昨日の午後、自転車で図書館へ出張に持って行く本を借りに行く。


駅前の大通りを渡って住宅街のクランク状の小道に入る。この時、ダース•ベイダー並みの強いフォースを感じた。多分、いる。自転車の速度を落とす。


クランクの最後の角を曲がると、いた。


せんせ〜い。


驚ろかさないように、遠目から大きくなりすぎない声で間延びさせて呼ぶ。


稽古会の先生だ。この近くにお住まいである。この日は女の子と一緒に愛犬のチビ太郎号を散歩させていた。名前はチビだが体はデカい。もちろん、先生は生徒に教えている通り、常に背中にも気配を感じているから隙はなく、反応は早かった。


あら。


自転車から降りて脱帽し、敬礼する。

すでにメールでは出張の為稽古は2度ほど休む旨連絡差し上げているが、それを口頭で改めて申告する。


母君が春なのに熱中症にかかったことなど普段稽古場では話さないことをお話しになるのを聞く。


先生より背の高い女の子が振り返ることなくチビ太郎に引っ張られるように先行する。この子だろうな。


別れ際に、先生のご近所の中学生の子、お名前は何というのですか?と尋ねる。娘に先生のご近所の子が同級生らしいよ、と言ったら、なんていう人かなあ、と気にしていたので尋ねたわけだ。


さっきの子だよ、チビ太郎連れてた。名前を教えて下さってからそう付け加えられた。やっぱりそうか。しかしうちの子に比べて大きな子だ。というか、うちの娘ちゃんがチビなのか。


でもね、と先生は足を止めて言った。あの子、不登校なの、部活だけ行ってるけど。うちの犬の面倒、よくみてくれるんだけどね。


先生のお宅へ曲がる角で失礼して図書館へ向かった。あの子の名前を忘れないように頭の中で10回反芻しておく。最近3回くらいでは心許なくなっている。


夕方、出張先への土産を買いに隣町のデパートへ向かう。珍しく家内と娘を伴う。かつてはあの人にはネクタイであの人には財布、とか苦心して選んだ土産だが、最近はヨックモックの菓子に決めている。この菓子、なぜか中東の人に大人気なので選ぶ手間もなく大小取り揃えて7つほど包んでもらう。大旦那になった気分だ。


包んでもらう間に娘に同級生の子の名前を教えて、その子知ってる?と聞くと、あー、と答えた。知ってるっていうかー、席隣りだよ。


はー!

娘の学年は7クラスある。クラスが同じでもかなりの偶然だが、席が隣とは!どれくらいの確率なのか、確率偏愛オヤジのおれでもすぐには算出できなかった。


でもね、その子不登校だから見たことないの。


そういえば、去年はウクライナからの転校生が隣の席だったし、娘は何かモッてるのかもしれない。ダース•ベイダー並みのおれのフォースの遺伝かもしれぬ。この子には息子にはない何かがある。


娘とその子とは小学校は別である。それにまだ新学期が始まったばかりだから会ったことがないのも頷ける。それに最近は不登校の子は珍しくはない。娘のクラスにも3人はいるという。


そういえば我々の頃はそういう子は少なかった。不登校とは言わずに登校拒否と言っていた。不、と、拒否、では語感が違う。昔の中学生といえば、不良、とか、ツッパリ、とかいうのがいたが、今はそれらも死語ではないか。不登校は昔のワルよりずっとゆるくて普通な感じがある。


夕方、先生に連絡を入れた。



何か開けそうな春である。


うちの猫ちゃんたちが架け橋になれば、と思う。