なんて一人もいやしない
かつてない程の不景気でそれを覆す新しいものなんてこの国では到底生まれそうもない
誰一人未来に希望なんてもってない しかし生きためには当然、金を手に入れなければならない
希望のない現状でさらに奴隷のような作業を毎日こなさなければならない、最悪とはこういう事なのではないか?
そんな中あのオヤジだけは愚痴一つこぼさず働いた
職長の話しではあのオヤジは大手の広告屋だったそうだ
しかしリストラされたわけでもなく自主退社してこの地獄にわざわざ自分からきたのだ
理由は知らない
以前は妻子があったが今は独身
理由はおそらくそれだろうと、職長は以前、大勢の人間がいる休憩室で大きな声で喋った
オヤジはすぐにおれたちの的に、なった
最初は可愛いものだった
無理やり仕事の粗を見つけては難癖をつける その程度のものだったが息子ほどの年の差のあるおれたちにあからさまな嫌がらせを受けても謙虚な態度を崩さないオヤジをみておれたちは一線を超えていった
職長から履歴書の住所を聞き出し
玄関の前に猫の死体を放置したり
オヤジが便所で小便をしている背後に立ち、背中めがけて小便を引っ掛けたり 昼休み無理やり野球をしようと外に連れ出し顔面めがけて石を思いっきり投げつけたりした
それでも笑っているオヤジをみておれたちはバリカンで無理やりオヤジの頭をモヒカン刈りにした
職長は元より事務のおばちゃんまでもが
かっこよくなったわねー
と声をかけた
オヤジへの暴力がエスカレートしていくごとにおれは股間の力が抜けていくような奇妙な快感と、モラルがおれから抜けてなにか全能なものになったかのような錯覚に酔いながらおれは時には職場の便所でマスターベーションに耽ることもあった
そんな中オヤジは工場の門で喉元を包丁でえぐり命を絶った
出勤してきた従業員たちがオヤジを中心に輪になっていった
誰も言葉を発さなかった
職長がタバコに火をつけ一息吐き出すとポケットから電話をだし警察に事情を説明しだした
おれたちは検察らしき人物に事情聴取されたが
知らないとだけ伝えた
職長も事務のおばちゃんも大学生のバイトでさえ
検察はあっさり引き上げた
今朝の朝礼も形だけのものだ
職長がかったるそうにこうゆう悲しいことがありました
みなさんもどうか気をおとさずにして下さい
朝礼は15分で終わった
おれたちは無言でオヤジについての記憶を無理やり封印した
しかし忘れられるはずはない
おれは出来るだけ沈黙の時間を作るまいとほぼ毎日へべれけになるまで酒をのんだ
二週間ほどたった
おれはいつものように酔って帰ってきた アパートの階段をあがりきったところでおれの玄関の前に白く鈍い光を反射しているものが落ちていた
ん?
丸まった下着のようにも見えるしただのゴミにもみえた
隣の住民が落としたんだろうか
近くまでよってみる
ん?なんだこれ?
手にとって見てみる
補聴器?
なにか機械のようなものであるというのはたしかなのだが何なのかがわからない
近いのは補聴器だ
しかし不思議な事に素材がよくわからない
大きさの割りには軽すぎる
さらに不思議なのはデザインがどの時代にも当てはまらない
今のものでもないし昔のものでもない
しばらく見つめていたら眠気が襲ってきた
おれはそれをチラシ用に設置されたゴミ箱に捨てすぐさま寝床についた
すごく楽しい夢を見て目が覚めたが内容が曖昧にしか思い出せない
懐かしいけど全く知らない誰かと話している
その話がとにかく気持ちよかった
何についての話しかはこれも思い出せない
しかし俺たちが話している遥か前方にあの補聴器のようなものがあって
俺たちは話しながらそれを眺めていた、という事だけがやたらハッキリしていた
飯を軽く済ませ着替えて外にでる
気持ちのいい静かな朝だった
あの事が実はただの夢でおれは何も変わらず仕事に向かう
そんな気さえした
駅に行くには新興の建売住宅地を通らなければならない
歩いてる途中でふと気になった
静かすぎねえか
何の声もしない
声どころか気配を感じない
たまたまか?
その時雀の鳴き声が聞こえた
ホッとした気分になりタバコに火をつけて一服してから鳴き声の方に顔を向けた
すると一軒の家のベランダに目がいった
ベランダになにかいる
ん?
それは真っ白で人にしては大き過ぎる
ベランダの天井にもう少しで頭がぶつかるほど不自然に大きい
その大きい人らしきものが真っ白な布団のシーツのようなものを頭からかぶっている
よく見ると動いている
ピョンピョンと小刻みにジャンプしながら両腕を直角に曲げている
あれほど動いているならばベランダがきしむ音がするはずなのになんの音もしない
おれは何故かそれから目が話せなくなった
すると周りの視界がぼやけ、よりハッキリとそれがまるで3Dの映画のように飛び出してきた
動機がして意識が白くなっていく
足に力が入らなくなってきた
おれは屈み込み腹を叩き、立ち上がって一目散に駅に向かって走った
駅までの記憶か曖昧だ
覚えているのは途中、人間を見なかった
泣いているのか?涙で視界が潤んで見える
あっ・
人がいる
まばらだが確かに駅前には何人かの人達が歩いていたり携帯をいじったりしていた
嬉しくてさらに泣いた
あぁみんな・・職場の仲間達・・
みんなそろって駅にいるのか
そこには職長からパートの大学生までが揃っていて、俺に気付くとわずかに微笑んだ
あぁ・・どうしたんだみんな・・
腕が一つないじゃないか・・
あっ・・おれのも一つないや・・まあいいさ・今みんなと会えて・・・
突然腕に激痛が走った・・痛いなんてもんじゃない 異常な痛みに同調するかのように顔面が変形していくのがわかった
その時視界の上に誰かいるのがわかった いや、見なくてもわかっていた
悪気はなかったんです・・
お願いです・・許して下さい
オヤジの顔は何の感情も表してはいなかった
怒っているわけでも哀しんでいるわけでもない
よく見るとそれはオヤジそっくりに造られた人形で次の瞬間オヤジに関する記憶が全て消えた
腕の痛みが消えた
意識が遠のく
なんだろう
俺の身体が離れていく
俺が今、俺自身の身体を見ていて
それがどんどん離れていく
俺は悟った
俺の意識は今片腕にある
俺は片腕だけの存在になったのだ
気分は驚くほど気持ちいい
何かに吸い寄せられて流れていく
職場の連中の腕と一緒に
近づいてきた
大きさすらも測れないあの巨大な補聴器に
そこにはまばらだが大勢の片腕のないハニワ達が植物のように立っていた


END