何歳になっても、褒められると悪い気がしない。
もっと正直に言えば、嬉しいものである。
もっとも、それが利害関係が絡む知人からの明らかなお世辞や社交辞令ではなく、見ず知らずの人のホンネであれば、という条件付きではあるのだが。
熱海に住んでいた頃、8か月ほどの短い期間ではあったが路線バスの運転士を演じていた。
長時間労働、乗客とのトラブル、車両故障、接触事故等々、つらいことの方が多かった。
しかし、ごく稀にではあるが、乗客からお褒めの言葉をいただくこともあり、そのときは大いに励みになったものである。
ご存知の通り、熱海の道は狭くて坂道が多い。
コロナ禍の最近はわからないが、当時、駅周辺は休日ともなれば路上駐車や人があふれていた。
夏休みや年末年始などは、普段10分で走れる距離が1時間もかかる大渋滞にも陥る。
過酷な環境であった。
「熱海でバスを運転できれば、どこへ行っても運転できる」と営業所の先輩運転士たちは口にしていた。
あながち間違ってはいないと思う。
駅近くの交差点内に駐車しているトラックをギリギリですり抜けたとき、後方から
「うまいねー」
と呟く年配男性の声を耳にしたことがある。
狭路の坂道を走行中、
「こんなところをバスが通るの?」
と驚きの声を上げていた観光客のご婦人が終点の宿泊施設前のバス停で下りる際、
「プロの方だから当然なのでしょうけど、すごいですねー」
と声をかけてくれた。
観光客らしい家族連れの少年が降車の際、
「運転上手ですね」
と言ってくれてのは棒読みだったので、親が「言いなさい」と耳打ちしたからかもしれない。
自慢話のようになってしまったが、在籍していた営業所に50人あまりいた運転士の中で、自分は最もキャリアが浅く、もっともへたくそであったことも間違いない。
それでも、口に出して褒めてくれる人がいる。
バス運転士時代の数少ない良い思い出である。
そんな熱海を離れて1年半あまりになる。
熱海をテーマにしたブログを書かれている方が先日、自分のことを綴っておられて驚いた。
その方は老後に夫婦で暮らすべく熱海に古民家を買われ、DIYで少しずつ手を加えて家を再生していく様子がブログで紹介されている。
料理やお酒、植物などにも造詣が深い方で、いつも楽しく拝読している。
ブログを始められたきっかけが、なんとこの自分のブログに影響を受けたたからだと書かれていた。
気まぐれな拙文をいつも読んでくださっているようで、こちらが熱海を離れてもなおブログは「ストーカー」してくださっているとのこと。
お褒めのお言葉も目にしとてもありがたく嬉しかった。
歌の世界であれば返歌でも贈るのだろうが、ブログにおいては「リブログ」がさしずめ現代版の返歌ということになるのだろうか。
しかし、わざわざアピールするのは気が進まない。
さりげなく、この場をお借りしてお礼を申しあげます。
あたかも、バスを下車するときの乗客がごとく。