ドラマの頭に演出が見えたり、何かのこだわりが見えたりすると、このドラマは見る価値があると思わされる。そして、実際(好みはともかく)最後まで見る価値はあったのだと思う。【家族だから愛したんじゃなくて、…】の最初の俯瞰カットは結局意図はわからなかったのだけれど、演出は見えたし、【18/40 …】の映画のようなフェイスカットは(これはカメラマンの力かも)ちょっと期待させたりする。テレビドラマなので予算と時間の戦いだろうが、こだわりのないものをただべたーっと見させられるのは困る。そうなると、脚本の面白さと役者の魅力だけに全てが委ねられてゆく。
主演の役者の人気だけで作っているのかと思わされるドラマ。そのキャラクターがあまりに極端な対比のみで人間的魅力はどこかへ忘れ去られている。【トリリオンゲーム】【ノッキンオン・ロックザドア】
あり得ないキャラクターも見ていて辛すぎる。【真夏のシンデレラ】東大卒で、顔が良くて、外見に何の問題もなくて、家柄も良いのに、あんなに自信のない優しさを持つ人は見たことがない。結局仕事が出来るのか出来ないのかさえ分からなかった。脚本があまりにも酷く、セリフが選抜されていないので、まるで中学生の初恋ドラマみたいになっていて、やっている大人の役者はさぞ恥ずかしかっただろうと見えた。問題が起きていないのに問題っぽくしたり、それを解決させずにスルーしたり、プロットも酷いし、無駄なセリフの繰り返しが多く、この酷さは脚本家ひとりだけの問題ではない気がした。そもそもタイトルからするに、一流の男が、田舎育ちの貧しいけれど気立ての良い娘を迎えに来るドラマを作りたかったのではないか? (具体的なことをひとつ書くと、夏海の弟、海斗の扱い。水島の両親が週末に来ると言っていたのに、当日海斗は、「学校へ行く」と出かけていく。都合が悪いとすぐ小椋春樹という子どもの遊び相手にさせられ、そのシーンから遠ざけられる。恋人に子どもが出来た事件も、結局なんの効果も結果もなかった)脚本家に力がないのは明白だが、局側の意向に振り回されて全てがなし崩し、成立させられないまま、思いつきのつぎはぎだらけになったのだろうか。やっている役者もさぞ辛かったことだろう。主演女優3人はそれぞれ魅力的な演技をする役者なのに、もちろん酷かった。その中でギリギリ成立させていたのが、水上恒司。あの不思議な間とセリフのテンポで、ありもしない行間を自分で生み出している感じがあった。
ただ、つまらないと感じさせられるドラマに限って、回数が多いのは、私の感性が現代からずれてしまっているのか、または、ドラマの観客が馬鹿にされていて、とにかく役者の人気だけで視聴率が担保されているかのどちらかだろう。テレビドラマだからこの程度で良い。という考え方もあると思うが、面白いに越したことはない。そして芸術性があれば、馬鹿ではない観客は、その感性を更に磨いて、相乗効果で面白いドラマが作られていくと思う。
最初は興味を引くところも多々あったのだけれど、途中からつまらなかったり、最後の答え合わせのためだけに数話進んで行ったり、お仕着せがましいセリフが長く並んだり、見ることそのものが辛くなるドラマがいくつかある【最高の教師 1年後、私は生徒に■された】【CODOー償いの代償ー】【警部補ダイマジン】
【なれの果ての僕ら】は、事件の全貌を表すための進行役、記者星野薫子役の森カンナが全てを壊した感じ。星野役のキャストを変えればそれなりのドラマになるはず。それと同じような感じで【彼女たちの犯罪】でさとうほなみのNAにしたのは失敗ではないだろうか?
