献血したらモバイルバッテリーがもらえるという情報が入った。

 

調べてみると19日から始まったそのキャンペーン、バッテリーの在庫がなくなり次第終了ということだ。

 

バッテリーと言っても献血したらくれる程度のなんちゃってバッテリーだろうと思うが、なんでも話のタネだ。

 

しかし献血するということは血液検査もしてくれるということを忘れていた。ひと月ほど、まがいなりにも節酒して健康診断を受けたのは2週間ほど前であり、その結果はまだ届いていない。献血での血液検査結果は数日で出るからそっちの方が早いかもしれない。そしてガンマ値も高いはずである。健診後、毎日ガバガバ飲んでいるのだ。結果次第ではまた青くなるかもしれない。

 

手帳を見る。その日を逃すとしばらくは献血に行けない日が続くので早速行ってみることにした。在庫がなくならないか心配だ。

 

職場から一番近い献血所は府中の運転免許試験所である。自転車で10分程。

 

献血の予約はアプリからできるが、念のため献血所に電話してキャンペーンの詳細を聞き、予約を入れようと思った。

 

電話してみると、府中は仮設の献血所なのでキャンペーンはやっていないこと、一番近くの献血ルームは立川になるでしょうと教えてくれた。親切にもそこの電話番号も教えてくれた。立川となると少し遠くなる。

 

立川に電話するとキャンペーンはやっていること、バッテリーの在庫もあること、そのまま予約もできることを聞いて早速予約した。

 

自宅がちょうど職場と立川駅の中間点くらいである。帰宅時にちょっと足をのばすくらいの気持ちで職場を出た。

 

風が強い。追い風になったり向かい風になったり渦巻のような風だ。幹線道路は車が多いうえに結構狭いので少し遠回りになるけど裏道を行く。45分もあれば着くだろうと思ったが、途中で時計を見るともっとかかりそうな気がした。府中で10分のはずがちょっとしたサイクリングになる。

 

自宅から立川は遠くはないし、自宅から職場も然りだ。ところが職場から立川は案外遠いなと気づく。おれは相手が誰であれ、約束の時間に遅れるのは嫌いだ。その上、もし間に合わなくて献血もモバイルバッテリーを逃しては何のために寒風のなか疾走しているのか分からない。

 

いつもよりは少しばかり速く自転車をこいだら予約時間の10分前に立川駅に着いた。モバイルバッテリーが馬のニンジン代わりになったようだ。献血ルームの場所は心得ている。一度コロナのころに、あの時はマジで社会貢献のために家族で献血に行ったのだが、社会貢献したい人が押し寄せておりかなり待つという。献血できない歳の娘を巻き込んで長時間待つのは無理だった。その日は献血はあきらめたのだった。

 

昨日は予約してあったし、すぐに受け付けてくれた。献血者も多くはなかった。アプリで事前問診も済ませてあったのですぐに手続きは済んだ。献血場所に入ってみたら思っていたより広くて立派で、幾床も献血台が並べられていた。いつもの府中の献血車とは違う。

 

促されるまま献血台に乗り、手際よく献血が始まった。各ベッドには小さなテレビが付いているので暇を持て余すことはない。担当の看護師の方が時々、ご気分に変わりはないですか?と声をかけてくれる。おしなべてどの職員さんも親切で丁寧だ。とても調子よく採血できてます、と言われる。出の悪い人もいるのかなと思う。血圧が高いから出がいいわけではない。献血前の検査では上が112だった。到着してから35分ほどで献血は終わった。

 

最近聞いたラジオで、若い人の献血離れが問題になっていると知った。おれは高校生のころから献血はしている。学校帰りに新宿の献血ルームにぶらりと立ち寄ったりしたものだ。コーラを1杯飲ませてくれるし、ちょっと献血していくか、と気軽に寄ったものだ。

 

安物だろうがモバイルバッテリーなんかを配らないといけないほど血が足りないだろうか。血の巡りの悪いおれでもそれくらいは察することができた。

 

