英語なら、

ハウアーユー?→ファーイン。アンド、ユー?

確か中学生の時、そう習った。

 

フランス語なら、

コマンタレブー?→サヴァ。

この辺まではたいてい誰でも知っている。

 

アラビア語だとこうなる。

アッサラーム・アライクム→ワ・アライクム・アッサラーム

 

この辺になると知ってる日本人は少ないかもしれない。

 

定型の挨拶くらいはできる。

 

アラビア人との商取引を始めて25年。しかしアラビア語は全く話せないし、読み書きできない。

 

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アラビア語を勉強しようかな、と思ってからすでに10年。その時学び始めていれば、今頃そこそこ話せるようになっていたんじゃないかと思う。やってないから思うだけだけど。

 

後悔しているわけではない。

 

何事も始めるのに遅すぎることはない。

 

明日死ぬと分かっていて、仏教を今から学び始めても全然無駄ではない。学ばない者がそれを笑う権利はない。

 

じゃあ、お前は今からアラビア語を勉強するのか。

 

そうとも。

 

だが、それを阻むものがある。

 

翻訳アプリだ。言語生成AIというのか。ガンマがらみのGTPなら知っているが、ChatGPTとかいうのもあるらしい。

 

それほど高級なものでなくても、小さなスマホに何語でも訳して、話して、書いてくれるアプリが収まっている。

 

こういう、ふつーの人間の努力意欲を削ぐ、できすぎのアプリがタダで手に入る。

 

翻訳だけではない。おれがやるよりコイツに任せた方が正確だし、無責任に任せられる。そういう道具がどんどんできている。ふつーだけど一応まじめな一般人がやる気をなくすソフトが増えていると聞いていたけど、実感する。

 

だが、言葉をアプリに任せて全てよし、とばかりはいえない。

 

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出張先の中東で取引先を訪ねて商談をする。

 

こちらは一人で相手はたいてい二人か三人。時には五人くらいぞろぞろ出てくる。

 

完全アウェイで数でも不利だ。おまけに言語力にも限りがある。

 

英語でやりとり、といっても全然スマートなものじゃない。自分は日本語訛りの、相手はアラビア語訛りの、生粋のイギリス人やアメリカ人が聞いたら、おやまあ、といった程度の、いんぐりっしゅ。

 

こういう場では英語は言葉であると同時に道具であって、それを使って意思や熱意が伝わればよい。これまで現場で学んだものは語学力ではなくて、下手な英語を厚顔で話す図々しさであると言える。

 

1対1ではない。相手は仲間うちで相談しながらこちらに提案、返答する。その相談はアラビア語だから何を話しているのか皆目わからない。理解できない彼らのおしゃべりを聞きながら妄想が始まる。

 

この日本人は1ドルもまからん、と言っているが5ドル引けとふっかけてみようか。いやいや、10ドル下げろと言ってみよう。そうだな。ははは。

 

そんなことを相談してるのかな、と妄想する。時々知ってる数字のワヘド(1)、とかハムサ(5)、とかいう音が耳に入るので、妄想に拍車がかかる。

 

いや、もしかしたら全然違うことを話しているのかもしれない。彼らが時々にやにや笑ってるのはなぜだ。もしかしたら、

 

この扁平顔の日本人はサルに似てないか?知能レベルもサル並みかもしれないな。ははは。じゃあ1ドルじゃなくて5ドル下げさせようか。

 

なんて相談してるのかもしれない。まあ、それは冗談として。

 

商談も終わりに近づく。

 

サル顔とはいえ、せっかくはるばる日本から来たのだ、ランチは国際ホテルのレストランのアラビア料理のフルコースを振る舞うか。いやいや、こいつはビリヤニさえ食べさせておけば機嫌がいいからその辺の屋台でビリヤニとチキン65くらいでよかろう。

 

多分そんな流れで扁平顔はにこにこしながらビリヤニを食べることになる。それで結構満足なのだが。

 

そういう、うちわのひそひそ話を聴き取るためにスマホをオンにしてテーブルに置くことはできない。警戒される。こういう諜報活動にはナチュラルな言語力がやはり必要だ。レベルの高いネゴシエイターになるにはアラビア語を学ぶのは無駄ではない。

 

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アラビアに行くなら覚えておきたい言葉が3つある。

 

インシャアッラー: なるようになるさ

ボクラ: 明日にしよう

マーレーシュ: 気にするな

 

覚えるべきは、まずは言葉より気質かもしれない。