映画と食卓(銀幕のご馳走)その11『ロード・オブ・ザ・リング(ビール)』 | 空閨残夢録

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デカダンよりデラシネの戯言


 


 J・R・R・トールキンの『指輪物語』が、2001年に「旅の仲間」、2002年に「二つの塔」、2003年に「王の帰還」の三作品として映画化された。つまり、『ロード・オブ・ザ・リング』三部作である。

 この物語のプロローグは、遠い遠い昔、闇の冥王サウロンが密かに、世界を滅ぼす魔力を秘めた“ひとつの指輪”を作り出した。サウロンは自らの残忍さ、邪悪さ、そして生きるものすべてを支配したいという欲望を、この指輪に注ぎ込んだのだ。

 やがて中つ国(ミドル・アース)の自由な地は、指輪の幽鬼をふるうサウロンの手に落ちていった。激しい戦火の中で強者たちがサウロンの支配に次々と立ち向かい、ひとりの勇者イシルドゥアが、サウロンの指を切り落とし、指輪を手に入れサウロンを倒した。しかしイシルドゥアは指輪を葬ることなく自らのものとし、悪を永久に滅ぼす唯一の機会を失った。そして指輪はイシルドゥアを裏切り、死に追いやる。

 その後、指輪は時と共に所有者を変え、所在を変え、いつしか伝説、そして神話となったが、数百年の時を経てホビット族のビルド・バギンスの手に渡る。





 

 第一部のあらすじは、人間の他にエルフ、ドワーフ、ホビットといったさまざまな種族が存在する架空の世界である中つ国を舞台に、世界を支配する魔力を持つといわれる冥王サウロンの指輪をモルドールの滅びの山の火の中に葬るために、ホビット族のフロド(イライジャ・ウッド)、サム、ピピン、メリ、魔法使いのガンダルフ(イアン・マッケラン)、人間の王イシルドゥアの末裔であるアラゴルンと騎士ボロミア、エルフ族のレゴラス、ドワーフ族のギムリの9人の「旅の仲間たち」が、指輪を狙う敵と戦いながらモルドールを目指す壮大な冒険を描いている。

 さて、指輪を葬る旅の冒険に出たフロド・バギンスと庭師の息子サムは、ブリー村で魔法使いガンダルフと落ち合うためホビット庄を旅立つ途中で、ピピンとメリに出会い、サウロンの放った9人の黒い騎士たちに追われる。





 魔の手を逃れて4人のホビット一行は、ガンダルフの待つブリー村の宿“踊る仔馬亭"に辿り着く。この宿にあるカフェでホビットたちはパンとチーズにエールで夜食をとる。ホビットたちはビールの一種であるエールが好物だとうかがえる場面だ。





 


 ホビットの食事や好物は人間たちと変わりない。パンにチーズ、野菜やソーセージに、キノコが大好物みたいだ。

 第二部でサムが野うさぎのシチューを野外で作る場面があるが、敵の襲撃で食べられなかったのが残念である。また、第二部と第三部でレンバスという葉っぱに包まれた携行食用のパンはホビット特有の非常食である。

 第三部で無事に、フロド、サム、ピピン、メリの4人はホビット庄に帰還するが、村にたどり着いてエールで乾杯し祝盃とした。


 1954年、『指輪物語』第一部「旅の仲間」、第二部「二つの塔」が刊行される。55年に第三部「王の帰還」が出された。作者のトールキンはオックスフォード大学の言語学者であった。『ナルニア国物語』のC・S・ルイスとトールキンは同じファンタジー同好会のクラブであるサークルの仲間であった。


 トールキンはウィリアム・モリスのファンタジーに強く影響を受けて作家を志す。またフィンランドの“カレワラ”神話に刺激を受けて自らも神話体系を構築することになる。


 『ナルニア国物語』では4兄弟姉妹が現実の世界から箪笥を通して異世界へと入り込むが、箪笥はいわば『不思議の国のアリス』のウサギの穴と同じである。しかし、『指輪物語』には現実世界は存在せずに、創られた神話という人類の歴史の前史という別世界を構築したファンタージーである。


 しかし、ホビットの庄ではエールなどの飲み物、パンやチーズ、ハムやソーセージなどの食文化は、英国の近代から現代と変わらない描写となっている。