『零式戦闘機』 吉村 昭 新潮文庫 | ぷぷぷ日記

ぷぷぷ日記

映画・マンガ・アニメ・小説・歴史・日々の雑記帳。

更新は思いついたとき。

第二次大戦中の日本で、もっとも華やかなスターといえば「ゼロ戦」ではないでしょうか。
この本はその設計・誕生の過程から、末路までを描いています。特徴的なのは主に、設計・開発から製造の様子を誕生時から敗戦にいたるまでを追っていることです。

冒頭から驚くべき事実が描かれます。零戦は、提灯に先導された牛車に乗せられ、ひと晩かけてしずしずと、民家の軒に触れんばかりの狭い街路を一機ずつ輸送されていた・・・海辺の名古屋工場で製造され、飛行場は岐阜の各務原だったからだ。

最新鋭の戦闘機が、なぜ牛車に? シュールな光景ではありませんか。未舗装の道路では揺れが大きすぎる、列車では機の幅から通行が不可能などの事情からだそうです。先進の工業技術を駆使しながら、その手法も環境も後進国のそれであったという日本のアンバランスな事情が象徴的にあらわれている。今の北朝鮮ってこんな感じなのかしらん? とまで考えてしまう。

重慶爆撃の護衛としてデビューし、改良を重ねて華々しい活躍をした零銭は米機に「逃げるしかない」と言わせるほどの最強の戦闘機となっていった。しかし戦争後半になると軽快さを優先したため防御力がまったく弱いことなどが露呈し、一方では格段にパワーアップしたアメリカの新型機に対抗できなくなってくる。三菱設計部では新型機の設計に割く余力はなく、また軍も明確に次世代機の開発を指示してこなかった。

終盤では零銭は、米機におもしろいように撃ち落される旧型機となった。そして特攻に使われるようになっていく。製造の資材は不足し工場は空襲に悩まされるという状況になっても、零戦は敗戦まで細々と造りつづけられた。女子挺身隊、学徒動員たちがその仕事を担った。一機ずつ、手作りのように製造された。著者がこの本を書こうとした動機は、これら民間の人々が零銭の製造にかかわり、また軍需工場への空襲で被害にあったという事実からだという。

この分野では、吉村 昭は徹底した取材で事実を確認して書くことを旨としています。冷徹なまでに数字などを示して具体的に描き、余計な論評などが挟まないことが、かえって読む人間の胸にせまってくるのです。かっこいい戦闘機の一生、戦略・戦術の展開、苦しい日本の状況・・・すべてが同時に読めてしまうというような、めずらしい、すばらしい作品です。

零式戦闘機 (新潮文庫)/吉村 昭
¥580
Amazon.co.jp