人の巡り合わせには、時に奇跡かと思わせるものがある。


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サウジアラビア。

ここ数年で大きく国が変わりつつある。単純に言うと、閉鎖から開放に向かっている。あくまでも国の根幹は維持しつつ、開かれた国を目指すようだ。


これまでなかった観光ビザ制度も出来て随分渡航しやすくなったようだ。それでもまだこの国を訪れる外国人は少ない。


コロナ以来、4年ぶりにこの国の首都を商用で訪問した。


かつての定宿が予約で一杯で取れず、やむをえずそのホテルに近い、同程度のランクのホテルに初めて泊まることにした。


その小さな入口には小さなスマホショップが自分が主と言わんばかりな趣きで店を構えていて怯む。こちらの街ではよく見るアフリカ系の客向けの安宿と佇まいは変わらないないではないか。それでいて三星を名乗り、それなりの料金を取る。そこからエレベーターで一つ上がったフロアがホテルの受付であった。


そこから上は別世界であった。優雅とはいえないがゆったりとした空間が広がり、西欧人でも喜んで泊まれそうである。部屋に案内されてさらに驚いた。部屋は広く、セミスイートであった。初めからこのホテルにしておけばよかった。



ところが部屋に入ってスマホをwifiにつなごうとするのだが、教えられたパスワードを入れてもつながらない。仕方なく8階の部屋から1階の受付にとってかえす。


スマホをいじりながらエレベーターに乗る。降下し始めたエレベーターは途中で止まったようだった。ふと顔を上げるとそこは6階であり、一人の男性が乗ってきた。


Aさん?


あれ、Lotusさんじゃないですか!?


取引先の日本の商社の方ではないか!同じくサウジ相手に商売をしているのは知っているとはいえ、こんなところで会うとは。


ホテルなら星の数ほどあるこの石油大国の首都のある一つのホテルで、同じ日の同じ時間に、同じエレベーターのカゴで鉢合わせするとは!


驚き過ぎると逆に麻痺するものか。なんだこの偶然は、と頭の中では驚嘆しながらも、日本で会う時と変わらない感じで話をする。聞けばこのホテルにチェックインしたのも、チェックアウト予定の日も同じであった。


滞在中に一杯飲みましょう、と言いかけてこの国では酒が飲めないことを思いだし、夕食を共にすることにした。後日、その夕食の席であれよあれよという間に新たな仕事が展開した。それがバンコクで軽い軟禁状態につながったのだが。しかし、巡り合わせというのは予期できないものだ。


約1週間のサウジでの仕事を終えて、帰途に就く。Aさんに、今度は日本で会いましょうと約束して先にホテルを出た。


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タイ。

サウジでの仕事のあとはタイのバンコクに寄って2、3泊し、骨を休めて帰国するのがお決まりのパターンだ。戒律に厳格なサウジから、ある意味なんでもありのタイへ。


今回はバンコクには3泊した。いつも通りチャイナタウンのホテルに泊まる。


日本を出る前に、今回の出張のことをタイ好きの友人に話したら、自分もその頃タイに遊びに行ってるよ、という。へえ!


渡航は3度目になるのだろうか。張り切り者で活動的なこの御仁は、タイに関しては後輩だった。ところがいつも出張の骨休めでただチャイナタウンでシンハビールを飲んで沈没している自分より、よほど色々なところを訪ねて歩き、様々な、時には危険な体験も積んで、いつのまにかタイについては先輩と仰いだ方がよくなった。


今回はバンコクを西に離れてカンチャナブリを訪い、さらにミャンマー国境を目指すという。


話を聞くと、うっかりこっちも休めるはずの骨に鞭を入れたくなるほど精力的な計画だ。ただし、今回は自分はバンコク滞在中もサウジで生まれた仕事について取引先としばしば連絡を取りあう必要があり、タイでも通信の届く範囲外に出ることは憚られた。


どうやら友人とは2日ばかりはバンコクにいる日が重なると分かった。まあ、会えれば会おう。でもせっかくのタイだからそれぞれしたいことを優先しようとゆる〜い約束をした。


その後、バンコクで送られてきた冒険譚をリアルタイムで読み、写真をみて、ああこの人は本当にやりたかったことをしてるんだなあとうらやましいというより、なんというか励まされるような気がした。楽しんでるなあ!


