3匹の猫のうち、一番小さな女の子のココちゃんは時々いなくなる。



外から帰ってきて家に入るとそらくんとチャイくんはたいてい目につくところにいる。ところが時々ココちゃんだけ見当たらないことがある。


いつもいそうなところ、ソファの上、キャビネットの上、長椅子の下、おれの布団の上、ピアノの椅子の上、どこを探してもいない。まあ、いつかでてくるだろうと放っておくと、いつの間にか音も立てずに足元にきて顔を脛に擦り付けてきたりする。


それはまるでそこから湧いて出てきたかのような不思議な錯覚を誘う。違う世界から戻って来たようなココちゃん。


🌼


ちょうど一月前、七月の初めの土曜日におれに今年の夏がきた。神奈川県北部の川で川遊びをした。それから毎週末は地元の市営プールで泳いでいる。


そろそろプールも飽きたので、また川に行ってみるか。ただし、穴場だったあの川も一月前は駐車場が満車になるくらい混んでいたから、もしかしたら八月に入ってさらに人が増えて車を停められないかもしれない。


そうだった場合に備えて一応プールは午後に予約をいれておく。川がダメならプールだ。しかし正直少しプールは飽きてきた。


川の途上にある一月前と同じ中華屋で食事をとる。11時の開店に合わせて1時間前に家を出る。


夏の空。川遊び日和だ。



開店間もないその店はまだガラガラだった。早くも食べ進んでいる男がいるところを見ると、開店時間の11時の前には客を入れているに違いない。回鍋肉をガッツク恰幅のいいその男は見るからに土木関係者だ。


さて、おれは何をたべるか。野菜たっぷりの中華丼とラーメンのセットにしようかな、と思ったが、また黒酢豚定食にした。肉に流れた。ラーメンはつけない。



いつも同じものばかり食べている。こういう保守化は思考能力の硬化につながりよくないとは思うのだが、なんともならん。好きなものは好きだ。つけ合わせのデカい唐揚げにとどめを刺された気がする。これさえついてなければ、回鍋肉飯と豚骨ラーメンのセットにしただろう。ごはんは一膳だけおかわりした。


腹パンパンだ。これで川で遊ぶ準備は整った。車のドアを全開にして中の熱気を逃す。そして乗り込んだ。山はもう近い。


針路を北西にとる。山が少しずつ迫ってくる。あれから一月か。早い。一ヶ月なんてあっという間だ。これから一月経てばもう九月。夏はあっという間に過ぎる。


その時、あることを思い出した。


水遊び専用シューズ忘れた!

下手こいたー!


どーすっか。


帰るか。


裸足で川遊びするか。


裸足はちょっと無理だ。あれがないと思い切り遊べない。それが正直な気持ち。


ハンドルを握ったまま煩悶した。


おれは今日は川で遊びたかったんだ!くそー!なんてこったい!


しかし、裸足であそこで遊ぶ気にならん。帰る。


ガソリン無駄に消費した。まあ、ドライブを楽しんだって考えるか。実際山の近くまで来て楽しかったんだし。


でも、プールの予約を保険的に入れておいてよかった。土曜日を棒にふるところだった。これで火曜日の水泳教室の復習が出来るというものだ。川に行きたければ明日行けばいい。


針路を北東に変えた。左が川方面、右が自宅方面。



帰宅すると、夏期講習から自転車で帰ったばかりの娘がのびていた。水飲みなよ、と声をかけるとぴょんと立ち上がってスパゲッティを茹ではじめた。大丈夫なようだ。


そのままの格好で自転車に乗り、プールへ向かう。少し早く来すぎた。途中の神社兼公園の日陰で一休み。鳩をバックに金剛号。



プールに到着。

やはり夏はプールか川に限る。水はかなり温くなっているが、それでも気持ちいい。


泳ぎ始める。すぐ感じたのだが、なんかおれ、疲れてるみたい。今日は腕も腿も重い。プール疲れかもしれない。


それにさっきの昼飯の消化がよくなく、胃酸がこみ上げてくるようだ。プールでは時々アナウンスで、嘔吐があった場合プールの公開をやめる場合があります、注意される。そんな奴いるのかね、と思っていたがその人の気持ちが分かった。なので控えめに泳ぐ。


結局、退水時間近くまでプールに滞在。またアナウンスで整髪や着替えに時間がかかる方はお早めに準備をするよう注意が入る。おれは毛髪はないし海水パンツをはいたまま帰るので心配はない。


そもそもデカいタオルも不用かもしれない。あれはかなりの部分、髪の毛についた水を拭き取るもので、からだについた水などささいなものだ。おれは普通のタオルで充分かもしれない。時間はそうしよう。


胃の調子は良くはなったが、消化不良にはチョコモナカジャンボが効く。買い食いするか。でも、持ち金みたらプール用に最小限のお金しか持って来てなく、88円しかなかったのであきらめた。


まだ夕食までは時間がある。帰宅したら冷房の効いた部屋で読書などして、眠くなったらそのまま夕寝しようと思った。