学生時代に一度くらいはカンニングしちゃおうと考えた人は多いはずだ。やっちゃった人もいるはず。

 

してはいけないことだと分かっているし、卑怯なことだとも分かっている。でもついこの苦境を脱する為なら最終手段として仕方あるまいと自分に決断を迫る。そういうちょっとしたはずみでやってしまった人もいるだろう。

 

だが、もっと悪いのは計画的に行うカンニングだ。罪は承知の上、ばれた時の覚悟もできている。

 

およそ人類は筆記試験というものが始まった時からすでにカンニングという掟破りをしてきたはずだ。

 

そして現在ではスマホを使ったハイテクカンニングも横行してきた。おそらく試験というものが存在し続ける限り、カンニングはなくならない。


では、人類最古の筆記試験は何かといったら中国の科挙ではなかったかと思う。

 

科挙。中国の高級官僚採用試験である。

6世紀後半の隋の隋の時代に始まり、20世紀の前半の清の時代まで続いた。歴史的に見ればつい100年くらい前まで1400年も続いた試験制度だ。

 

まずこの試験には受ける資格を得るための厳しい試験がある。誰でも受験できるというわけではないのだ。さらにそこでえりすぐられた受験者の中から、一番厳しかった時代には倍率3000倍という大競争を勝ち抜いて合格して、ようやく進士という身分が与えらる。つまり、ほとんどの人間が不合格になるわけだ。


試験科目は四書五経などの儒教関連で、原典をすべて丸暗記するのは当然で、それを理解し、設問に対しては立派な文章を構成して立派な文字を墨書して返答しなければならない。1万人を超える受験者が貢院といわれる広大な会場に集められて、各受験者はその中の質素な独居房のような個室にこもって、朝は夜明けから日没までの時間に仕上げる。それが3日ある。

 


極度の緊張から発狂する者も出るし、中には死んでしまうものもいた。何度受けても合格せずに受験を繰り返し、70歳になってようやく合格する者もいた。その時点ですでに定年ではないか。一方、19歳で合格した天才もいた。


科挙は基本的に3年に一度しか開催されないし、地元からは優等生と目され、絶大な期待をかけられて受験に来ているわけだ。何が何でも受かりたい。となれば思いつくのはカンニングである。

 

科挙の歴史はカンニングの歴史でもある。もちろん主催者だってカンニング対策はする。徹底した持ち物の調査やボディチェックが行われる。なんとカンニンググッズを発見した検査係には銀の棒という報酬も出たというから、カンニング探しの方も必死であっだろう。


それでもこれだけの数の受験者が集まれば必ずカンニングをする者は出る。1回の科挙で一軒の本屋ができるくらいのカンニング用の豆本が発見されたというし、本だけでなく10万文字以上も小さく書き込んだ下着も見破られたそうだ。これらは今でも中国の博物館に展示されている。


中には見事カンニングに成功して合格した者もいたかもしれない。常識では思いつかないような手口を使った知恵者もいたかもしれない。万の数の受験生が3年に一度とはいえ千年以上も行われた試験だ。





 しかしカンニングが発覚したら最悪の場合は死刑が待っている。それでもカンニングする者が絶えなかったということは、それだけ合格することに魅力があったのだろう。


中2の娘も来年の今頃は受験生になっている。科挙に比べれば都立高校の受験などかわいいものかもしれないが、親としてはやはり心配である。まさか娘はカンニングしないだろうが、最後の最後は、どの学校でもいいからとにかく入学して高校生になって欲しいと願うようになるだろうと思っている。


最後に縁起よく、科挙の最終試験の殿試に首席で合格した人の手書き答案を。

皇上、とか、御製、など天子に関わる言葉は必ず列の頭に来るように文書を構成しなけれならない。マスは空けてはならない。そのために文章は頭をふたマス空けて書く。こんなにきれいに墨書できるだけでもすごい。