警部コロンボ『別れのワイン』 | 緑の錨

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歴史家の山本尚志のブログです。日本で活躍したピアニストのレオ・シロタ、レオニード・クロイツァー、日本の歴史的ピアニスト、太平洋戦争時代の日本のユダヤ人政策を扱っています。

私たちの世代にとって、ワインのとらえかたという点で、大変に影響力の大きかった番組です。最近、DVDが書店で発売されていて、もう一度見ました。

ワイナリーを経営するエイドリアン・カッシーニ役のドナルド・プレザンスは、『大脱走』の偽造屋を演じたときの印象が強い名優で、このドラマでも大変に味わいぶかい演技を見せています。弱い人間であるとともに、世界を見通したような悲哀に満ちた眼差しをも感じさせる屈折した人物として描かれていました。

舞台はカリフォルニアのワイナリーということです。コロンボ警部はロス市警の一員ですから、ロサンジェルス近郊なのでしょう。この番組が最初に放映されたのは1973年。1976年のパリ・テイスティングにおいて、カリフォルニア・ワインがフランス・ワインを圧倒して一躍注目を浴びる3年前のことで、製作者の先見の明に驚かされます。

現代では、カリフォルニア・ワインの質はすでに高く評価されていて、信じられないほど人気のあるワインもあります。あまりに高価になったアメリカのカルト・ワインは、飲んだこともなく、今後も飲めるとも思いませんが、ワインを徹底的に愛する人物によって、このような環境から生まれたのかと思いました。

このドラマでは、コロンボのイタリア系という出自もうまく生きていますね。

多くのワインが出てきますが、いちばん印象深いのはモンテフィアスコーネでしょう。たぶん、エスト・エスト・エストだと思います。

某レストランのワイン・フェアで映画に出てきたワイン特集をするとき、ソムリエさんが良質のモンテフィアスコーネ・エスト・エスト・エストを確保するために、全力を費やしたというほど、このワインは印象深い使われ方をしています。多くのイタリアワインと同様、この銘柄も生産者によって味わいに非常に差があるのです。

このエスト・エスト・エストがとりわけ高価なワインとはいえないことも、むしろワイン好きに良い印象を与えるように思います。

非常に重要な場面で出てくるのですが、ここでコロンボが、このワインを選択できたのは彼のワインについての勉強がきわめてつきつめたものであったことを示しています。また、その選択を喜ぶのは、エイドリアン・カッシーニがスノッブではなく、ワインを愛する人であることを示しています。

本当によいモンテフィアスコーネのエスト・エスト・エストはさわやかで非常においしいですよ。その後で偉大なボルドーと組みあわせてもうまくいきます。

ワインのデーモンの威力と恐ろしさも、また、とりわけ印象的に描かれていて、多くのワイン好きに決定的な印象をあたえました。ワイン好きならば印象深い名台詞がいくつもちりばめられています。