昨夜は奥湯河原温泉の加満田に宿泊しました。
ちょうど半年ぶりの訪問で、数えれば通算16回目ということになります。
通い始めて15年近くになりますが、ほとんどが独りでの利用です。
しかし昨夜は、呑み仲間であり、最近は旅仲間にもなりつつある友人のYと行きました。
加満田の良さを事あるごとに熱く語っていたため、ならば一度行ってみようか、という話でまとまったのです。
Yは会社の人間ドックが終わった後、東京から昼過ぎに湯河原駅にやって来ました。
こちらはクルマです。
チェックインの時間までちょっと時間もあるため、伊豆山にあるカフェでまずはコーヒーブレイク。
「やまぼうし」というカフェで、車で何度も店の前を通っていながら、なかなか行けずじまいであったため、昨日が初訪問でした。
森の中にあり、眼下に海を眺められる素晴らしいロケーションの店です。
軽食もあるようなので、今度は独りゆっくりとランチに訪れてもよいかと思いました。
充分にカフェタイムを堪能した後に、加満田へ行きました。
通い慣れた道です。
6月に、同じ湯河原温泉の「石葉」を訪れていますが、石葉はバス通りから外れた山合いに建つ宿でした。
加満田は湯河原駅からのバスの終点でもある奥湯河原バス停からすぐの立地です。
途中から緑が濃い木々の中を川沿いに走るのですが、いつも「山の温泉宿へやって来た!」という高揚感が味わえます。
8畳の部屋を予約していたのですが、10畳に6畳の次の間が付いた広い「まんりょう」に通されました。
この宿を定宿としていた水上勉さん命名の部屋です。
お茶をいただいた後、早速入浴。
大浴場にはスリッパがひとつあったので、先客の邪魔しないようにと、まずは露天風呂に行きました。
露天風呂は2つあり、空いていれば自由に使えます。
加満田の温泉は、どこも源泉掛け流しです。
加温こそしているそうですが、加水、循環、ろ過、消毒剤の投入などは一切していない、本物の温泉なのです。
肌に優しい温泉で、身体が温まります。
入浴後には、庭園を散策しました。
庭園といっても、きれいに手入れされた回遊式庭園の類ではなく、自然そのままの野趣あふれる空間です。
蜘蛛の巣にぶつかったり、蚊の襲撃に遭ったりもしますが、森林浴の雰囲気はよいものです。
そして、夕食。
朝夕食ともに、加満田では部屋食です。
昔ながらのスタイルを貫いているのです。
一品ずつ運ばれる懐石風ではありませんが、過不足ない量の料理はどれも上品です。
岐阜の酒「三千盛」も進みます。
今回は予約時に赤ワインとチーズをお願いしておきました。
食後、いただきました。
女将さん自ら、仕入れ業者の酒屋さんと相談して選んでくれたそうです。
また、湯河原では有名な「ブレッド&サーカス」というパン屋でわざわざバゲットも買ってきてくれ、チーズに添えられていました。
その心遣いは、嬉しいものです。
実に心地よく、眠りに落ちたのでした。
朝風呂を浴びてから朝食をとります。
帰り際、ちょうど帳場でお支払いをしているときに女将さんが中年の男性と共にやって来ました。
「こちらが……」
と紹介されたその男性は、昨夜のワイン仕入れ先の酒屋さんとのことでした。
とても口に合った旨、お礼を申し上げたところ、大変喜んでくださり、店にもぜひ来てください、などとおっしゃっていました。
お店で立ち呑みも出来るそうです。
クルマでなければ伺ってみたいので、訪問は次回以降のお楽しみにしたいと思います。
楽しい加満田での一夜を終え、山を下りました。
Yも満足してくれたようです。
「やっぱり人だね。気持ちが嬉しいね」
などと評価してくれました。
時代が変わり、旅人のニーズが変わり、宿にも変化が求められているかと思います。
しかし、変わるべき部分と残すべきものが、きっとあると思います。
加満田にはまだ、昔ながらの日本旅館の形が残っています。
純和風の建物や、部屋食というスタイルなどがそうですが、気遣い、心遣いなど、見えない部分での「さりげない」ことが、きっと快適な滞在に結びついているのだろうと思います。
大げさなサプライズ的な演出など、少なくとも自分は要りません。
「これが宿泊特典でございます!」などと押し付けてこられるのも、迷惑です。
静かに、快適に過ごせる、居心地の良い空間を提供してくれたら、それで十分なのです。
しばしば加満田に行くので、「また加満田?」などと言われることもあります。
これからも、おそらくは加満田通いは続くだろうと思います。
加満田が変わらないか、あるいは自分の心が変わらないかぎりは。