日本では、昔話や民話または「童話」と表現さる文学的ジャンルは、英国においては、一般的な通念として、「フェアリー・テイルズ」という言葉が用いられる。これはドイツ語の「メルヘン」という意味や概念とも微妙にニュアンスが違っている。またフェアリーとは妖精のことであるが、「フェアリー・テイルズ」は必ずしも妖精ばかりが登場する物語だともいえないのである。
ジョセフ・ジェイコブスの『イングランド昔話集』(English Fairy Tales:1890年)に所収されている「ジャックと豆の木」(Jack and the Beanstalk)は日本ではお馴染みの物語なのだが、このお話には妖精は出てこない。登場するのは“ Giant Killer” という巨人で、鬼と翻訳される食人鬼のことであり、人型の怪物なのである。
この凶暴な巨人は天上の城に住み財宝を持っている。この怪人はシャルル・ペローが『長靴をはいた猫』で登場させた“ Ogre” と同じ類型なのであろう。いずれにしても「フェアリー・テイルズ」(妖精物語)には、妖精だけではなく、巨人、幽霊、悪魔、聖者、騎士、ドラゴン、一角獣、魔女から小人まで、あらゆる超次元的な存在が現れる説話や伝説が「フェアリー・テイルズ」なのである。
さて、『ジャックと豆の木』であるが、これは豆の木というより、豆の蔓、豆の茎、豆の幹または軸という言葉が適切なのであろう。それはマメ科の樹木というよりは、草本のマメ科植物だと思わしいからだ。
さてさて、まずはこの物語のあらすじから・・・・・・、ジャックはママと二人暮らしであった。パパは昔に亡くなっていて、その昔々は、ジャックのパパは騎士(ナイト)か城主(ルーク)のようであったらしいのだが、食人鬼との戦いで命を失ったらしいのだ。
ジャック少年とママは、パパが死んで貧しい生活を余儀なくされる。唯一の財産である家畜の牝牛も、或る日、乳がでなくなり、ママはジャックに牝牛を市場に売りに出すように命じる。
ところが、この牛を魔法の豆と交換しようという男が現れて、ジャックは大事な牝牛と魔法の豆と物々交換してしまうのであった。さすがに、この行いに子を愛するママは激しく怒ってしまうのだが、ママは怒り心頭、その豆を窓の外へ投げ捨ててしまった。
ところが、ところが投げ捨てられた豆は、天にまで届くほど、あくる日の朝に成長しているのでした。それを男の子は登らずになどいられないから、冒険のはじまり始まりなんだネ。空の、天上の、上層の世界は、食人鬼の城でありまして、この鬼は巨人なのだが、怪人の奥さんがジャックを助けてくれて、カマドに隠くしてくれて難を逃れ、ついでに鬼の金貨を盗み出すワケである。
鬼の金貨を盗んだジャックは、これに味をしめて、少年は二度、三度と豆の蔓を登り、食人鬼のお宝を盗みに行くのだが、二度目は黄金の卵を産む雌鳥を盗みだし、三度目は竪琴を盗難する。
しかし、三度目の竪琴は自動楽器みたいで、自ずから奏で、はてまてお喋りもする楽器なんですネ。このお喋り楽器は人喰い巨人に、自分が盗難されることを、お知らせして、「私は少年に今から略奪されましゅ助けて・・・・・・」と、告げるわけネ。
それで、鬼と少年の追いかっけこが物語は活劇的に始まるのだ。豆の蔓を地上へ降って逃げるジャック少年、それを追いかける巨人の食人鬼、ハラハラドキドキの展開だが、ジャックはママとうまく連携して、この難を逃れて、斧で豆の蔓を伐るママの手助けにより、鬼は地上にまっ逆さまで墜落してお陀仏ナンマンダムとなる次第・・・・・・。
さてさてさて、このお話はハッピーエンドなんですが、ボクが一番気になる疑問は、牝牛と豆と何故?・・・・・・ジャック少年は交換したのであろうかなんですネ。
この豆は空まで届くほど伸びたから空豆という人もおりますが、ボクは鉈豆だと思うのですヨ。まぁ~何の豆でもよいのだが、金の豆でもなく、宝石の豆でもなく、普通の豆を魔法の豆といわれて、詐欺師から、大切な牝牛を売るジャック少年とは、普通に馬鹿なのかも知れないが、それは、この豆に少年の心に魅力を感じるとしたら、どんな、どんな?・・・・・・豆なのだろうかと、そこのところにボクは想像を逞しくするのですネ。
この説話は、2013年に米国でブライアン・シンガー監督により映画化されて、『ジャックと天空の巨人』(Jack The Giant Slayey)という映像になっているが、ジャックの求めた豆がとても気になるのだが未だ観ていないのが残念無念。(了)