イワシ、鰻、もつ焼き、イカ。


K氏とはそういう専門店で飲むことが多い。


どの店も氏が認めた良店であった。特にイワシ屋は印象に残ってる。ひかりものは好きだが、アジ、サバ、サンマに比べてイワシはやや下等な感じがしていた。そのイワシが厳選されて、専門の料理人の手にかかると魔法のように絶品になる。刺し、〆、揚げなどどれも目を見開くほどうまかった。刺しより一手間かけた〆がとくにうまかった。


そのK氏から鰻の食べ放題の店があるが、と声がかかった。鰻は大好物だからその店を調べてみたら、割いて、開いて、蒸して、焼く、という江戸風のやり方ではなくて、どうやら焼肉屋がやっている、焼き魚としての鰻のようだ。どんなもんかなあーと思ったが、スーパーで蒲焼のタレを買ってもって行くか、とうつらうつらと考えていた。


そこへK氏から、あの店はあまりよくないようだ、との連絡。じゃあ、あのイワシ屋にしますか、と言うと、サバの専門店はどうか、と返す刀を振ってきた。新橋にあるが、とのこと。サバはもしかしたら、鯛やマグロより好きかもしれない。


開店時間の4時に予約を入れた。


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その日は開幕した市営プールに開場時間の10時に予約を入れてあった。その時間に合わせて自転車で出かける。予約制なので思っていたほど混雑してなく、50メートルプールはむしろ閑散とした感じだった。


50メートルプールは横に泳ぐルールになっている。20メートルくらいだろうか。これをクロールでは12ストロークで、平泳ぎでは5ストロークで泳ぎ切る。水泳教室に通う前はその倍はかかっていたと思う。


少し遅れてCornさんが来るはずだ。度付きゴーグル越しにCornさんを探す。ただしおれはCornさんの風貌を知らないし、彼もそうだ。言葉のやりとりはあれど、会ったことがないのだ。ほぼ同い年で、自転車乗りで、一人で来るという情報だけを頼りに探すが、それらしき人はいても、強烈なフォースを感じる人はいなかった。ここで出会えばいきなりはだかの付き合いとなるところであったが。マックスコーヒーの缶を片手に立っていれば目印になったかもしれないと後悔した。しかし夏は始まったばかりだ。いずれ会う日は来るということは確信めいてきた。


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少し早かったかな、と新橋駅に降り立った。



このSLはデゴイチ(D511)ではなかったのか、とこの写真を改めて見て初めて知った。それより、後方のグラスを傾けた美女のほうに目から行ってしまう。


歩いて行くとK氏の姿はすでに店の前にあった。考えることもすることもいちいち先回りされるK氏である。軽く挨拶して、エレベーターで地下へ案内された。が、降りてみたら事務所が雑居してるのみである。K氏もこの店は初めてだったのだ。お笑いでいう、つかみ、みたいな演出か。地上に戻って違う階段から降り直す。冷房がキリッと効いた、思ってたより小さな店だった。


予約しておいた刺身四点の盛り合わせを待ちながら、まずは生ビールで乾杯。90分2000円の飲み放題にする。プールの後で目が回るほど空腹だった。


ドンキのミックスナッツの話を枕に始まる宴。


忘れる前に、と、サウジみやげのデーツと干しイチヂクと、太る素だがおれゴリ推しのジェーソンの柿ピーを進呈する。


これがデーツか。


とK氏は関心したように眺める。


でも、これ日本でも売ってるでしょ、生の赤いやつ。


へー、売ってるのか。でも生で?デーツは木に成ったまま熟し、そのまま落ちずに木になったまま乾燥すると聞いたが。生で食べるとは知らなかった。生食用には早どりしちゃうのかな?若いうちは赤いのか。


でも、なんとなく納得できない気がする。


まてよ、とK氏はスマホで何やら調べ始めた。


ほらほら、これ。あ、間違えた!デーツじゃなくてビーツじゃ。


似ても似つかねーじゃんか!


似てるじゃん。一文字違いだ。


文字の違いじゃなくて全然違うものじゃないか!そう言おうと思ってやめておいた。氏は常人ではないのだ。一種の天才であって、それをおれは敬い愛す。


K氏は特別頭の回転は速いが、時々こういう常人には考えられないボケを真顔でかます。いつだか四国は高松に行って食べたホッケがうまかったわ、と言われてその時も納得できなかったが、氏は急に思い出して、ホッケじゃなくてアナゴだ、ということがあった。ホッケとアナゴは形も名前も全然違う。


そこへ付き出しの登場だ。



サバを柚子と和えたものとサバ寿司。これは酒を誘うアテだ。すぐに柚子サワーを頼む。


そして出てきた刺身四点盛り。



サバの燻製とは!これが微妙な火の入りと香薫でうまい。個人的には刺身より〆さばの方がうまかった。


サバはサバでも大分には豊後サバと関サバというものがある。その違いを知ってるか、とK氏は試すように聞いてきた。うーん。取れる場所が違うとか?


