『少年H』 妹尾河童 | ぷぷぷ日記

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『少年H』 妹尾河童 講談社1991

手元にあるのは講談社の単行本。「下巻」の第一刷が1991年1月、その12月には第二十二刷を数えたことがわかる。映画化されて、また読んだ人が増えただろうな。
今少し読みなおしただけで、この本はやっぱりスゴイ、誰にでもおすすめだと言える。
この物語は、太平洋戦争の前後に多感な時期を過ごした少年(著者)の体験に基づいている。1930年生まれの著者は満州事変(1937)時には物心がつく頃だから、ずっと軍国主義の中で育ってきたといえる。終戦時は中学生だ。

この本の始めのほうでは、平和だったころの神戸が描かれる。クリスチャンの母、外人をお得意にもつ洋服屋の父、そして紀元2600年のお祭り。やんちゃな主人公Hの無邪気な日常のなか、ときおり戦時の色合いが現れてくる。やがて戦時中の理不尽にとまどうようになり、空襲をくぐりぬけ、中学に入ると軍事教練があり……と戦争一色になってくる。軍国主義に反発をおぼえながら過ごす毎日だったが、終戦。

ここからが、Hにとってはさらなる試練だった。この時期、多感な中学生だったということは、不幸だったといえる。戦争中に望んでいた民主主義の時代がやってきたのはうれしいが、戦争に協力していた人々が手の平を返したように民主主義を賛美する状態に、ぬきがたい不信感を抱いた。父親も同じ思いのようで、抜け殻のようになってしまった。Hは、そんな父に怒りをおぼえ、世間にも、母にも、何にでも苛立つ。共産党議員候補の演説を聞きに行ったが、そこで見たのもやはり大勢の人が同じことに賛同する姿で、戦時中の「神国日本万歳!」と同じように思えてしまった。
――Hは、「みんなが同じことを言うのは怖いなあ」と思った。――

少年は、正しい。大人は現状に妥協することで生きる術を身に着けているから、普通はなんとかなる。
しかし、少年は「自分を消してしまいたい」、死んでしまいたい、とまで思うのだった。

……このようなくだりは果たして、映画では表現されていたのでしょうか。(機会があれば、見ようと思います)。長い物語なのですべてのエピソードを収めるのは、もちろん無理だったでしょう。おもしろくて読みやすいので、スラスラ読むもよし、考えながら読むもよし。
この本はノンフィクションではないですが、時代と人間の変化をうつした真実を見ることができる物語、ということは確かです。