ローマのモンティ地区では、アンジェロ(天使)という名前の老人が路上生活をしていた。
彼がどこからやってきて、このモンティ地区に居ついたのかはわからない。
いつも彼はモンティの中心にある、マドンナ・デイ・モンティ広場に姿を現しては、
モシャモシャ…とよくわからない発音のイタリア語で皆に話しかけたり、
タバコを一本、とねだったり、日向ぼっこをしたりしていた。
しかし不思議と、誰も彼を煙たがりはしなかった。
当時の師匠はヘビースモーカーだったから、広場でアンジェロに会うとよくタバコをやっていた。
あるとき、ほかの地域からやってきた警官が、
警察署の前で居眠りをしていたアンジェロを、邪魔だといって追い払ってしまった。
それを聞いた近隣の人たちは猛抗議し、彼はモンティの住人で、路上生活は彼のスタイルなのだからここに居させてやってくれ、と警官を説得したという。
私は一度アンジェロと話をしたことがある。
とは言っても、もしゃもしゃ…としか聴こえないから、何と言っていたのかはわからないのだが。
狭い路地で話していたから、向こうから車がやってきた時、あぶないよ、とでも言いたげに、
アンジェロが私を店の軒先に移動させてくれた。
何と紳士的な、と思った覚えがある。
数年が経ち、モンティに戻った時、何気なく広場のバールのお姉さんに、アンジェロは元気かと尋ねてみた。
アンジェロは亡くなっていた。
「この広場の横にある、マドンナ・デイ・モンティ教会でお葬式を挙げたのよ。
たくさんの人がお別れを言いに来て、それは立派なお式だった。
皆悲しんでいたけれど、彼が居場所として選んだモンティの教会で、皆に温かく見送られて、
幸せだったと思うわ。」
誰かが、アンジェロは本当に天使になったんだなあ、とつぶやいていたという。
(モンティの街角にて)
