『ベン・ハー』(Ben-Hur: A Tale of the Christ、副題「キリスト物語」)とはアメリカのルー・ウォーレスが1880年に発表した小説である。1907年につくられた最初の映画はわずか15分のサイレント映画で、監督はカナダ人のシドニー・オルコットであった。二度目の映画化は1925年、ラモン・ノバッロがベン・ハーを演じたサイレント映画である。これが大ヒットとなったと伝わる。サイレント映画ながら前代未聞の390万ドルという未曾有の制作費が投下された大スペクタクル映画であったらしい。群集の場面では実に12万人ものエキストラが動員されたと伝わる。
三度目の映画化は、最もよく知られているウィリアム・ワイラー監督が1959年にメガフォンをとった作品で、アカデミー賞11部門に燦然と輝く超大作スペクタル巨編。主演を演じたのはチャールトン・ヘストンであった。いずれの三作品による『ベンハー』も大戦車競争の場面が展開されている。
この古代ローマ時代の大戦車競争は三作目では、四頭立ての馬と一人乗りの馬車によるスリルとスピード感にあふれるクライマックス場面で、『スターウォーズ・エピソード1/ファントム・メナス』のアナキン・スカイウォーカーがブーンタ・クラシックというポッドレースの場面に投影されている。『グラディエーター』のプロットは『ベン・ハー』の物語が骨格となっているのは明らかであろう。
さて、ボクは子供の頃にテレビの放映でワイラー監督の『ベン・ハー』を観て、イエス・キリストの存在とその生涯のいくつかの場面を初めて認識した。主人公のユダ=ベン・ハーがガレー船に護送される途中で、砂漠で倒れたところを、ナザレのイエスが水を恵むシーンが脳裏に今でもハッキリと焼きつき、このイエスの姿がボクのキリストとの最初の出会いであった。
映画の冒頭はローマに支配されたユダヤの住民たちが、戸籍と納税の届出のために出身地へ移動する聖書の逸話から始まる。身重のマリアを伴いヨセフはナザレに向かうが、ベツレヘムの馬小屋でマリアはイエスを出産する。そこへ東方の三博士が礼拝に訪れる場面が序章。
されど、この映画はナザレのイエスが主役ではなく、エルサレムの豪族・ハー家のユダが主人公なのである。或る日、ローマ軍の新将校として、幼なじみのメッサラとユダ=ベン・ハーは再会を喜ぶ。しかし、ピラト総督がイスラエルに新たに赴任して、イスラエルへ入城した行列にユダの妹ティルザの手元から偶然に瓦が新総督の馬車へ落下してしまう事件が起きる。
友人のメッサラへ助けを求めユダだったが、日頃、ローマ人とユダヤ人の支配者と被支配者の関係で反目していたことにより、ユダとティルダと二人の母親ミリアムをローマへの反逆罪として訴えることになる。母と妹は地下牢へ幽閉され、ユダは奴隷にされてガレー船の軍船の漕ぎ手として送られる。その護送の途中で砂漠で命を失いかけたユダはイエスに助けられる。
ローマ軍船の漕ぎ手としてユダはただ一念、復讐に燃えて長い年月を生き延びたが、ローマ軍の主戦艦が敵艦に衝突を受けて沈没してしまう。ローマ兵も奴隷たちも殆どは海の藻屑と消えたが、艦隊司令官アリウスをユダが救出することで、やがてローマ兵となり、アリウスの養子として迎えられる。
ローマ軍の新将校としてエルサレムに入城したユダ=ベン・ハーは、宿敵メッサラと大戦車競争で対決を挑むことになる。・・・・・・そして、時同じくして、ナザレのイエスがイスラエルに入城してくることになる。