おしいな!豊後一帯で獲れるのが豊後サバ。その中でも認定漁師が認定漁法でとって厳選されたものが関サバ。とK氏。


こちらは刺身より楽しみにしていた塩焼き。



二人で一尾は大きすぎそうなので半身にしてもらう。立派なサバだ。これを見て思いついてしまった。新橋でサバが威張ってサバイバル。なさけないオヤジギャグは口に出さずに栓をした。


この塩焼きのサバは三陸産だがとてもうまかった。サバの料理としてはおれは塩焼きが一番好きかもしれない。この半身の半分あればめしは三膳はいける。


さて、ここにはその豊後サバを食べに来たのだが、それがメニューにない。店員にただすと、今入荷したところでこれから用意するので少し時間がかかります、とのこと。待ちますとも、と言って、それを刺身にするように、と申し伝える。


豊後サバの刺身。



包丁が入っているが、噛む歯を押し返してくるような肉質。さっきのとろサバとはまるで違う。これが豊後サバか。


K氏は実際大分まで足を運んでこの豊後サバの上を行く関サバを食べている。寿司にして一貫1800円だったそうだ。高いので一貫だけ食べてきた、と笑う。


やっぱ関サバはこれとは全然違う?と聞くと、全然違うよ!ときっぱり。そして豊後サバを口に運んで、うーん、でもこれと似たようなもんかな!と笑う。でもこれは実際に関サバを食べた者でないと分からないものだ。微妙な差が実は絶大だったりする。


飲み放題のもとをとるべく、サワーから焼酎のロックに切り替えて杯を重ねる。


以下、酔っ払ってきていたのか写真を撮ってなかった。


その後、この店を出てサラリーマンの天国へ向かう。まだ明るい。新橋駅前ビルの地下1階だ。ただし、サラリーマンの少ない土曜日だからやってないかもしれない。


行ってみたら、ド昭和の飲み屋街は半分ほどは営業していなかった。舞茸そばで有名な奥利根という蕎麦屋を発見。ここにあったか。


席が空いていたある焼き鳥屋へ。もうかなりお腹いっぱいだが、ハムカツと焼き鳥盛り合わせを頼む。酒は麦焼酎の二階堂をロックで。かなり早い店じまいで8時前には店を出た。それでも三杯飲んだか。


どうすっか。

K氏のホームグラウンドであり、おれも帰りやすい渋谷へ行くか。


あの本格的なインドカレー出す変な焼き鳥屋に行くか。あそこもいいけど、居酒屋だったら個室のところあるよ、とのこと。一も二もなく賛成。


渋谷の駅近にこんな気が利いた店があったのか、という地下深くの居酒屋に落ち着く。小さなカラオケボックスみたいな部屋だった。


酒は二階堂をボトルで。腹一杯といいながらデカいピザをホールでとってつまみとする。


人生論、半生記、死生観、恋愛論、健康論、旅行論、家族の話、仕事の話、と話は多岐に及んだ。もっと聞きたい話はたくさんあった。時間が経つのが早いことを恨む。夜はどんどん更けていく。二階堂が空になった。


そろそろ終電の時間を気にしないといけない時間になってきた。氏は渋谷からタクシーで千円札2枚で帰れる邸宅にお住まいだが、おれは下道を走ってもらってもその8倍はかかるアジトで寝起きしている。


店を出た。


ところが気がついたら全く違う店で赤ワインのグラスを傾けていた。これが今日飲んだ酒の中で一番うまかった。


駅へ急ぐ人たち。ということはまだ電車は動いてる。


また会おう、と言ってわかれる。K氏とわかれる時はいつも少し元気になってる自分がいて、それでいて少しさみしい気もする。


明大前駅で京王線に乗り換えられた。これでもう安心だ。K氏からすでに帰宅した、と連絡が入っていた。こっちはあと20分くらいだ、と通信する。


気がついたら下車する駅の3つ手前の駅だった。こういう時には電車では座ってはならないな。でもこの日は帰巣本能がちゃんと働いたようだった。


帰宅して風呂に入り少しばかり仕上げ酒を飲む。寝ようと思って自室に入ったらココちゃんが布団の上でこっちを向いて座っていた。


先週の川とこの日のプールで日焼けした。早く来た夏を追い越せ追い抜けだ。