まずはパタヤに行ったようだ。

ドリアン食べたり、タイ古式マッサージ行ったり、楽しんでおるようで結構。





大雨にあったりしながら、その後は西へ西へ邁進したようだ。リゾートだけでは物足りないか。


映画、戦場に架ける橋、の舞台のカンチャナブリだな。バンコク素通りか。





さらに西へ。


ほんとに行くとこまで行ったな。帰って来れるのか!?まあ生命力は異様に強い人だから大丈夫だろう。ははは。


写真を借りる。


乾季じゃないと現れないという幻の橋。これが見たい、とは随分前から聞いていた。ついに自分の目で見たか。よかったな!



川の向こうがミャンマーに違いない。





見る人によってはなんともない写真かもれないが、おれは激しく惹かれた。


一方、ガパオライスを注文したのに、



なぜか白米だけが出てきたり、どこかぬけたところが露呈する人柄は国を問わないようだ。この皿を見て大きな目をぱちぱちさせて呆然としてる顔が目に浮かぶ。笑える!


結局、自分はサウジでの展開し始めた仕事はバンコク2日目してほぼ成立して軟禁状態は解け、背中を押されたわけじゃないけど、3日目は電車でバンコクを離れて郊外へ日帰り列車旅に出ることにした。やや乗り鉄の気がある。


バンコク近郊のこんな列車旅でもうっとりするほど満たされる。なんだこの妙な懐かしさは。冷房無しの普通列車にバス停みたいな無人駅。





バンコク近郊でさえこれだ。ミャンマー国境まで行ってやつはどれほど楽しんで来たことか。


なんとこの日、ミャンマーからバンコクに来たその脚で、おれの宿泊先であるチャイナタウンに来たそうだ。すれ違った。


送られて来た写真。

今朝おれが食べた点心屋、このすぐそばだよ。多分、3時間くらい前におれはここにいた。大いなるすれ違いってやつか。


これも借りた写真。


おれのホテルの近くも歩いてたんだな。



日本でもなかなか会わない二人なのに、外国で同じ日に同じような場所にいる。それでいて会わない。これももしかしたら奇跡に近いのかもしれない。最後の夜は地下鉄一本で行けるところに泊まっていたはずだ。


外国に1週間ほどもいると、お互い日本食が恋しくなるというか、地元での食事に食傷してきているというのか、まあ、東京に帰ったら食傷するほど鰻を食べながら飲むか。そうしよう。


それがバンコクでの最後のやりとりであった。


先輩はすっかり旅慣れてしまい、帰りの空港では作ったプレミアムカードで空港のラウンジで時間を優雅に過ごしたりしてる。自分も申し込もうと思ったが出発するまでに間に合わなかったのだった。これは次回からの楽しみにする。


借りた写真。



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サウジでは、ホテルのWifiが普通につながっていたら、取引先の方とはすれ違うはずだったし、新しい仕事の話もなかったはずだ。

そしてタイでは、前もってお互いがタイにいるとしらなかったら、サウジでの新しい仕事の話がなかったら、チャイナタウンで鉢合わせしてもおかしくなかった。

因縁とか連環とか、鉢合わせとかすれ違いとか、まさかこんなことがあるんだなと思わせる海外での出来ごとであった。これも停滞からは生まれないことであって、外に出て流動していたからこその体験であったのではないか。妄想家を自認してるけど、こういう出来事に喜びを感じ、旅に出たがるのは実は体験家でもある証左なのかもしれない。