商品の輸出契約が決まると、送り状などと合わせて原産地証明という書類を作る。

 

これはどこ向けのこの製品は間違いなく日本製である、ということをメーカーとして宣誓するものだ。これを商工会議所へ持って行って内容を確認の上認証してもらい、印鑑を押してもらうことで権威付けされる。輸入する国によってはこの書類がないと商品を港から引き取れないことがある。大事な書類だ。

 

以前はこの書類は自分が作って、家内に商工会議所へ行ってもらっていた。前もって用意するので10日以内に、とか、できれば今週中に取ってきてくれ、とか言って頼む。商工会議所は職場から自転車で10分ほどのところだから、家内は郵便局や買い物に行くついでに商工会議所に寄る。

 

ところが家内のパートの仕事がだんだん忙しくなり雇われ管理者みたいになって、誰がどう見てもおれの方が時間があるようになった。なので、いつからか自分で愛(自転)車の金剛号で会議所に行くようになった。

 

何度か通ってみるといくつか問題があることが分かった。

 

まずお金である。認証一件ごとに1800円の手数料を支払うことになる。現金だ。自分で立て替えることになる。

 

原産地証明以外にもちょっとした文房具代や備品代は立て替えることがあるので、各月末には清算用の立替金リストにしわのつかないように保管しておいた領収書を角をそろえてピシッと添付して家内に渡す。しかし、不思議なことにそのお金は自分には帰って来ず、多分家内がその分を会社から引き落として家計に当てている。大きな目で見れば一つの財布だが、近視眼になるとおれは搾取されていると見えなくもない。

 

月の小遣いは1万円だ。それも言わないとくれないけど、言えばすぐ出してくれる。先月も忘れてたっけ、と言って2万円出してくれたりもする。酒代は家計から出してくれるが、それでもそこから立替金を捻出するのは小さな火の(三輪)車で、100円200円の文具代に比べてこの認証代1800円は大口の出費と言える。

 

次に時間である。商工会議所は近いが、窓口で申請してから30分ほどは待つことになる。いったん職場に戻ってもすぐ出直す感じだし、会議所のロビーでじっとしているのも癪だ。いきおい会議所近くのスーパーやディスカントショップで時間をつぶすことになる。そこの総菜コーナーにはおれのツボを知っているかのように、鶏の皮だけ焼いたものがおかずの弁当とか揚げ物の衣だけがおかずのものとかあって、買うわけでもないのに目移りしてしまったり、チョコモナカジャンボの価格比較をしたりしていてはじめは楽しかったが、もう飽きてきた。

 

お金と時間。1800円と30分。これは何とかならぬものか。

 

昨日、今回ばかりは訂正が入って急ぎで書類を認証してもらう必要が出来た。頭をひねった結果、妙案を思いついた。

 

家内がパート先から職場にやってくる時間はだいたい決まっている。朝はパートに直行して午後遅く、家内の愛(自転)車ロシナンテ号でやってきて職場に顔を出す。商工会議所はその途上にある。その時間を見計らって、まず先行して自分が商工会議所へ行き、書類を申請する。そしてそのまま職場に戻る。その前に家内に電話して職場へ来る途中に会議所に寄って書類を引き取ってくるように頼む。会議所への支払いは受取時である。

 

こうすればお金は家内が立て替えることになり、おれは30分という時間を浪費せずに済む。一石二鳥ではないか。

 

ところが会議所に行く前に電話しても家内は出なかった。作戦にほころびが生じ始める。商工会議所に着いてからもう一度電話。つながらない。だいたい電話で話すと照れるくらい電話で連絡を取り合うことがまず無いので、おれから電話がかかってくることなど想定していないのかもしれない。よくできた作戦だと思ったが、机上の空論だったか。敵(?)を知り己を知らなければ百戦百勝とはならないという孫子の教えを忘れていた。

 

やむをえずスーパーで30分を浪費した。せめて現金の立て替えだけでもなんとか阻止したく、受取に行く前に、最後に会議所の玄関でもう一度電話した。やはりつながらない。週末に釣りに行っていくらかお金を使っていたので、1800円を払うと残りは千円札が3枚と小銭だけになってしまった。

 

家内は昨日は結局職場には来れないくらい忙しかったとのこと。策に溺れたおれだった。

 

今後、この作戦はより慎重に実行すれば成功すると思う。それよりまだ20日も残っている今月を経済的に乗り越えられるかが問題である。とりあえず、今月いっぱいは柿ピー大袋410円は我慢することとする。