前回の続きです。
学者は辺りを見回すと言いました。
「どうですか<商売は爆発だ!>の衝動はどうやって起こすか分かりますかな?・・・うむ、分からない。そうでしょう、そうでしょう。最初は誰しもが分からないそういったものです。では、お教えしましょう・・・このことについては、陶芸作家の師匠と弟子の話が例え話としては分かりやすいのでそちらでご説明いたしましょう・・・弟子は言います。(師匠どうして出来上がったばかりのお皿をこんなに次から次へと割るのですか?)師匠は言いました。(このお皿は厚さが0.1mm厚い、こっちはお皿の手触りがほんの少しザラつきが足りない、それにこっちは色の乗りが少しだけ薄い。)でも、弟子には師匠の作ったお皿はどれもこれも一緒に見えて、全てが綺麗なよく出来たお皿にしか見えませんでした・・・ということです。お分かり頂けましたかな。師匠の作るお皿は綺麗でよく出来た皿です、そして弟子もまた才能があり作るお皿は、綺麗でよく出来たお皿なのです。どちらも綺麗でよく出来たお皿ですが、師匠と弟子では、お皿の売れ行きがまったく違い、師匠のお皿ばかりが売れてしまうのです。この両者の違いはほんの少しの厚さの違いや、ほんの少しの手触りや色の乗りの違いしかないのですが、このささいなゆらぎとも言えるような細かい違いが売上を大きく変えてしまうのです。では、このささいな違いによってどうして売上が変わるのかというと、それは利用者の生活の中に溶け込むことが出来るかどうかなのです。利用者はお皿を毎日毎日利用して使い続けるわけですから、最初は分からなかったとしても年月がたつにつれて、このお皿はしっくり手に馴染むなとか、手触りが心地よくなってくるとか、色の風味が自分のライフスタイルに合ってしっくり来るとか。一見どれも同じような皿でも長年使っているとその違いが、意識出来るほど明確にではなくても、感覚としてしっくりくるといったように感じるようになるのです。そうするとその利用者はその皿を気に入り、次からも同じ作家のお皿が欲しくなり、その作家の新作が出ると思わず買ってしまうのです。こうやって消費者は無意識的にささいなゆらぎともいえるような違いを感じ取り、新作が出る度に無意識的に心の中で欲しいという衝動が起きて、<商売は爆発だ!>の衝動買いが起きるのです。ではなぜこのささいな違いが、師匠には見えていて弟子には見えていないのでしょうか。それは師匠はその知識と経験から、お皿の向こう側に居る利用者と会話をしながら作っているからなのです。このお皿のこの部分の厚みは、あと0.1mm厚いほうがいいだろうか、それとも0.1mm薄いほうがいいだろうか、使う人はどう感じるだろうか?といった自問自答を、たった0.1mm厚いか、薄いかの違いについて延々と自問自答を繰り返し、答えが出ずに苦しみもがき、やっとのことである一つの答えを出すのです。そうやって得られた違いは、弟子の作った見様見真似で師匠のように綺麗に作ってってみましたというお皿とでは、商品の重みがまるで違うのです。こうやってお皿の向こう側の利用者と果てしない会話を繰り返し、徹底的に極限にまでに研ぎ澄まされて作られた、極めたといえるような商品は<ブランド>と呼ばれる称号が与えられるのです。この<ブランド>と呼ばれる称号が<商売は爆発だ!>の正体であり、ほんのささいなゆらぎのような違いから生み出される、極みの境地だといえるのです・・・どうですかな、<商売とは爆発だ!>について少しは理解できましたかな?・・・あなた方は商品が売れないと嘆いているようですが。では、ほんのささいな0.1mmの厚みの差について、商品の向こう側の利用者と延々と会話をし、答えが出せずにもがき苦しみながら商品を作っていますかな?どこかの誰かの作った見栄えの良い商品を真似して、0.1mmの厚みの差だって、そんなの誰も気にしない気にしない、と作ってはいませんかな?そんな作り方をしても商品のブランド化はできませんぞ。商品のブランド化が出来ない商品がどうなるか知っていますかな?その商品はブランド化された商品に市場を奪われ、全く売れなくなりますぞ。しかし商品を売らなければ会社は存続出来ないため、バーゲンセールなど安売りをして売上を上げようとする。ところが安売りをすれば利益が減り会社はやっていけなくなる。そこでバーゲンセールで売上が上がったから値上げをしようと値段を上げる。するとブランド化された商品との競争になり、競争に敗れまた安売りをする。まさに負の連鎖ですな。あなたの会社の商品はそうなってはいませんかな?・・・ただ、ここまで言っても、まだ分からない人達もいるかも知れませんな。0.1mmの厚みの差?そんなの関係ない関係ない。という方々。そういった方々が次に言うことも決まっていますぞ。商品が売れない、そりゃ宣伝の仕方が悪いんだよ。いやいや待てよ、宣伝広告費は結構掛けたからな。これは営業マンがサボっているせいだな。ここは一つ活を入れるとするか。とっ、いった具合に。お分かりかと思いますが、これはただの責任転嫁ですな。商品に問題があるのに、広告宣伝や営業マンのせいする。よくある話です。こんなことをしても何の解決にもなりませんぞ。そもそも、商品が売れるかどうかを決めているのは、商品そのものの質によるものであり。広告宣伝や営業活動のせいではありませんぞ。広告宣伝や営業活動は、商品の説明をしているだけなのであって、説明不足で商品がい売れなくなることはありますが、商品の最終的な売上を決めているわけではないのです。ですから広告宣伝や営業活動の手を抜いてはいけませんし、それはそれで適切に行われなければならないわけですが。