400mlの血。これだけ抜けば気分が悪くなる人もいるというので20分くらい待合室で休むことになる。飲み物を飲んだりアイスを食べて過ごす。先に終わった紳士が、職員の人から献血後の注意点などを聞きながら、チョコやスタンプがたまったのでと言われてなにかの人形をもらっていた。おれもその人形、ちょっと欲しかったな。

 

ところが肝心のモバイルバッテリーが進呈されていないではないか。ちょっと不安が頭をもたげた。大事なものを忘れてませんかねー、と心の中で横から職員さんに声をかける。ところが職員さんも献血した紳士もまったくそれに触れる様子がない。おれ、なんか間違ってたかな。しかし電話ではバッテリーはありますと確認はとれている。なにかおかしい。実際に、バッテリーはないんですか?と聞いたら、なんのことでしょう?と怪訝な顔で言われそうである。献血してこんなものもらってきちゃった、と言って娘に見せる楽しみも煙のように消えそうである。

 

なんだかこの空間はモバイルバッテリーなどとは無縁の世界のように思えてきた。なんで献血とバッテリー?接点がないではないか。冷静に考えればそうだ。この献血ルームにいる人の中で、頭の中のメモリ部分に「モバイルバッテリー」という情報が乗っているのはおれしかいないのではないだろうか、という疎外感というか孤独感もわいてきた。

 

何となく心の中が鈍色に染まってきた。そこへ職員さんがやってきて、さっきの紳士に言っていたことと同じことを話し始めた。チョコボールと何かの書類などを渡されながら、、、あ、あった!モバイルバッテリーじゃん!一度はあきらめかけたモバイルバッテリーの登場に嬉々としながらも、その興奮はおくびにも出さずに職員さんの話を聞く。平静を装い大して興味もなさそうにモバイルバッテリーを手にしてみた。5000mA。悪くないんじゃないの。少し満悦。席を立ち、上着を預けたロッカーへ歩く。誰もいないロッカーの前でこっそりバッテリーの写真を撮って、このキャンペーンを教えてくれた友に短いメッセージとともにLINEで送った。

 

なお、あらためてキャンペーン概要を眺めてみると、モバイルバッテリーが進呈されるのは、予約して400ml献血をした人だけであり、予約なしや200ml献血や成分献血の人は対象外であった。あの紳士は成分献血だったのかもしれない。今回は東京都だったけれど、各地の赤十字社が時々こういうキャンペーンを行っているようだ。

 

ビルの地下1階の献血ルームを出ると立川の町は夜だった。出口の扉を押して外に出ると冷気と一緒に猛烈にいい焼き鳥の匂いに襲われて腹が減っていたことを思い出した。自宅まで30分はかかる。

 

帰宅したら娘も家内もいなかった。猫と遊んでいた息子に、娘に言うつもりだったセリフを言った。今週末に大学の卒業式を迎える息子は、献血離れした若者の一員である。明日あたり、お前も言ってきたらどうだ、というと、ああ行ってみるか、とその気になったようである。少なくとも一人は啓蒙できたというわけだ。

 

 

 

 

 

 

貧乏性なもので5000mAのモバイルバッテリーはいくらいするものか、今調べてみた。似たようなものが通販で1,999円で売られている。こんなことまでしてキャンペーン張らないと血が集まらないのか。もらったのはうれしいが、なんだか少し暗澹たる気もしてきた。

 

まあ、でもありがたくこのモバイルバッテリーは使わせてもらおう。

 

白い方が今回いただいたもの。黒い方は海外出張用に買ったもので20000mA。国内での普段使いには5000mAの白い方で十分だと思う。軽くてコンパクトで持ち歩くのに邪魔になりそうもない。

 

 

しかし、献血するたびに思うのだが、おれのようなγGTP値が高い血液を輸血してしまって、輸血された方は大丈夫なんだろうか。γGTPだけでなく、時によっては高脂血症だったりコレステロールが高かったりするのだが。医療機関が受け付けるのだから、素人のアホな心配に過ぎないとは思うのだが。

 

最後にせめて一言。献血できる方は是非一度献血を。特に冬から春にかけてのこの時期は、献血する人が少ないようです。よろしくお願いします。