動物の肉体を構成する細胞は古いものから新しいものへどんどん入れ替わっていく。


人間の骨の構成物質は20日ほどで半分は入れ替わるという。


酒飲みの我々にはありがたいことに、肝臓の構成物質は3日で半分入れ替わる。飲み続けること30余年、肝臓にそんな回生力がなければ、自分などとっくにくたばっていたはずだ。


人間の肉体全体を考えてみても、半年あれば構成物質はそっくり入れ替わっていると考えていいだろう。肉体としては去年の今頃の自分と今日の自分は全くの別人だ。


おれは全く変わってない。進化も退化もしていない。少し老化はしているだろうけれど、感覚的にはそれも分からない。そう思うのは思い込みなのかもしれない。


考え方もかわってないし、肉体はどうあれ、頭の中は変わってない。


それこそ本当の思い込みかもしれない。というのも、脳のタンパク質は20日で半分入れ替わるというのだ。半年もあれば全く考え方が変わってもおかしくはないのかもしれない。そんなことあるんだろうか。


死ぬ直前と直後では体重は変わらないから、肉体以外の何か、例えば魂とか情とか意識というものは存在しないと考えることもできる。だが、そうした考えはほとんどの人には受け入れられないだろう。普段から意識というものに思い煩わせられて苦労しているからだ。


そんな宿命から逃れんとして、激しい修行を行なって解脱を図る人もいる。


自分はそんな修行にはとても耐えられない。やむなくノーガードで、嫉妬、羞恥、後悔、怨讐、恋慕、憤怒、断念、矜持などありとあらゆる自意識のパンチに打たれ続けて毎日ダウン寸前である。これら全て他人から与えられるものではなくて自分の心から湧き出てくるものに他ならない。自分でなんとかするしかない。


それでもなんとか立っていられるのは、あなた、の存在があるからだ。縁のある人、一人一人を想う。近親者もいるし、友人もいる。その、あなた、の中には顔を見たこともない人もいるし、声を聞いたこともない人もいる。普段一匹狼を気取っている自分でさえ、自分だからか、そう思う。特に自分に似た一匹狐などと巡り会うと幸も不幸も分かち合いたいとさえ思う。本当は仲間を作りたがるのは動物の生存本能でもある。


30日とか半年とかではなく、毎日全ての細胞が入れ替わって、頭の中も朝がくるたびすっかり入れ替わってくれれば助かるのにな、なんてバカなことを考えたくなる。


虹だよ、と聞いて初めて空を見上げることがある。わたしはここだよ、と聞いて改めて振り返ることもある。


しばらく間が空いた、あなた、に手紙を書こう。手紙でもいいし、自分の場合長文になってしまうけど、肩肘張らずにメールでもLINEでもいい。夜には手紙は書かない方がいいと聞くから、明日にでも明後日にでも。今から1%くらいは今の自分から変わった自分になって。きっと明るい方向に変わった自分になって。


最近太った。1%体脂肪率落とすことも考えるか。