2人兄妹のチルチルとミチルが、夢の中で過去や未来の国に幸福の象徴である青い鳥を探しに行くが、結局のところそれは自分達に最も手近なところにある、鳥籠の中にあったという物語は皆さんご承知の『青い鳥』(フランス語:L'Oiseau bleu)である。
このモーリス・メーテルリンク作の童話劇は1908年に発表された。メーテルリンクは生涯にわたり、蜜蜂を飼育して観察していた。自ずと蜜蜂の通う花々も詳細に観察している。蜜蜂のほかにも、蟻や白蟻なども観察して、これらの著作が、西欧では『青い鳥』という童話劇よりも有名なのである。
植物や昆虫の観察眼は、科学者というよりは、まるで神秘家の如く視線でメーテルリンクは自然を俯瞰している。シュルレアリストのアントナン・アルトーによれば、蜜蜂の生活はメーテルリンクにとっては一つのドラマであったと述べていて、純粋な観念のさまざまな形態や状態に命を吹き込みたくて、自然に潜むドラマを観察した著述が『蜜蜂の生活』という著作だと述べている。
一般的な認識として、蜂と蟻は区別されているが、それは日本の蟻の多くが毒針を持たないこと、生殖目的以外では翅を持たずに地面で生活することから区別されたと考えられる。しかし蟻は、実際にはスズメバチやベッコウバチに近縁なグループで、アリ科の動物は全てハチそのものである系統にある。
スズメバチは、同じハチとして認識されているミツバチよりもアリ類の方が動物学的にも近縁である。なお、シロアリは大きさや集団生活をすることなどがアリに似るが、アリとは全く別の仲間の昆虫である。
イソップの寓話で、『アリとキリギリス』は本邦では誰もが知っているお話しであろうが、夏の間にバイオリオンを奏で楽しむキリギリスと、冬の食料を確保するために、セッセッと貯蓄する働き者のアリたちのお話はディズニー映画にもなっている。
誤解している人もいるであろうから、少々、博物学的な事実を述べると、蟻は現実には越冬の為に食料を運んでいるわけではない。運んでいる食料は全て幼虫のための餌である。成虫である蟻自体には咀嚼する器官は無いし、蝶やカブトムシみたいに水分しか取れない生態なのである。
スズメバチは蜜蜂などを捕獲して、それを肉団子にしているが、これらの獲物は成虫は捕食できない。蟻と同じで幼虫に獲物を与えるだけで、成虫は水分しか補給できない器官しかないのである。
さて、イソップのお話は紀元前600年前後に実在したというが、古代ギリシャの作家で「アイソポス」の寓話なのである。これは英語で “Aesop” と表記して、これを発音すると日本では「イソップ」と呼ばれている。
アイソポスの一連の動物寓話は他に、『ウサギとカメ』、『北風と太陽』、『金の斧』、『狼少年?』などの嘘つきな子供の話で、「狼が出たぞ~」の狼にまつわる話なんかが有名ですネ。
『アリとキリギリス』のお話は、アイソポスは「蟻と蝉」と著わしていて、ヨーロッパにコノ物語が広がるにつれて、セミがバッタに変わったようだ。つまり、セミは熱帯と亜熱帯の昆虫なので、英国にこの話が伝わるとセミよりも、身近なバッタに改編されて、やがて、本邦には英国からコノ話が伝わりキリギリスとなったそうな・・・・・・。
そこでキリギリスは日本では弦楽器を弾いているように語られるが、西欧ではセミくんは笛を吹いていたそうですヨ。それよりも、アイソポスがこの寓話を創作したというより、それ以前から伝わるお話をまとめて、更にアイソポスの死後にも寓話は追加され、これら「イソップ物語」が編纂されたのですネ。
そこで、この『アリとキリギリス』のお話は、西欧ではエンディングはほぼ同じで、やがて冬が到来するとキリギリスは飢えて、アリたちの処へ食べ物を乞いに行きますが、「夏は歌っていたんだからさぁ~、冬は踊っていればイインじゃん!」と断られるのでした。
1593年にコノお話が本邦に伝わると、『エソボのハブラス』として著される。この翻訳された物語では、アリたちはキリギリスを皮肉るけれども、食料は与えてあげるのですネ。
1600年に本邦で出版された、『伊曽保物語』ではアリたちはキリギリスを助けません。そして一般化された昭和初期までに伝わるのは、後者の、『伊曽保物語』系の伝聞が及び流布する。
1934年(昭和9年)に、米国でウォルト・ディズニーが、コノ物語をアニメ映画にいたしますが、タイトルは『The Grasshopper and the Ant = THE SILLY SYMPHONIES』でございます。
このディズニー映画の影響により、日本では、戦後からは、『アリとキリギリス』は結末で、アリたちはキリギリスに食べ物を与えてくれるのでした。それはキリスト教的な思想が説話に反映しているように感じる。
ディズニー映画のエンディングは、食べ物を乞いにアリの王国に行った飢えたキリギリスは食料をアリたちに与えられて、その感謝の気持ちを込めて、感謝の返礼に、アリの女王さまや働きアリの前でバイオリンを弾いてお返しとしました。
そして、キリギリスの奏でる音楽の響きにより、アリたちの心は芯から暖かくなり、その厳しい冬を幸せに暮らすことができたそうな・・・・・・、とっぺんぱらりのぷ~。