役者についてちょっと書きたいのは、演技派と(確か)いうことで出てきた小芝風花、彼女の顔はいつも困っている。笑顔がストレートに出ることがない。気まずそうな笑顔。つまりいつも同じ。同じく【転職】に出演した岡崎紗絵は、いつも怒ってる。いつも同じというのは、役者の仕事ではない。うっかり上手いと勘違いされて売れてくる役者は、最初によっぽど合っている役をいただいたラッキーな方なのでしょう。(あと性格の良い子だと思われる)が、ある年齢までに力をつけないと辛くなります。
久しぶりに連ドラに復帰した深田恭子、どうしてまったく口が開かなくなってしまったのか。
【真夏】の間宮祥太朗は、恋愛ドラマで大好きな人に恥ずかしさを見せていたというよりも、セリフそのものが子ども騙しで恥ずかしそうな顔を何度も見せていた。【トリリオン】の今田美桜。とても良くやっていたと思うし、マイナス点は見当たらない。しかし、この役を今田美桜にやらせる必要がない。予想外のキャラクターをやらせることで、番組が面白くなると思うのは、作る側の視聴率取りだけの問題であり、この役は、いくらでもいるもっと合っている人にキャスティングすべきだと考える。
今回チェックしたドラマは
【真夏のシンデレラ/転職の魔王様/さらば、佳き日/やわ男とカタ子/シッコウ!!犬と私と執行官~/リズム/18/40~ふたりなら夢も恋も/ウソ婚/なれの果ての僕ら/こっち向いてよ向井くん/ハヤブサ消防団/この素晴らしき世界/彼女たちの犯罪/警部補ダイマジン/初恋、ざらり/ブラックポストマン/ハレーションラブ/やさしい猫/最高の教師 1年後、私は生徒に■された/ギフテッド/VIVANT/CODEー償いの代償ー/何曜日に生まれたの/家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった/ノッキンオン・ロックドドア/褒めるひと褒められるヒト/トリリオンゲーム/癒しのお隣さんには秘密がある/ばらかもん(全29作品)(後5つは途中棄権)】
コロナ以降、3ヶ月1クールの時期が少しずつズレ、9月末で終わらないドラマがあったり、随分前に終わって思い出しにくいドラマがあることに困っております。
2023夏 MYアカデミー賞 (敬称略)
主演女優賞 小野花梨 (初恋、ざらり)
初回から素晴らしく目が離せなかった。障害がどの程度なのか、知識として全く分からないので、答え合わせは出来ないけれど、最初のシーンで役柄はすぐに掴めたし、メイクや髪型の力も借りて、役が最後まで途切れずに繋がっていた。
次点:伊藤沙莉(シッコウ!!)
若村麻由美(この素晴らしき世界)
長濱ねる(ウソ婚)
以前から大好きな伊藤沙莉は、声も良いし、芝居も上手い。頷きひとつで多くの意味を伝えている。それが役者の力。
若村麻由美は今回も美しかった。2役を微妙な違いだけで演じ分けていた。最後は3役を楽しんでやっていた。
長濱ねるは、これほど男性にモテそうな女性がいるのだろうか?という可愛らしい女性。とっても女の子なのに、嫌味がカケラも感じられない希少な女性。
主演男優賞 織田裕二 (執行!! ~犬と私と執行官~)
おじさんになっても暑くて、素敵でした。格好良くないのに素敵っていうのは、いいなぁ。若い時は格好良かったので芝居が上手いとか上手くないとかあまり考えたことがなかったのだけれど、伊藤沙莉との微妙な友情を実に素敵に演じてくれました。すっごく生活感のある男なのに、小原樹の暮らしぶりがドラマを通して全く描かれなかったのは、珍しい。
次点:溝端淳平(何曜日に生まれたの)
三浦翔平(やわ男とカタ子)
溝端純平は、いつも良い人の役ばかりで、根底にいい人が流れている。今回も途中からかなりいい人になってしまったのだけれど、当初、天才的な作家のわがままさとか冷たさとか、今までにない役で良かった。
