坂の上の雲〈4〉~
(和書)
1999
文芸春秋
司馬 遼太郎
(4)~(8)最終巻までのレビュー。
3巻までの人間を追う構成とは趣きを異にし、4巻以降は戦争一色。旅順攻略、奉天会戦を経てバルチック艦隊の撃滅、終戦。日露戦争の流れを大局的に描き出した大作だ。
日本が辛くも勝利した事情とともに明治の国家というものの性格、明治に生きた人の気分を味わうことができる。
戦記ものとしてはこれほどおもしろいものはほかにないだろうというくらいおもしろい。(ほかにもあるんだったらぜひ教えてほしいと思う。)
旅順要塞攻略。展開にわくわくしつつ司令官乃木と参謀伊知地の無能ぶりにイライラする。
奉天会戦。綱渡りのような作戦行動にはらはらし通しになる。
日本海海戦。ロシア側の落ち度のみで勝ったと思っていたのがそうではなく、粛々と作戦に臨んだ結果としての勝利。意外だった。
各稿では、各作戦の重要性や指揮官の思惑、兵力や火力の状況はどうであったかといった条件や、背景にある政治力学的なことまでがわかりやすく(あるいは執拗にと言うべきか)語られているため、ひとつひとつの戦略が読ませるドラマになっている。
歴史「小説」といえば史実を背景にフィクションを展開するのが作家のおもしろみではないかと思うが、この作品に関しては事情が違う。
司馬氏自身が、事実に即していかなければならない以上小説として成立するか疑わしい、といったことを述べている。
すなわち準備期間5年、連載5年という長い時間に調べ上げた大量の事実に忠実にこの作品は則っている。
大量の事実を咀嚼し自らひとつひとつの戦術の意義や人の行動について自分なりに評価を下す。そんな作家というよりは研究者のような地道な作業の上に築き上げられた作品である。だからこそ誰が読んでもわかりやすく、おもしろい。
※蛇足
現在毎日新聞日曜版に古川薫氏が「斜陽に立つ」という小説を連載をしている。現在乃木希典と児玉源太郎の若き日々を追っているところ。この冒頭に「司馬遼太郎氏の乃木希典への評価は不当に低すぎる」「氏は見てきたように場面を描くが創作で書かれているところもある」といったことが書かれていた。この連載は乃木の名誉を挽回したいという意図もあるらしい。今のところおもしろくないが、先が少し楽しみ。