最終的にその商品がどこまで売上を伸ばすかを決めているのは商品そのもの質によるものだとなるのです。宣伝や営業は商品の説明をしているだけなのですから、商品が悪ければ何をやっても売れないということですな。ちなみに、F1カーやソーラーパネルカーの宣伝をバンバンやって、営業マンに活を入れて、売れ売れと号令をかければ売れると思いますかな?・・・当然、売れない。商品の質に徹底的にこだわらなければ、その会社に未来はないということですな。といってしまうと皆さんは、自分は陶芸家じゃないし、そんなささいなゆらぎのような違いなんて分からないよ、とおっしゃるかもしれません。それは、そうです。こんな、ささいなゆらぎのような違いは陶芸家の師匠本人にしか分からないのです。弟子がいくら努力しても、師匠のようにささいなゆらぎのような違いを理解し、同じお皿を作ることは出来ないのです。なぜならば、師匠が極みの境地に至った世界というのは、師匠独自の世界でありそれは<個性>なのです。<個性>とは、他者が真似ようとしても決して真似の出来ることのない、オリジナリティのことを指します。そのため師匠の作った皿は誰にも真似が出来ないのです。真似が出来ないということはどういうことかというと、ライバル他社と差別化が出来るということですぞ。今の競争社会では何か違うこをやってもすぐに真似をされて差別化が出来ないのが現状です。しかし唯一この<個性>を獲得したものだけが、真似をされずに他社との差別化に成功するということなのです。極みの境地に至り<個性>を獲得さえすれば、ライバル他社の市場を奪いステッープパートでも売上を増やして行けるというわけですな。もちろん、極みの境地に至り<個性>を獲得するというのは誰にでも出来るわけではない。陶芸家の弟子も極みの境地に至るとは限りませんが、お皿の向こう側の利用者と会話をかさね、七転八倒しながら自分なりの答えを見つけ出せば、師匠と同じお皿は作れなくても、自分なりの極みの境地に至り、<個性>を開花することができるかもしれません・・・いやいや、そんな。自分には、陶芸家の師匠や弟子のような才能はない、そんなこと出来ない、と嘆く必要はありませんぞ。会社というのは組織で運用すものですからな。人には得手不得手がありますから。自分には出来ないと思うのなら、それが出来る人に頼んでやらせればいいだけです。会社の中に出来る者がいなければ、外から雇えばいいだけの話ですな・・・どうですか、皆さん。これがステッープパートの、乗り越え方ですぞ。お分かり頂けましたかな。<商売は爆発だ!>ですぞ。どんどん売上を上げようではないですか!そういえば、<商売は爆発だ!>について経済学者の中には同じようなことを言っていた者もいましたな。たしか<ワクワク感>とかでしたかな。どうも私は<ワクワク感>という言い方にはしっくりこない。ワクワクするだけで商品が売れますかと思ってしまう。やはり<商売は爆発だ!>の方がしっくりくる・・・どうせなら言うなら<ワクワク感>に<ウキウキ>も付け加えたいですな。ワクワクした後はウキウキしますからな。いやいや、これでもまだ弱いかもしれない・・・うむ、さらに付け加えたい。ワクワク、ウキウキ、のその後ですな。そう、ワクワク、ウキウキの最上級がいいですな・・・ワクワク、ウキウキの最上級といば、何かお分かりですかな?・・・そう、そう、そう、そうです・・・<ウッキッキー>です!・・・<ワクワク!ウキウキ!ウッキッキー!>ですな。これで、しっくり来た!いやー実にいい。さあ皆さん、ご一緒に、大声で・・・<ワクワク!ウキウキ!ウッキッキー!>・・・え!どうしたのですか?皆さん静かになってしまって・・・え!恥ずかしい。まったく、困りましたな。こんなことで恥ずかしがっていたのでは、ライバル会社に負けてしまいますよ。いいですか、皆さん。これからあなた方は、極みの境地に至り<個性>を開花させ、売上を倍増させて行かなければいけないのですよ!・・・そして、その後に何が待っているのか、お分かりか?・・・ん?分からないですって!・・・いったいあなた方は、私の話の何を聞いていたのですか?・・・いいですか。あなた方はこれから、収入を倍増させ、似顔絵付き紙切れ100万枚で手に入れられるコートを100着手に入れ、セレブになるのですよ・・・そして、その後には何があるかお分かりかな?・・・王子様からのプロポーズに、まばゆいばかりの宝石の山、そして絢爛豪華な豪邸暮らしですぞ!」
それを聞いた人々からは「ウオー、ウオー!」という歓喜の声が上がりました。
学者は言いました。
「さあ、皆さん。これからあなたはセレブだ。王子様も宝石も豪邸も、全てあなたの思いのままだ。ウハウハですな!」
人々は「ウオー、ウオー!」と、また歓喜の声を上げました。
学者は続けます。
「ワクワク、ウキウキ、といえば?」
人々は答えます。
「ウッキッキー!」
「商売は?」
「爆発だ!ウオー、ウオー!」
人々はたいそう満足すると、学者の家を後にしました。
学者は、ほっとした顔をすると<やれ、やれ。やっと帰ってくれましたか。>と心の中でつぶやきました。
空を見上げるとまだ夕方前だというのに、灰色の厚い雲のせいで辺りは真っ暗になっていました。湿った冷たい風がビューと吹き抜け、遠くの方から雷鳴が聞こえてきました。
「どうやら一雨来そうですな。部屋に戻って熱いコヒーでも飲みながら、ノーベル賞の受賞式について考えながら、ニマニマでもしますかな・・・」
学者はつぶやくようにそう言うと、家に戻りドアを閉めました。
つづく。
では、続きは次回としたいと思います。