映画と食卓(銀幕のご馳走)その10『ナルニア国物語(ターキッシュ・デライト)』 | 空閨残夢録

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 トルコに旅行してきた知人からお土産をいただいたのだが、それは“ロクム”というお菓子である。日本のお菓子に例えるならば、“求肥”とか“ゆべし”みたいな食感の菓子である。フランス菓子のパート・ド・フリュイにも似ているが、英国ではこのお菓子を“ターキッシュ・デライト”と呼ぶ。

 ロクム(トルコ語:lokum)は、砂糖にデンプンとナッツ(クルミ、ピスタチオ、アーモンド、ヘーゼルナッツ、ココナッツなど)を加えて作られるトルコのお菓子。この菓子が英国に伝わるとフルーツ系の味や薔薇のフレーバーを配合したレシピなどが生まれる。

 この英国に伝わった土耳古菓子こと、ターキッシュ・デライトで思い出すのが、C.G.ルイス原作のファンタジー 映画は 『ナルニア国物語』(2005年公開)第1章の「ライオンと魔女」である。この映画で白い魔女の誘惑により、ベベンシー4兄弟姉妹の次男であるエドマンドが、お菓子のためにナルニアの王者アスランを裏切る場面がある。

 原作の翻訳では、このターキッシュ・デライトをプリンと訳している。まぁ~、日本では知名度の低い土耳古菓子であるロクムを、魔女の誘惑的なお菓子の魅力として、プリンとした経緯は考慮して、本当はターキッシュ・デライトがエドマンドが誘惑に負けて食べたお菓子なのである。

 トルコのお菓子には、お米入りのプリンで、“ストラッチ”なんてものもありまして、「ナルニア国年代記」の翻訳家の瀬田氏がロクムをプリンと訳したのは、知名度としては日本でプリンの方 がお菓子としては有名ですし、 プリンの方がイメージしやすい事情があったのでしょうネ。別にケチをつける気はありません。







 ディズニー映画の「ナルニア国の物語」の白い魔女役の女優は、ティルダ・スウィントンという英国女優なんですが、何んとも知的で美しく、気高く気品にみちて、とっても怖い妖気に満ちております。美しい魔女も好きですが、妖精のような、4兄弟姉妹の末っ子のルーシーがとってもカワイイのも印象的です。ルーシィがナルニアの国へ最初に行くのですが、箪笥の中からナルニアの雪国へ到達するシーンは、なんとも美しい場面である。そしてルーシィはタムナスさんと出逢いましたネ。

 アスラン王の事にも少々ふれておこうかな、アスランとはライオンを意味するトルコ語だと思うのだが、トルコ には“ラク”というお酒があるのだが、この酒はチーズなんかを肴にして飲まれているようで、メロンとも相性がよいのだそうですヨ。ワインやブランデーにメロンは合うので、この葡萄酒を蒸留した酒がラクだから、メロンを食べつつ酒に合わせるのも利に適うかも知れない。

 ラクをボクは飲んだことは無いのだが、ギリシャの“ウゾ”と同じような酒であり、この透明な蒸留酒は、アニスを風味漬けにした葡萄酒を蒸留したのがウゾなんですが、ラクは乾し葡萄を原料にして蒸留していると伝わる。

 ラクのようなアニス風味の強い酒は、トルコからギリシャの地中海エリアでは好まれて飲まれる。フランスはマルセイユ産のスターアニスを原料にした酒は、“パスティス”と呼ばれていて、“アブ サン”を模して製造されたのが由来の酒。

 アラブ地域では“アラック”という酒があり、この語源が“ラク”の由来で、これらのアニス風味の酒で共通するのは、水割りにすると白濁するのですネ。“ラク”も勿論、水を添加すると白く濁るのですが、この状態を“アスラン・スュテュ(獅子の乳)”と呼びます。

 エドマンドが白い魔女にお菓子で誘惑されてしまったが、大人のボクは“獅子の乳”で白い魔女に誘惑を受けたら、多分、アスランを裏切るかもかもしれないが、それはまるでイエスを裏切ったユダのように・・・・・・。







 さて、C・S・ルイスの描いたファンタジーの大作である『ナルニア国物語』は1950年に『ライオンと魔女』が最初に出された。51年に『カスピアン王子の角笛』、52年に『朝びらき丸 東の海へ』、53年に『銀のいす』、54年に『馬と少年』、55年に『魔術師のおい』、56年に『最後のたたかい』と出されて全7巻となる。

 『ライオンと魔女』は、第二次世界大戦の時の英国が舞台で現実世界から物語は始まる。ドイツ軍の空襲からロンドンを疎開して来たピーター、スーザン、エドマンド、ルーシィの4人兄弟姉妹が洋服箪笥からナルニアの幻想世界へ冒険する物語。

 最初にナルニアに訪れた末娘のルーシィは牧神のような半獣神のタムナスというフォーンと出逢う。フォーンはギリシア神話に登場する腰から上は人間で、両脚は山羊のような姿であった。このフォーンはイブの娘(人間の娘)を見つけたら捕まえるように白い魔女に命令されていたが、タムナムさんは白い魔女を裏切りナルニアから現実世界にルーシィを帰すことにした。

 白い魔女とは、ルイスの愛読したG・マクドナルドの『リリス』からの着想であろうと思われる魔性の女で、リリスはアダムの最初の妻であり、古代バビロニアに起源をもつ夜の魔物である。アスランは先にも述べたがトルコ語でライオンである。この獅子はイエス基督を思わせる存在であり、古代オリエントからギリシア神話などケルト的なキリスト教の世界観を織り交ぜたファンタジックな世界をルイスは壮大に作り上げている。

 この物語にサンタクロースが登場して、ピーターに剣、スーザンには弓と角笛、ルーシィには短剣と魔法の薬をプレゼントしてくれた。子供には白い魔女がエドマドンドにプレゼントしてくれたお菓子のターキッシュ・デライトの方が嬉しいであろうが、飴よりは鞭の方が子供を魂の世界では成長させてくれるみたいだ。現実ではサンタクロースにはお菓子をプレゼントしてもらいたいよネ。