自分の愛用するものには名前を付けてきた。

 

初代スポーツ自転車の黒いクロスバイクにはダーク・デストロイヤー号、今乗っているランドナーという自転車には金剛号と名付けた。

 

ダーク・デストロイヤー号は黒いフレームで、乗ることで肥満を解消してくれたことに因む。外国製ということもあって英名にした。

 

金剛号はとにかく丈夫で走り続けることを願ってダイアモンドを和名にした。当時はまだ丸石自転車はこの自転車を日本で生産していた。

 

ついでに家内が乗る電動アシスト付き自転車にはロシナンテと名付けた。小説ドン・キホーテに出てくる、駄馬だがとにかく乗る人に忠実な馬の名前に頼った。

 

そして30年も手元にあったが全く使ったいなかったベースにもそろそろ名前を付けてもいいかなと思うようになった。最近は自分の膝の上にいることが多い。

 

自転車につけた名前はどれも男性名だった。しかしベースという楽器はどうも女性に思える。ボディのシェイプなどまさに女性だ。それに二人で音を奏でるのに相手はやはり女性だと思う。

 

このベースはプレシジョン・ベースというタイプで、よく似たジャズ・ベースがピチピチの若い女性を思わせる形をしているのに比べるとちょっとしっとり大人の香りがする。これは二つの種類の違いも知らずにアメリカの中古楽器屋で買って、買ってからジャズ・ベースの方がよかったなあと思う時期があった。

 

でも今、実際に今、弾くようになってみるとプレシジョン・ベースの方が好きになった。



 

以前にも書いたが、森信三という学者の言葉にこんなものがある。

 

「人間は一生のうち逢うべき人に必ず会える。
 しかも、一瞬早すぎず、一瞬遅すぎないときに。
 しかし、うちに求める心なくば、眼前にその人ありといえども、縁は生じず。」

 

好きな言葉というより、聞いて実感がある言葉である。

 

そしてそれは何も人間同士のことだけではなく、人とものとの出逢いにも当てはまると拡大解釈している。

 

おれはこのベースに逢うのが早すぎた。それがたまたま使わないのに手放さずいた。今ようやくその時が来たのかもしれない。

 

これまで名前を付けてきた自転車はどれも男性だった。このベースには初めて女性の名前を付けることになる。

 

どうにも戸惑う。アメリカ製のベースなので外国名がいいだろう。そこでおれはおれなんかよりずっと感性の豊かな人に相談したら、こんなのどうかなと教えてくれた。それはRadiata(ラディアータ)。ラテン語で放射線状に広がる、という意味だ。英語で言うとRadiationとなるだろう。aで終わるから女性名詞でもある。

 

音が放射線状に広がる。ラディアータ。そんな夢のような名前だ。まだおれの指からはじかれる音はそうはいかないけれど、いつかはそうなることを願い、音楽を通して人の輪が広がることも念じて。

 

使うようになってかなり洗ったし、弦も張り替えることになった。前のオーナーの使いこんだ様子を見ると、きっと若い時は大活躍したんだろうと思う。中古でメーカーもはっきりしないベースだが、音は悪くないようだ。生まれはきっといい家系の淑女なんだろうと思う。