バンコクのホテルをチェックアウトする。


その直前になって腹の不調に気がつく。下痢ではないか。


トイレへ駆け込む。正露丸は持って来ている。おまじないくらいにしか思ってないが、一転して祈る気持ちで薬セットから抜き出す。大人は3錠と書いてあるが4錠飲む。


今朝飲んだ屋台のアイスコーヒーの氷が原因ではないか。飲みつけないコーヒーに、さらに海外では基本的に気をつけるべき屋台の氷に油断していた。そもそもよく聞くけれど、海外で下痢するなんて他人事だと思っていた。



脳天が溶けるような甘さに惚れ込み、タイの国宝をシンハビールからタイ式コーヒーに宗旨替えしそうになった矢先だった。尻の軽さに天罰か下ったか。念の為、正露丸は2錠追加して口に放り込む。


なんとか出すものを出してホテルを出た。


小康状態を保つが、腹に爆弾を抱えたようで気が休まらない。昼食でもとれば時間つぶしになるが、食べると爆弾の導火線に火をつけるような気がしておっかない。


しかし、出してしまったので水分不足が心配である。それにバンコクではちょっと外を歩いただけで大量の汗をかく。脱水では痛い目にあったことがある。


とりあえずMBKセンターへ。



掲げられた看板をみると、ここは日本ではないかと勘違いしそうだ。


時間つぶしにはもってこいだが、先月来たばかりで新鮮さを感じない。


食べるのはおっかないが、脱水予防のためにもなにか飲まないと。飛行機の中で失神でもしたら大変だ。そういえば降圧剤飲むのも忘れてた。


フードコートに足を運ぶ。なに飲むか考えたら、結局これだった。


 

タイ式アイスコーヒー。我ながら懲りないヤツだと思う。ただし、ここは屋台ではない。管理の行き届いたはずのバンコクを代表するフードコートの一つだ。


自分の腹を探りながら少しずつ飲む。ああ、甘くてうめえ。本を読みながら、女子高生の歌う、タイ式コーヒー並に甘いバラードを聴きながら飲む。



腹の様子は大丈夫なようだが、昼の食事は抜く。そういえば今朝はまたカオマンガイを食べたのだ。普段は朝昼抜きなので、さすがに腹も不摂生にとうとう腹を立てたのかもしれない。




なお、右端の茶色いキモみたいなのは、タイ旅の友人からこれであたったことがあると聞いていたので食べなかった。


空港へ。


その電車の中でスーツケースのカギのことを思い出した。財布の小銭入れに入れたよな、と自分に聞く。自信ないなと自分が答えた。


大きなスーツケースはバンコクでは使わないものを詰めて空港の預かり業者に預けてある。いるものだけリュックに背負ってバンコクの町に展開したのだった。


財布を改める。カギはない。なくした。でもスペアはある。どこでなくしたのだか。


空港に着いて預かり業者に寄る。なんとカギは刺したままだった。しかも折れ曲がってるではないか。慌てて抜こうとしたら折れた。あっけなく。


スペアはある。しかし問題は折れたカギの先っぽがカギ穴に残って抜けないのだ。これではスペアのカギをさせない。


重たいスーツケースを公衆の面前で振りまくって落とそうとするがダメだ。出てこない。


格安航空券なので預け荷物は20キロまで。それに液体は持ち込み不可だからほとんど飲んでないウイスキーのボトルはリュックからスーツケースに移さないといけない。そしてできるだけ20キロに近い重量をスーツケースに入れたい。身軽になりたいので。


要するにスーツケースとリュックの中身の調整をしなければならないのだ。スーツケースが開かないと話にならない。


カギの先っぽを抜くために、預かり業者に何か工具を借りようかと思ったが、閃いた。おれには秘密兵器があるではないか。



川越で買った毛抜き。先っぽが鬼の角のようになっている。なんでこんなものを持っているのかと問われれば、少し恥ずかしい答えをしないといけない。


それはさておき、この秘密兵器はこのために用意されたのではないかと思うくらい、きっちりカギの先っぽをつかみ、引き抜いてくれた。007でもこんなにスマートに処理できなかっただろう。



荷物の配分を済ます。自分の勘でスーツケースは20キロ弱に納めたつもりだ。ふと、見るとこの業者、重量測定器を用意していた。しかし、一回測ると10バーツと書かれている。金とるか。


4日預けて400バーツ払ったばかりだ。ただで測らせて欲しい、とストレートに頼む。ちょっと首を捻った若い男に目力で、いいよ、と言わせた。測ったら19.2キロだった。007でもこれほどスマートに配分できなかっただろう。


おれはタイで太ったから、ただに乗じて自分の体重も測るべきだったか。笑。


笑ってる場合ではない。帰ったらダイエットだ。


搭乗前のチェックインへ。

ここで正式に航空会社の秤で測られた。



上出来と言える。


昼を抜いて腹の機嫌もよくなったので、最後の一杯を。やはりこの国のおれ的国宝はこれである。



もう、宗旨替えなど考えもしないだろう。


少し食傷気味だが、まだバンコクにはいつか来る。スーツケースのスペアキーを買って、正露丸も買い足して。


腹ごしらえしておくか。