三浦翔平のオネエキャラは、以前も見たことがあるけれど、今回は徹底して、オネエ。顔が綺麗なので、何をやっても許されてしまうところはあるが、オネエ芝居の上手なこと。
助演女優賞 シシドカフカ
(何曜日に生まれたの 警部補ダイマジン)
楽しんで演じていますよね。そもそも個性的な外見でインパクトがあり、最近芝居に余裕が出てきて、キャラクターを最大限に楽しんでいる風でした。
次点:高橋メアリージュン(ブラックポストマン)
円井わん(この素晴らしき世界)
若村麻由美(初恋、ざらり)
早見あかり(何曜日に生まれたの)
ちょっと癖があるので、よく分からないのだけれど、今回の高橋メアリージュンは、とても格好いい刑事でした。
円井わん 初めて見る方なので、気になる役者に入れようかと思ったけれど、あまりに重要な役で…。ご自分の顔の印象をよくわかっているのだと思う。無表情な芝居の数々、素晴らしかったです。
こちらの若村麻由美の役は微妙な難しさがありました。最初は障害を持った娘を愛していないのかと思うほど冷たかったり、その割には娘の彼氏にどうしてそこまで強気で出られるんだろう?と疑問に思ったりしたけれど、彼女の娘に対する愛情、ステレオタイプではないお母さん像が見えました。ステレオタイプではないのに、きっちりと成立させた上に、魅力的なキャラクター。というところが凄い。
早見あかり いやあ、ぶっとんでて、明るくて、魅力的な方です。テンポの良いセリフ芝居も出来るし、合っている役をたくさん演って貰いたい。
助演男優賞 岡山天音(こっち向いてよ向井くん)
前回見た【日曜の夜ぐらいは…】から、あら、この人はこういうキャラの人なのかしら?という役柄にシフトしています。役者は売れてくると、その人に合わせた役所で使われたり、シナリオが描かれたりすることがあるので、彼はそもそもこういうキャラクター? となると、結構個性的で重宝されそう。
次点:生瀬勝久(ハヤブサ消防団)
矢柴俊博(警部補ダイマジン)
役所広司(VIVANT)
いつも芝居も顔も存在もうるさい生瀬勝久が、あら、こんなにハンサムだったのねーと感じさせられました。田舎で頼り甲斐のある普通のおじさん像が見えました。
矢柴俊博、今回はインパクトの強い役柄で、存在感が増したのではないでしょうか。
役所公司、豪華キャストに海外ロケ、制作費をたくさん使えるドラマなんだなあと、そっちばかりに気を取られ、豪華キャストはみなさんそれぞれ見せ場があり、そんなことに気を取られ、一瞬たりともドラマの中には入れませんでした。でも役所広司の役は優しさと冷たさが奇妙に同居していて見させられました。ここには入れませんでしたが、阿部寛はやはり凄かった。彼は登場しているシーンでは確実に目線を持っていく役者です。
気になる役者
平祐奈(この素晴らしき世界) 頭の良さそうな美女
サヘル・ローズ(やさしい猫) 透明感のある美女
出口夏希(18/40~ふたりなら夢も恋も) 今田美桜似の可愛らしい美女
谷まりあ(やわ男とカタ子) 女子力高いのに性格の良い役なんて難しい役をごく自然にできる貴重な美女
前田公輝(転職の魔王様) 前回の【ペンディングトレイン】の時の方が良かったので、その時に書くべきでした。
渡辺翔太(ウソ婚) 前回見た【オールドルーキー】の時は良くなかったけど、今回は役作りというよりは彼そのものに見えたし、あちこちに彼の魅力が散りばめられていた
加藤小夏(さらば、佳き日) ちょっと地味な美女
早織(家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった)美しいし透明感がある。
YU(何曜日に生まれたの)なんて格好いい男だろうと思ったら日本人ではなかった。正統派2枚目をできる役者は貴重です。素敵な男性
黒羽麻璃央(ウソ婚)こちらもなんて素敵な男性だろうと思ったら、こっちは日本人かな?
