クロールの腕のかき方には大きく分けて、ハイエルボーとストレートがある。
水泳教室に通い出して半年。なんとなくそれは耳に入ってはいた。しかし自分はどっちだかも知らなかったし、そのふたつの違いも名前から想像するだけだった。
先月末のレッスンで先生からこのふたつの違いについて説明があった。その名の通り、ストレートは肘を伸ばして腕を回転させ、ハイエルボーは腕が水から出ている時に肘を曲げるようにするといったところだった。ストレートはゆったり長く泳ぐのに向き、ハイエルボーは回転数を上げて速く泳ぐのにいい。
先生が生徒を集めてそれぞれの泳ぎ方の見本を見せてくれる。ドリフの8時だよの体操コーナーでいえば、仲本工事役である。
かっこういいのは断然ハイエルボーであるが、自分が目指しているのはゆったり泳ぐことだ。ハイエルボーはいかにも玄人な泳ぎに見える。
なんとなくおれはハイエルボーかな、と思っていたが、先生に聞いたら、あっさりLotusさんはストレートですね、とのこと。ちょっとがっかりしたが、違いを聞いてから泳いでみたら確かに自分はストレートだった。俄然、ハイエルボーを覚えたくなった。
課題ができると燃えてくる。
先生にその旨を申告。あらかた腕の回し方は習った。だが実践は出来なかった。では4月からのレッスンでやってみましょう、といことになった。今日はその初日であった。
先月末のレッスンの後、時々思い出しては空中で腕を回してみた。
おそらく習わない限り、初めからハイエルボーで泳ぐ人は少ないと思われた。自己流でやればストレートの方が自然に思える。
ストレートは腕を後方までかき終わったら、小指から水中から抜いていき、手の平を外に向けて腕を回していく。一方、ハイエルボーは親指から抜き、手の平は気持ち内側に向ける。
空中で腕を回してみるのだがひどくぎこちない。こんなことで頭がパニックを起こしている。こんな単純な動きでも体が覚えた動きを矯正するのは容易ではない。これを水中で、バタ足や息継ぎなどと一緒にやったら到底できるものじゃないと思った。
先生に、今日からはハイエルボーでやってみますと宣誓する。先生はにっこり笑って6月までには覚えましょう、とおっしゃった。それくらいでものにできるものなのか。
で、やってみたが、できない。足は止めた。腕に意識を集中する。空中ではなんとかできたものが水中ではできない。えらくぎこちなく、ギッコンバッコンきしむように泳いでいるのが自分でもわかる。25メートル、息継ぎも忘れて面かぶりクロールになる。泳ぎ切ると息切れしている。気を抜くとストレートに戻りたがる自分の体に鞭を打つ。4月に入って新しい生徒さんも増えていいところ見せたいが、たぶん初心者に見えているだろう。
何度も試行錯誤を繰り返す。らちが明かずに先生に相談する。おれの泳ぎをしばらく見ていた先生は、腕が後方までかき切れていない。水中でひじが曲がったところで水から抜いている。後方までひじを伸ばしてかき切ってから、改めてひじを曲げて腕を肘から水中から抜くようにしないと、ということだった。
泳ぎをやめてイメージトレーニングする。腕を前方に送った後、水中でひじを曲げて水をかき、さらに後方までひじを伸ばして水をかく。そこから改めてひじを曲げながら腕を抜く。
それを自分は後半のかきを端折って水中でひじが曲がったところで抜きにかかっている。ショートカットしている。
理屈は分かった。ただできないだけだ。頭を使わないスポーツや武道ほど味気ないものは無い。考えながら数をこなすしかない。
来週から出張で水泳教室は2回休むことになる。これ、結構イタい。まだつかみかけたというところにさえ行きついていないが、頭には残っている。
そうだ。出張先で泳げばいいのだ。ホテルにはプールがある。今までみたいにぷかぷか遊んでいないで、クロールの稽古をすればいいのだ。海水パンツは洗って度入りのゴーグルを持って行くことにした。出張先でハイエルボーをものにして帰国し、先生をあっと言わせる。悪い作戦ではない。でもプールでほかの客に迷惑にならないようにしないとな。