映画の食卓(銀幕のご馳走)その23『三匹の侍(粟粥)』 | 空閨残夢録

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 『三匹の侍』は、1963(昭和38)年にフジテレビ系列で放映された連続テレビ時代劇であった。全6シリーズが60年代に放映されたのだが、第1シリーズ終了後に松竹で映画化された。主演は柴左近を演じる丹波哲郎、桔梗鋭之介に平幹二郎、桜京十郎に長門勇の配役陣は人気をよんで、以後はテレビで長らく放映されて好評を得た作品。

 はじめはテレビドラマ版の人気を受けて映画に制作された。第1シリーズ放映終了後の1964年の春に公開された『三匹の侍』は、五社英雄の初監督映画作品でもある。ストーリーはテレビドラマ版の第1シリーズ第1話『剣豪無宿』をベースにしている。そのあらすじは・・・・・・








 浪人の柴左近(丹波哲郎)は、流 浪の一人旅の途中に或る村の水車小屋の近 くで簪(かんざし)を拾う。その簪はその村の代官の娘の物で、娘は水車小屋に男三人に拉致監禁されていた。囚われの身の娘は圧政と凶作による年貢の減免を求める交渉のための百姓たちの必死の企ての人質でもあった。その百姓の頭目は甚兵衛(藤原鎌足)が主導して無謀とも思えるお上への反旗である。

 最初は高みの見物を決めこんでいた柴だったが、やがて騒動に巻き込まれる形となり、成り行きで百姓たちに加勢することになる。代官は娘を取り返すため、用心棒の桔梗鋭之介(平幹二朗)と浪人・桜京十郎(長門勇)らを水車小屋へ差し向けるが、柴から事情を聞かされた百姓出身の桜は寝返って百姓側につくことになる。

 一連の騒動のなか、柴は百姓三人の罪は問わないことを条件に人 質の娘 を代官に返し、首謀者として自ら捕えられるが、代官は百姓が藩主に直訴することを恐れ、浪人たちを使って密かに三人の百姓を殺害してしまう。百姓側に加勢した柴左近も捕えられて水牢にいれられてしまう。半死半生となった柴は、代官の娘と桜に救出され、江戸から帰って来る藩主の大名行列が通過する道で百姓たちに強訴させようという計画を立てて水車小屋に潜む。

 当初は一連の騒動を客観的立場でクールに眺めていた桔梗だったが、百姓との騒動を藩主に知られたくない代官が全ての関係者の口を封じるために差し向けて来た刺客二人に女郎屋で襲撃を受け、愛人であった女郎屋の女将をも殺されたことで柴と桜に加勢するが、惚れた百姓のおいねを人質に取られてしまった桜が、柴たちの隠れ 場所を代官に喋ってしまい裏切る。

 やがて藩の主行列の先触れとして代官屋敷に到着した大内某が代官から事情を聞き、柴たちを始末するべく手勢を率いて隠れ場所の水車小屋を襲撃にかかる。拷問の傷がまだ癒えない柴と女郎屋での不意打ちで傷を負っている桔梗は多勢に無勢もあって闘いは苦戦する。

 一度は柴たちを見捨てて、おいねと共に村を出た桜であったが、自責の念にかられ、おいねの制止を振り切って村へ引き返し、柴たちの元へ駆けつける。三匹の侍は力を合わせて敵に立ち向かう。死闘の末に大内を倒した柴は単身で代官屋敷に乗り込むがのだが・・・・・・。









 三匹の侍のリーダー的な存在の丹波哲郎の演じるところの柴左近は、テレビドラマでは第1シリーズだけの 出演で、1969(昭和44)年までつづく第6シリーズまでは、平幹二 郎の桔梗鋭之介を中心に、長門勇の桜京十郎にくわえて、加藤剛の演じる橘一之進でストーリーは進み人気長寿番組となってお茶の間を沸かせた。

 ボクも子供の頃に、この連続娯楽時代劇を見ていたが、長門勇の槍をもった浪人の印象が一番つよく記憶に残っており、平幹二郎の刀を腰に差さずに着流しで肩にぶら提げるスタイルも粋だった。1970年に『新・三匹の侍』が放映されるが、この新シリーズには新たに安藤昇に高森玄にひき続き長門勇だけが登場していた。

 1970年代になると、『木枯らし紋次郎』とか、『必殺・仕掛人』シリーズなどの時代劇がテレビの新たな連続娯楽ドラマとして人気をえる時代で、『新・三匹の侍』は1クール全13話で終了するのだが、当時のテレビ番組は2クールが標準 の放映 期間であり、クールとは業界用語 で四半期を意味する。1クールの放映期間は当時として視聴率の低迷による打ち切りを意味する。


 さて、映画『三匹の侍』は、かなり無謀な百姓たちの悪代官への抵抗ではあるが、非道ながら代官の娘を拉致監禁して人質にする行為をした百姓たちは、兵糧のない水車小屋に僅かな粟があり、百姓たちは自分の食い扶持よりも、代官の娘と流れ者の浪人である柴左近に粟粥を食べさせる場面が泣けてしまう。

 また、五社英雄の映画は殺陣がリアルで、この映画ではエンターテイメント的に迫力のある殺陣が発揮されている。それが魅力のひとつでもあるのだが、人情味のあるキャスト陣の個性を描く演出も際立っている。70年代後半に五社監督は、池波正太郎の原作である『雲霧仁左衛門』や『闇の狩人』なども製作するが、これらは重苦しく暗いノワール映画に仕立てられていて、池波正太郎の原作から離れてボクはあまり好きな作品ではない。しかし、チャンバラ映画の傑作である『人斬り』は時代劇の金字塔として語り継がれている。その原点となる作品が『三匹の侍』のなかで収斂されて輝いている忘れられない時代劇ドラマである。