ということで、私がいかに美男美女好きか分かっていただけたかと。
制作(キャスティング)賞
【何曜日に生まれたの】【ウソ婚】
【何曜日に生まれたの】公文の周囲の人々はめちゃくちゃ個性的で、それでもうるさくなくバランスが取れていた。そして高校の同級生がとても素敵な人たちで、初めてスピンオフドラマを見てしまった。
【ウソ婚】最近仕事のできる格好いい役ばかりやっている菊池風磨は、このくらいの方が魅力的ではないだろうか? 大好きな八重に告白できないわ、大好きな分だめだめだわ。そして匠の元彼女以外は、みんないい人で、いい人なのに一癖も二癖もあり、いいキャスティングだったと思います。
主題歌賞
Bus Stop (何曜日に生まれたの)
ドラマの終わりにこの曲が流れ始めるといつもドキドキした。曲そのものではなく、その奥にいろいろな世界を感じさせられる。
タイトルバック賞 【初恋、ざらり】
【何曜日に生まれたの】
演出家賞 大九明子
(家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった)
池田千尋(初恋、ざらり)
脚本賞 大森美香(シッコウ!!~犬と私と執行官)
こういうドラマは、毎回完結なので、力のあるシナリオライターが書くと、テレビドラマとして楽しめるいいドラマになる。さらにシッコウ!!は、織田裕二演じる小原樹という冴えない叔父さんと、吉野ひかりという普通の若い女性が、最初は勘違いからトラブルになりつつも、少しずつその距離が縮まって、二人のお互いに対する愛情がとてもよく描かれていた。
次点:渡邊真子(こっち向いてよ向井くん)
蛭田直美(ウソ婚)
烏丸マル太(この素晴らしき世界)
野島伸司(何曜日に生まれたの)
軽いラブストーリー、【こっち向いてよ向井くん】【ウソ婚】は、セリフが素晴らしかった。何度も素敵なセリフにうなった。特に【こっち向いてよ向井くん】は、アイデアが全然面白くないのに、よくもまあ、ここまで話をきちんと書いてくれたと感心しきり。
【この素晴らしき世界】は、とてもバランスよく出来たドラマでしたが、ラストのまとめ方があまりに上手すぎてそこが私は好きではありません。
久しぶりに野島伸司が、素敵な脚本を書いてくれました。最後のまとめ方が上手くいきすぎているのは好きではないが、売れない漫画家と天才的作家と漫画家のこもり人の娘の出会い、話の始まり方は好きでした。脚本に世界観があって、それに合うようにタイトルバック、その音楽があり、素敵な若者たちが登場し、彼の世界がそこに広がっていた。ドラマとして面白かったとか次週が待ち遠しいとかなくても、ドラマ独自の世界があればいい。ドラマとは、そうやって観客を異空間に運ぶものだと思うから。
作品賞 シッコウ!! ~犬と私と執行官~
(tv asahi)
決め手は、一回も外さなかったこと。大森美香のシナリオを主演2人が見事に魅力的に演じ、笑って泣けるドラマになっていたこと。です。お決まりの音響もそれぞれの話のゲスト主役もありでした。板谷由夏演じる女社長や宮崎美子演じる大家がらみの悪ふざけはいただけなかった。
次点:初恋、ざらり
この素晴らしき世界
【初恋、ざらり】素晴らしかったです。悪いところは何処にもなく、最初から最後まで丁寧に作られている感じがした。【シッコウ!!】のように面白いドラマではなく、心の通った静かなドラマ。
【この素晴らしき世界】も脚本のところで書いたようにバランスよくラストまで作られていた。
3作品とも、1話から最終話まできちんと作られまとめられていた。
【18/40~ふたりなら夢も恋も】【ハヤブサ消防団】【やさしい猫】【家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった】は、楽しみな回もありました。でも…やっぱり決め手は笑ったり泣いたり感動したり…ですかね。
しかし、9月末から始まったNHK土曜ドラマ【遥なる山の呼び声】脚本:山田洋次 を見たら…
なんか久しぶりにドラマを見ている!と感じた! こんなに大量にいつもテレビドラマを見ているのにも関わらずだ! 初めから終わりまでずっと胸の中がドキドキザワザワしながら楽しめた。これがドラマだった…。セリフの行間とか、世界観とか、目の前のストーリー以外のものが溢れている。そういうドラマをたくさん見たいです。