映画と食卓(銀幕のご馳走)その4『ゴット・ファーザー(カンノーリ・シチリーニ)』 | 空閨残夢録

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デカダンよりデラシネの戯言

 


 イタリアン・ドルチェの “カンノーロ” を知人のパティシエが試作で作ったものを試食したのだが、このお菓子はシチリアの名物で、カンノーロ(cannolo - 単数形)、カンノーリ(cannoli - 複数形)、カンノール(cannolu - 単数形のシチリア方言)などと呼ばれるお菓子であった。

 カンノーロはラテン語の “cannna” を語源とする言葉で、「小さな筒」を意味するが、直訳すると「葦」や「植物の茎」を意味するようだ。伝統的なカンノーロはサトウキビの茎を利用していたことに由来していて、現代のシチリアから波及したカンノーロは筒型にした生地を油で揚げたものに、一般的にはリコッタチーズを詰め込んだお菓子である。

 リコッタチーズもシチリアでは羊乳の原料のものを元々は使用しているが、アメリカではマスカルポーネなどのチーズをカスタードクリームと混ぜてレストランなどでは販売していると伝わる。






 さて、ボクがいただいたカンノーロは、濃厚なリコッタ・チーズは重たいので、日本人の嗜好に合わないことから、口当たりの軽いマスカルポーネとカマンベールの2種のチーズと、これにカスタードを混ぜたクリームを、コロネ型にしたサックリと厚めに揚げた生地のものであった。生地は素朴で香ばしく、クリームはバニラの風味がほんのりする“カンノーロ”はとても美味しかった。





 このカンノーロは、1972年に公開されたフランシス・フォード・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』(原題:The Godfather)に登場して、イタリア系米国人のほかにも、米国に広く認知されたシチリア島名物のお菓子となった。

 この映画では、カンノーロを「カンノーリ」と、コルネオーレの忠臣である暗殺者ピーター・クレメンザは発音している。

 やがて、1990年に公開された『ゴッドファーザー Part Ⅲ』では、ドン・アルトベッロを、オペラ座で、ドン・マイケル・コルレオーネ(アル・パチーノ)の妹であるコニー・コルレオーネ(タリア・シャイア)が、自家製のカンノーロで毒殺する場面で印象深い。

 ドン・アルトベッロは生まれ故郷のシチリア島の“おふくろの味”に、ついつい気を許してしまって死に至る場面で、再度カンノーロはコッポラの映画で登場することになるのであった。