仕事で時々海外へ行く。

当然だが飛行機に乗る。長い場合は搭乗時間12時間ということもある。

飛行機は嫌いだ。乗り物はおおむね好きなのだが、飛行機はだめだ。同じ12時間でも、もし電車であれば問題はないのだが。


なぜ飛行機が嫌いか。やはりその密閉感・閉所感だろうか。一人当たりのスペースが狭い。

それから景色が動かない。そればかりか夜間飛行なので窓を閉めろといわれる。だから専ら通路側の席に座る。トイレに立つのも楽だ。

食事や、最近は随分充実してきたエンターテイメントも慰めにならない。ひたすら暇である。一つの席でじっとしていないといけない。みんなよく耐えられるなと思う。そんなところでも何とか時間を過ごさなければならない。


だから飛行機では酒を飲む。いつも以上に飲む。搭乗する前から飲む。出国手続きに液体は持ち込めないので、その前にロビーで飲む。搭乗してからはウィスキーのミニチュア瓶を2本ずつ頼んでは飲む。さすがに12時間飲み続けるわけではない。眠るために飲むのだ。しかし飲んでもなかなか眠れない。それが飛行機だ。考えるだけで憂鬱になる。先日などは8時間のフライトで一睡も出来なかった。ウィスキーのミニチュア瓶8本も飲んだのだが。その酔いが本当に回ってきたのは、飛行機を降りてからだった。あれは最悪な体験だった。


そんなこともあり、手にしたのが睡眠導入剤だ。近所の薬局で店員と相談の上買った。用法は搭乗30分前に服用すること。そうすれば搭乗後すんなり睡眠に入れるはずだという。ちょっと緊張するな。もし早めに効き目が出てしまい、搭乗直前なって眠くなりふらふらしたらどうするか。搭乗前になって、搭乗時間が遅れることだって、ままある。やはり服用するのは搭乗してからの方がいいような。また、がっかりしたのはこの薬を服用したら酒は飲んではいけないということだ。薬と酒が混じると精神混濁状態になることもあり危険だという。これでは薬の効きが悪かったら途中から酒に変更するということが出来ない。これも考え物だ。まんじりともせず、酒も飲めない12時間。地獄だろ。


結局、飛行機では酒を飲むか、睡眠導入剤を取るか決心することなく空港へ向かうことになった。結果あっけなかった。薬はやめた。空港の待ち時間からすでに酒を飲んでしまった。飲んでしまったら、もう導入剤は使えない。出張中は酒は解禁と決めている。その貴重な時に酒を飲まないのは、やはりもったいなかった。飛行機の中では、このときは結構眠れたのだ。思い起こしてみると、その前日が寝不足だった。飛行機に乗る前の日は、睡眠時間を減らせばよいのだ。無理やり睡眠不足状態で飛行機に乗る。これで寝れる。もっと早く思いつくべきだった。睡眠導入剤は引き出しの奥にしまった。