映画の食卓(銀幕のご馳走)その22『ヴェラクルス(パパイヤ)』 | 空閨残夢録

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 米国で1861年から65年にかけて南北戦争が勃発した。米国南部諸州の11州は綿花栽培を中心とした農業のプランテーション経済が盛んで、これをヨーロッパに輸出する自由貿易圏で、黒人奴隷の労働力に支えられた農園経営システムであった。

 米国北部23州の合衆国側は、1812年から14年の米英戦争により英国工業製品の途絶で急速な工業化が加速する。欧州製の工業製品より競争力を優位に保つため保護貿易を模索する。また流動的な労働力を必要としたために奴隷制とは相いれない状況となる。

 南部における貿易の自由化と奴隷制擁護、北部の保護主義と奴隷解放路線で、米国はやがて南北で対立する構図が生まれ、やがて内戦となるのであった。それが米国の南北戦争の構図であった訳だが、勝利は北部が治めて南部は敗退することになる。

 時を同じくして、隣国はメキシコで長くスペインの植民地支配から独立革命を経て独立に成功したが、米国との軋轢や欧州の侵略に、たびたび他国の占領を余儀なくされる歴史はつづく。

 1866年に、南北戦争で敗れた南部の兵士やならず者の群れがメキシコに逃れて野望と欲望を露わに流入して来る。それは、ナポレオン3世の傀儡でオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の弟のマクシミリアン1世がメキシコの帝位につけられる。

 メキシコ皇帝マクシミリアンは抵抗勢力や革命軍の反撃で不安定な支配をメキシコで余儀なくされていたが、ナポレオン3世はメキシコ支援にやがて手をこまねき次第に撤退していく。

 そこで、メキシコ皇帝は欧州からの傭兵や米国の南部敗残兵など、その他にもならず者まで金で雇い抵抗勢力と徹底抗戦の構えをみせる状況なのだが、1954年の米国映画で西部劇の秀作『ヴェラクルス』は、そのような背景から史実と虚構を交えて物語化した映画作品である。







 欲望と野望を露わにした無法者の群れが米国からメキシコに流れる1866年、映画『ヴェラクルス』は冒頭で、たった一人で砂漠を流れるゲーリー・クーパー演じるベン・トレーンの姿を銀幕にまずは映す。

 南軍司令官ピエール・G・T・ボーリガードの副官で、その勇士であったトーレン大佐は、メキシコ・シティを目指す途次に馬が片足を骨折してしまう。折よく、馬がいる農場で馬を買う算段で寄ると、そこにバート・ランカスター演じるお尋ね者のジョー・エリンがいた。

 ジョーからベンは馬を買いメキシコ・シティーを目指すが、購入した馬はフランス政府軍からジョーが盗んだ馬で、ベンも政府軍から追撃されるハメとなる。政府軍とお尋ね者ジョーの姦計から逃れてベンは或る酒場に立ち寄ると、運悪くジョーの配下たちと出くわす事になる。

 やがて、ジョーの一味とベンは連携してメキシコ・シティーに傭兵として雇われる目的の為に仲間となるが、旅の途次に南部からの流れ者たちに絡まれたパパイア売りの娘を助けることになる。このパパイア娘はニナという名の掏りでサリタ・モンティールが演じる艶ぽっいイイ女でシビレてしまう。


 パパイヤはメキシコ南部を原産とする常緑性の小高木である。多くの熱帯の国々で栽培されており、日本では、沖縄で人家の庭などに自生している。パパイア(パパイヤ、蕃瓜樹、英語 : Papayapapawpawpaw 、学名:Carica papaya)とは、パパイア科パパイア属の常緑小高木である。その果実も「パパイア」という。「チチウリノキ(乳瓜木)」、「モッカ(木瓜)」、「マンジュマイ(万寿瓜)」、「パウパウ」、「ポーポー」、「ママオ」、「ツリーメロン」などと呼ばれることもある。








 さて、映画『ヴェラクルス』のあらすじであるが、ジョーとベンとその仲間はフランス貴族のデ・ラボルデェル率いる政府軍と出遭い、反政府軍の包囲を起点で突破して、皇帝の傭兵としてベンとジョーの一派は雇われることになった。

 ベンとジョーの一派はメキシコ・シティーで皇帝と謁見するが、デニーズ・ダーセル伯爵令嬢をヴェラクルスまで無事に送る仕事を任じられる。

 ヴェラクルスはメキシコ湾西岸最大の港湾都市で、要塞のある港であった。そこへフランスに帰還する令嬢を反政府軍の魔手から無事に送り届ける仕事を多額に引き受けたベンとジョーの一行は、旅の途中で、伯爵令嬢の馬車(ワゴン)よりも、二台の二頭立ての荷馬車(カート)が軽いことに気が付く。

 婦人の乗った馬車には多額の金塊が隠されていたのだが、これはメキシコ皇帝がナポレオン3世の支援が遠ざかった為に、フランスに用意した金塊だった。この軍資金で欧州からの支援を期待して運ばれていたモノを、伯爵令嬢は強奪を計画していたが、この計り事を察したベンとジョーは金塊強奪に一枚加わることになる。

 されど、これを運ぶ侯爵は更に上手で、金塊の強奪を計る婦人やならず者からの魔の手をまんまと逃れる。そして、ヴェラクルスの要塞に皇帝からの使命を全うする侯爵は、反乱軍の攻撃から備えるのであった。

 やがて革命のための反乱軍の情熱と誠意にベンは傾倒して、金塊を一人で強奪するジョーと一騎打ちを演じることになるラストシーンは西部劇史上の名場面となる。