童話のフォークロア その7『オスカー・ワイルドの童話』 | 空閨残夢録

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 アンデルセン童話にある『人魚姫』はみなさんもご存知のお話しですネ。難破船から王子を救った人魚姫は、王子に恋をしてしまい、恋のために人間になる決意をします。そして魔女の魔法の魔力をかりて、半身を人のように足をえて、やがて王子と結ばれるのですが、この物語は悲恋で終るお話しでしたネ。



 そして西欧ではこの物語と双璧をなす“人魚譚”として、オスカー・ワイルドの童話集にある『石榴の家』に収録された「漁師とその魂」が有名です。




 ワイルドといえば、童話では『幸福の王子』、戯曲では『サロメ』、小説では『ドリアン・グレイの肖像』があまりにも日本ではヨク知られている文学作品ですネ。



 この「漁師とその魂」では、漁師の青年が網にかかった人魚に恋をします。そして漁師は人魚との恋の成就を願い、人魚にその思いをうちあけますが、人魚のはなしによると、人魚と人間の恋が叶えるためには、人の魂を捨てるしかないと、人魚が言うのでした。



 そこで漁師の青年は魂を捨てる覚悟をして、或る日、教会へ行って司祭に魂を捨てる方法を相談しに行きます。しかし、司祭はこのフトドキ者の信者を容赦なく罵倒し、改心を求める説教をしたのでした(あたりまえだのクラッカー)。




 だがこの漁師は諦めませんでしたので、魂を捨てて必ずや人魚姫との恋を成就するために、今度は森の奥深い処の魔女を訪ねます。




 この魔女は欲深い人間ならば餌食にするのを、純粋で情熱的で一途な漁師の想いと願いに、魔女は心うたれて青年を我がものにしようとしますが、漁師の青年の想いは人魚への恋情があまりにも深く強く熱いので、魔女も諦めて魂を肉体から切り離す魔法を授けました。



 やがて魂を捨てて、海深く人魚と暮らしましたが、彷徨える自らの魂は肉体を求めて海の底へ、或る日、戻って来てしまう。魂がもどった漁師は人魚を失うことになるのだが、人魚の死による失意のために、自らの肉体の命を絶ち結末をむかえる。




 このアンデルセンとワイルドの人魚物語は恋愛の関係性は対極ですが、悲劇的な結末をむかえるのは同じでありまする。




 童話にしてはワイルドの人魚譚は、暗く重い暗示を与えてくれるので、子供向けには日本では浸透しませんでしたが、『幸福の王子』はこの国では童話として一般的に広がりましたネ。



 ワイルドの童話集は2集あり、九つの作品が発表されております。ボクが小学生の頃に、この『幸福な王子』は教科書にありまして、そのころの記憶によると、ルビーの眼や、帯剣したその柄のサファイヤや、服飾の夥しい宝石の類を、貧しい人々に運ぶために、ツバメが王子を手助けして活躍し、やがて冬が来てしまいツバメが死んでいまうお話でしたが・・・・・・

 ・・・・・・1988年に「オスカー・ワイルド全集」全6巻個人完訳決定本が、青土社から西村孝次氏の手により刊行に至りまして、大人になって『幸福の王子』や『ざくろの家』などの童話を再読してみる。



 この『幸福の王子』の結末なんですが、冬に王子の手となり足となって働いてくれた燕が死んで、その後、すっかりみすぼらしくなった王子像は、この街の市長により廃棄処分とされて溶鉱炉へ投げこまれるのであった。




 しかし、この王子の像の鉛の心臓だけは溶けずに、赤々と残り、これを気持ち悪く思った男が、街外れの空き地に心臓を投げ捨てます。



 王子の銅像があったこの街で、或る日のこと、天使たちが舞い降りますが、それは神様が天使に、この街で最も美しいモノを求めて探しておいでと、命令をだしたからでありました。




 そして、天使たちは王子の像にあった燃え残った鉛の心臓と、「幸福な王子」の立像の足元で死んだツバメの屍骸を懐に抱き、神様のもとへ運んでいきましたとさ、・・・・・・そして神様はおおいにこれを喜び祝福なさったそうです。・・・・・・とっぺんぱらりのぷぅ~!(了)