書類ケース | 緑の錨

緑の錨

歴史家の山本尚志のブログです。日本で活躍したピアニストのレオ・シロタ、レオニード・クロイツァー、日本の歴史的ピアニスト、太平洋戦争時代の日本のユダヤ人政策を扱っています。

 大学を越えて、多くの研究者の面倒を見ておられるスイス人の神父さんがおられました。多くのドイツ現代史研究者が、その神父さんにドイツ語を教えていただいたのですが、そんな弟子たちにもあまり知られていない逸話があります。第二次世界大戦の間、神父さんはドイツで進学を学んでいました。

 さて、スイスの旅券を持っていた彼は、ある日ドイツ人の神父さんにベルリンに書類鞄を持っていくように依頼されます。中身はなにかわかりません。ミュンヘン・ベルリン間の急行はとても混雑していて、苦難の旅行になりましたが、混雑のあまり警察もチェックもできない状況で、鞄はベルリンの神父様に手渡されました。

 しばらくして、1944年7月のあと、多くの関係者が逮捕されてかなりが処刑されました。反ヒトラー抵抗運動の一員であったのでした。スイス人の神父さんは全員が沈黙を守ったために無事であったそうですが。この話は自分が研究対象とする時代が、かつては現代であったこと、それに、名も知れず誇ることなく勇気ある人たちが存在したことなど、多くを教えてくれました。