シュトライヒャー余聞(6) | 緑の錨

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歴史家の山本尚志のブログです。日本で活躍したピアニストのレオ・シロタ、レオニード・クロイツァー、日本の歴史的ピアニスト、太平洋戦争時代の日本のユダヤ人政策を扱っています。

シュトライヒャーのもとに母親から送られてきたのは、ハンブルクまでの旅費の筈でした。

しかしシュトライヒャーは友人シラーを見捨てないことにして、母親から送られてきた旅費をふたりの当座の生活費に充ててしまったのです。

そのあいだに、シラーの新作「フィエスコの反乱」はマンハイム宮廷劇場から採用を拒否されてしまいました。けれど、かれは絶望の淵でも勇気を失わないで、第3の戯曲「たくらみと恋」の準備に入っています。

絶望の淵で、音楽は慰めです。シュトライヒャーは月明かりのなかで楽器を弾いて、親友の詩作を助けました。絶望して、うちひしがれた親友をささえたのは、シュトライヒャーの誠実であり、かれが母親に無心した金であり、その楽器が奏でる音楽でした。