ストラヴィンスキーのシャツ | 緑の錨

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歴史家の山本尚志のブログです。日本で活躍したピアニストのレオ・シロタ、レオニード・クロイツァー、日本の歴史的ピアニスト、太平洋戦争時代の日本のユダヤ人政策を扱っています。

ストラヴィンスキーがシャツを作る話が、ブルーノ・モンサンジャンが書いたナディア・ブーランジェとの対談本に出てきます。

そこで、シャツを作る話をするストラヴィンスキーに、その話の内容が平凡であると感じたブーランジェが問いただすのですが、そこで、ストラヴィンスキーがかなり意味深いことをいいます。「少なくとも僕は、自分の望み通りにすることが、いかに困難かが分かったんだ」(ブルーノ・モンサンジャン『ナディア・ブーランジェとの対話』(佐藤祐子訳、音楽之友社、1992年、139頁)というのです。

これは、たぶんシャツだけのことではないでしょう。

まず、自分の望みを知るのが難しいことでしょう。そして、望み通りにするのも難しいことでしょう。一番難しいのは、自分だけが他のひとと違っているのを覚悟することかもしれません。

そんなわけで、流行に身を任せるのだと思います。何かを追いかけるというのは気分のよいことです。

そこで、あえて自分のものをつかめるのか。あるいは、自分のものをつかんでいるつもりで、別の流行に流されているだけではないのか。そのような問題点を越えて、独自のものをつかむのが大変なことなのでしょう。

ストラヴィンスキーのシャツがどうであったかはわかりません。いずれにしても、彼は音楽において自分の道をいったように思います。